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□恋花火
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自分の余裕の無さに嫌気がさす。
花火大会の約束はドタキャンも同じだった。
せっかく久しぶりのデートだって思ったのに
浴衣を着て髪を二つではなく一つまとめて、お妙にきつけも髪も化粧もチェックしてもらって、約束の場所で待っていた。
彼は警察官で、転勤ばかりなため夏休みがずれ込んだ今日の花火大会が久しぶりの再会で、2人きりのデートのはずった。
しかしだ、やって来たのは彼氏である沖田を合わせ、野郎が3人女が1人
全員同期らしく4人だけで話は弾んで、まるで自分は居ないかのようにデートは進み、神楽1人、冷やしきゅうり、りんご飴、チョコバナナと屋台を片っ端から潰していた。
「同期の飲み会とか入れるわけないだロ。バカ」
居ないところで悪態をつくが、モヤモヤは晴れない。
髪も着付けも乱れている。そして心までもだ。どうしようもないくらいに何かを破壊したい衝動に駆られる。
付き合うって決めたの、あっちのクセに。
曖昧な告白と曖昧な返答で出来上がった関係性。そうであったとして、彼女だと紹介されるし、神楽であっても彼氏だと沖田を紹介する。
まだ、名前も呼べてないくらい、遠い
「こんなんなら行かなきゃ良かった!」
帰り道が1人であることを良いことにボロリボロリと愚痴を吐き続ける。
女の方は絶対沖田狙いだったし、男どもも私より女の方ばかりフォローして私のことほとんど無視だったし!もう!
心の余裕がどんどんなくなって締め付けられた帯とは別の場所が締め付けられる。
ギュッと、息がしづらくなるくらいに。
警察であってもチャラいやつはチャラいし?今どき二股不倫当たり前だし?
余裕がない。
自分の中で重くのしかかる。
沖田であれば、お互いマイペースに一緒に居られるなんて高望みしていた。
会いたくて素っ気なく連絡したり、でもさみしがってるってわかってくれたり?
そんな関係だと勝手に思っていた。誰にも取られないなんて勝手に安心していた。
「半年ぶりくらいなのに何アルカ!断りもなしに友だち連れてくるとか!常識なさすぎアル!」
どうにか自分を立ち直らせようと努力してみるが、どうも難しい。
ここはやっぱり直接かな…
そんなことを思い電話をかけてみるも、即効で拒否されたらしく、ツーコール目くらいで連絡が切られた。
腹が立ち、メールで簡単な別れの言葉を打ち込む
「もう関わってくんなストーカー。大嫌いアル!っと」
思ってもみないことを書いてそのまま送信。酔っ払ってなどいないのに、まるで酔ったような勢いでそのまま携帯をカバンに差し込み、帰りはお妙の家へと浴衣の脱ぎ方、クリーニング方法を教わりに寄っていくことにする。
つい何度も携帯を覗いたが、返答はなかった。
「姉御〜」
お妙の家について愚痴大会をしたのは言うまでもない。
そのままお妙の家に泊まり、朝起きてからの携帯をチェックするも返事はない。
充電切れてる?うん、たぶん、充電切れてる。
そんなことを思いながらも数分後には電話をかけた。
プルルルルルルと4、5コールした後、電話が取られる。
「沖田?」
おはようもなしに呼んでる。
「あ、すみません。総悟くん今シャワー浴びてるので、私が代わりに出ました。またこちらからかけ直させますね」
この声は完全に昨日の女の声である。
返事もせずブチっと消すと連絡先を消してプラスの着信拒否、受信拒否設定をする。
「神楽ちゃん、大丈夫?」
お妙が覗きに来て気づく
「なんで、泣いてるんだろ」
沖田は27歳のバリバリエリート警察官で、神楽は23歳のまだまだなOLで、付き合い出したのは大学の時だった。沖田が卒業する1年前に時間がもったいなく感じて何となく付き合い始めて今に至る。
こんなに、好きだったんだ
「泣いちゃいなさい。泣いちゃうくらいの恋が丁度いいものよ」
お妙はそう言って神楽の頭を優しく撫でた。
その時だ。お妙の携帯が鳴り響く。少しびっくりしつつもお妙がとると、新八だったらしく姉弟らしい会話が聞こえてきて、お妙が少し笑う声が聞こえた。
「神楽ちゃん、出かける準備しといて」
電話を少し話して神楽にそう伝えると、また新八と話し始める。
きっと失恋を慰める会でもしてくれるのだろうと、神楽は朝の支度を始めた。
お妙と約束の場所であろうところに着いた先は既に沖田が来ていた。
「あ、姉御!?騙したアルカ!!?」
ふいに振り返った時にはお妙はいつもの笑顔で神楽の背中を押す。
「言いたいこと、ちゃんと言ってきなさい」
そう言い終わると遠くで見ていたであろう新八と合流してさっさと人混みに埋もれていく。
「なんでお前の携帯繋がらねぇの?貧乏すぎて止まったんですかィ?」
嫌味ったらしい言い方は相変わらずで、でもその嫌味が少しだけ安心できた。
傷ついてたのに、変だ。
「着信拒否してるから、に決まってるだロ、ストーカー」
あの後、きっと電話かメールをしてくれたんだ。そう思っただけで、嬉しいと感じてしまうのはまだ惚れてる証拠だ。
「俺、そろそろ帰るんだけど」
「は!??」
突拍子もない告白に神楽はつい沖田に飛びついてしまう。
「な、なんでアルカ!?」
「いや、公務員の夏休みって短い上にほぼ休みとは言えねぇの。急に呼び出しとか当たり前なんでィ」
胸ぐらを掴んでいた手を振りほどかれてまたどん底に落ちたような気分になる。
昨日、無理にでも居たら良かった?
変えられない時間を思い出し、また、目の前の現実に落ち込む。
「じゃあ、これで、お別れネ。やっぱり、私とお前じゃ合わないアル。前から気づいては居たけど、ここまで致命的とは思ってなかったネ」
一言一言を噛み締めるように、脳内の思い出を出来るだけ遠くに追いやるように、神楽はその場を離れようとフラリと沖田から向きを変える。
「なんでそうなるんでィ!」
沖田から腕を取られるも、簡単に振りほどく。
その簡単さはまるで沖田が神楽にそれほどの未練がなかったかのように感じた。
「久しぶりに会えるってワクワクしてたアル。いつもみたいに振る舞えるかわからないくらい、ドキドキして、楽しみだったのヨ。それが私だけだったってわかったら、やっぱりもう終わりとしか思えないネ」
告白の時を思い出すような震え
これは本当に心の奥からの言葉
好きって言うの、すごく怖ったのに、お前はそれを薙ぎ払うように嬉しそうに笑ったんだヨ
付き合うって嬉しそうに答えてくれたんだヨ
あれを覚えてるのは神楽だけ。デートの時だけが神楽だけの沖田の時間だったのだ。
そんなものはもうないなら、神楽は沖田と付き合う意味などない。
「2人じゃなくても、会えただろうが!ちゃんと彼女って紹介したし…」
「私がお前の立場でやったらお前は見ただけで絶対帰ってたアル!」
遮るように言ってまた、止めてくれるのを待ってる。
馬鹿な女でいるのは、もうやめなければいけない。
何も言わずに歩き出す。沖田から止められるのを待ってる。それでも歩いて、歩いて、涙が頬をつたっていく。
足跡みたいに涙が下にこぼれ落ちていく。
好きだった。いや、今でも…