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□沖田誕生日(2018ver)
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付き合って初めての彼氏の誕生日、
やはりこういう時に愛は試される筈である。

沖田は真選組での誕生日会を酔ったフリで抜け出しとある場所へと向かう。
そこは神楽と打ち合わせをしていたワンデイマンションだ。

もう18にもなる神楽だ。さすがに料理くらい覚えたであろう。

そんな考え方がまずかった。

扉を開けるといい匂いが漂う。
これはケーキまで手作りのようだ。
1日貸切られた2人の空間に少しだけ安堵する。これは真選組といる時の安堵とは違う。


「て、なにやってんでィ!」

沖田の目にした光景は見るも無残な光景
すべてを神楽が食べ尽くしているところであった。


「うるせぇ!お前に神楽様の手作りごはんなんか100年早いアル!」

「じゃあなんで作ってんだよ!」

言い争いつつ沖田はどうにか神楽の両手を取り押さえて向き合う。

神楽はいっぱい食べたのにとても不満そうで、悲しそうに見えた。

そして残ったご馳走を見る。

「これはなんでィ。ダークマターか」

「うるさいバカ」

広がっているのは茶色の塊や茶色のドロっとしたもの。と便器が想像として浮かびそうなものばかりだ。

そして沖田はニヤリと笑う。

「恥ずかしかったのかィ?」

料理下手な彼女ね、と軽く笑う沖田に神楽は涙を浮かべそうな顔をして見上げる。
そして取り押さえられていた手から力がなくなった。

「どうせ姉御に習ったんだろ?」

「うん」

「それがダメ「だと思ったからちゃんと本読んで調べたアル!」」

そう言って床を見れば彼氏に作るお誕生日ケーキ!やら、お誕生日会のレシピ本☆彡.。やらが転がっている。

あ、料理に対して才能がなかったのか
と沖田が納得している横で神楽はしょんぼりと落ち込んでいるのがわかる。

「全部茶色ネ」

ブスくれたように言って沖田の手を振り払う。

「どうせお前んとこに飯あんだロ。それ食っとけヨ。私はこれを片付けるから」

そう言ってまた食べ始める神楽
側には下手くそな字で書いた『そうごお誕生日おめでとう』のチョコプレート

喜ばない、わけがない。
喜べない、わけがない。
好きにならないわけがない。
全部全部、好きになってしまうんだ。
しょうがないじゃないか、ずっと可愛いと思っていたんだから。
そして今も、抑え切れそうにないくらい、可愛いと思ってしまっているんだから。

沖田もフォークを手に取り1口食べる。

「んだよ、見た目悪いだけで美味いじゃねェか」

「それは当り前アル!この神楽様が作ったものが不味いわけないだろ」

「いや、絶対まずいと思って覚悟して食ったわ」

片手でポカリと殴られてから、なんだよ。と神楽の方を見ると、ポロリと涙を流していた。

「こんなの食べさせる気じゃなかったのに」


可愛いと言ってしまっていいだろうか。
そんな葛藤に襲われながら沖田は殴る手を握ってみる。

傷跡だらけだ。

苦笑いをしてみせる。

君を傷つけるつもりじゃなくて、ただの自己満足だったのに。
傷つけてしまった。
でもそれが嬉しい自分がいる。これで彼女はきっと自分との初めての誕生日会を忘れたりしない。
こんなに傷を作っているんだから。

歪んだ愛に身を任せて口に茶色い何かをつけた神楽にキスをする真似をした。

「こんな雰囲気でキスするつもりじゃなかったんだけどねィ」

「うるさいアル」

止まらなかった涙を簡単に止める魔法。それがキスのフリ。

「俺の誕生日に泣いて、俺の誕生日にひれ伏せ」

「意味わかんないアル」

意味わかんないのに嫌いになれない。
1口1口食べていく彼を好きだと思ってしまう。
時々むせる彼を可愛いと思ってしまう。
真選組から抜け出してここに来てくれたのを嬉しいと思ってしまう。
これをゾッコンと呼ぶのだろうか。
いや、そんなわけない。

涙なんか止まって彼にイタズラをしかけて笑わせる。

((少しずつ、花嫁修業、なんて…))

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