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□バレンタイン(2015)
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今年こそは、今年こそはと、女子たちは準備を進めていた。
神楽もその中の一人だった。


「なんで溶かして固めるだけなのにこんなに難しいアルカ!?」


鍋に突っ込んだチョコレートは焦げた匂いをさせながら鍋にこびりついていく。
それを木ベラでかき混ぜる神楽はチョコ作りをなめてかかっている事が一目瞭然だ。
中学生まではチョコは作るものではなくもらうものだと思っていた。いわゆる友チョコという奴だ。


「本買うべきだったアル…」


チョコレートを買おうとした時、レシピ本を買おうかと考慮はしたが、もしかしたら同じ学校の人間がいるかもしれないと恥ずかしくてさっさとチョコレートだけを持ってレジに並んだのであった。

本当に渡せるのかな
こんなチョコ

2月14日まであと一週間、練習用に買ったチョコはあっという間になくなり、増えていくのは焦げたチョコのような何かばかりだ。
初めて告白しようと思った。その時にちょうど近づいてきたのがバレンタイン。高校一年生の神楽としては乗らない手はないと思えた。


「もうこんな時間だし」


時計を見るともう日付は変わっていた。
何度も作り直してみるがまず板チョコを溶かすところからうまくできない。
溶かし終われば型に流し込むが、試食してみると何か焦げた匂いのする塊が入っている。

さすがにこれを渡して告白は無理な気がする…。
渡す相手も、絶対茶化してきそうなやつだし…。

ずっと好きだった相手、沖田は神楽をからかわない日がないと言えるほど毎日毎日からかってくる。もしちゃんとしたチョコでなければ学校中に言いふらす事も考えられる。告白であろうとなんであろうとデリカシーのない人間なのだ。
前回繰り返したことと一緒だがまた焦げ臭いチョコをハート型に流し込み、早く固まるようにと冷凍庫に入れる。
鍋はタワシで洗って次はどんな風に作ってみようかと頭を悩ませた。

弱火でゆっくり溶かしてもダメだったし、砂糖入れてみたら飴みたいになって洗うのすら大変だったし…


「しょうがないネ…」


神楽は恥を忍んであることを決意した。

明日、聞いてみよう。
友達に作るって言えばいいし…!

次の日、学校に着くと真っ先に友達のもとへと近寄る。実際頼りにはなりそうにないが、今や藁にもすがる思いで走り寄った。


「姉御!ヘルス、ヘルスミー!」


「神楽ちゃん、それを言うならヘルプミーよ」


クラスメイトである志村妙は神楽にとって親友のようなもので言わなくても通じるものがあるような仲だ。
神楽がチョコを作りたいと言うと、ピンときたであろうが何も言わずに作り方を教えるために放課後に約束をとりつけるのであった。


「お前最近寝すぎじゃね?」


やっと3限目が終わった頃、隣の席の沖田から声をかけられる。
移動教室のため頑張って起きたが、神楽の意識は眠気にやられ朦朧としていた。


「んー、最近ずっと練習ばっかしてるから寝る時間がねぇんだヨ」


「は?何の?」


「チョ…じゃねぇ。プロレスネ」


「は?バカかィ?」


「うー…!全てはお前のせいアルヨー!?」


沖田からまたバカじゃね?と返されたがまさかお前のためにチョコ作りを練習してるなどとは言えず、うー、と唸り声しか返せなかった。
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