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□逆プロポーズ
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何年そばにいたのだろう。それでいて何年離れているのだろう。

神楽はよく友人の結婚式に行った際に思う。

今回は共通の友人の結婚式であったため、恋人の沖田とのテーブルは一緒であった。

次はお前らだって何回言われたんだ…

そして今回もである。二次会でそんな話をまたされて、2人別々に帰路に着く。
沖田に家まで送ってもらうなど、学生時代ですらあったのか記憶がない。
家が近かったため、帰り道に神楽の家がある時くらいだ。
今や別々に一人暮らしをしているため飲み会の帰りに家に泊めてもらう時くらいしか行き来はない。

付き合ってる…と言い張ってるだけ?かも。そんなことを思う神楽

ふと思い出したかのように携帯を覗き見る。

メールもラインも電話も、そうそうしない。最近したことといえば友人のご祝儀についてくらいだ。

付き合ってる意味!意味がない!

「恋人って何付き合うって何恋愛って何好きって何!????」

つい口をついて出る言葉。周りに人がいなかったことが有難かった。

しかし、しかしだ。
沖田のプロポーズなど想像もできない。
付き合うとなった時でさえめちゃくちゃだった。
それも何年前であろうか?ちょうど沖田がハタチになった時、神楽が16になった時である。
はっきり言うと完璧に襲われた。

でも、そんなに嫌じゃなかった。
もちろん、ハタチになったから大人にさせろのセリフは腹が立ったが。

それからだ、キスをしたりそれ以上をしたり。
1人が嫌な時に遊びに行ったり泊まったりご飯食べたり。
2人が恋人であることが当たり前のようになって、周りもそう突っ込まず、自分も深く考えずに恋人としてそばにいてきた…つもりだ。

プロポーズってもう還暦祝いとかになるんじゃネ…?

想像すると意外としっくりくる。
もうあれから10年も経とうとしているからだ。
沖田は30になろうとしているし、神楽も26。ちょうど結婚適齢期とも言えよう。

でもまあ…この歳なら代わりなんていくらでも居るもんな。お互いに…。

そんなことを思い、耐えきれずにスマフォをまた取り出して沖田総悟へと電話を掛ける。
携帯を見ていたのかそう時間も経たずに相手が出た。

「あ、神楽ちゃん?総悟の彼女の神楽ちゃん?」

出たのは知らぬ女の声で黙って終了ボタンを押した。

おうおう。なんだ、二股か。
彼女のってわざわざ言うってことは二股も承知で付き合ってるのか。
今時ってこわい。

そう思ったが、怒りが勝り沖田の家方面へと踵を返す。
そしてもう一度着信。[沖田総悟]の文字

少し迷ったが応答ボタンを押す。

「はい」

冷静に出ると相手はニヤニヤしているだろうとわかるくらいのテンションの高さでくる。

「大丈夫!私浮気女とかじゃないから!今日二次会であって久々だったからちょっと話してただけでーす!」

後ろではワイワイガヤガヤと囃し立てる声が聞こえる。

共通の友人と言えど相手は沖田と同級生だったのできっと同期だけで三次会にでも繰り出したのだろう。沖田の家へ行くのをやめて自分の家の方向へと振り返る。

「そういうのはどうでもいいアル」

嘘の言葉で誤魔化して心臓の音を落ち着けようと試みる。

「いや、神楽ちゃんって総悟と最近どうなの?」

こっちが聞きたいわ!そしてお前誰だ!
言いたい気持ちは山々だがなんだか負けた気がして言えずに黙る。

「…どうか、したの?」

周りが急に静かになるのが受話器越しにわかる。

「総悟と話したいんだけど、居ないアルカ?」

あ、あ、総悟ね!と変ろうとしてるのはわかるが誰かが沖田!沖田!と無理矢理起こそうとしてるのが聞こえる

「あー、そいつ日本酒何杯飲んだアルカ?」

「え?え、えーっと…」

「一定以上飲んでたらあと数時間は起きないネ。そっち行くから場所教えてもらっていいアルカ?」

自分も酔っていたが一気に冷めて大通りに立ちタクシーを呼び、言われた店へと向かった。
お店に着くとタクシーを待たせて中に入り、周りが土下座せんばかりに謝っているのをスルーし、慣れたように沖田を担いでタクシーに放り込む。
次は沖田の家を伝えて寝こけている沖田のいつも鍵を入れてるポケットを弄り鍵を取り出した。
そんなことをしようとも沖田は起きず、今のうちだと数回ビンタやゲンコツなどの暴力を加えておく。

タクシー代はもちろん沖田の財布から出してマンションへと沖田を担いで運ぶ。
部屋の中まで運ぶと面倒くさくなり首根っこを引っ掴みリビングのソファーに放り投げて水とエチケット袋の準備をする。

ほんっと30になってもこれかよ
と見下ろした顔は相変わらずの童顔で到底三十路とは思えない。

こいつじゃない別の奴にもこんな事する日が来るのか…

別れ話、なんてどう伝えていいか分からずに酔っ払いの沖田をじっと見つめる。

いっそのこと、別れるとかじゃなくてそのまま恋人を作ったほうが自然…?
だって、好きも付き合っても聞いたことない…
でも、今日の電話、すぐ浮気だって思っちゃったんだ。
それって、付き合ってるって少なからずとも自分ではそう思ってるてことで…

自分の心に区切りが付けられずにこのままではいけない。と思い直す。

「…チャイナ」

寝ぼけた目で沖田が神楽を見上げる。

「…起きた、アルカ?」

今回は早いな、と思うのもつかの間エチケット袋が活躍する。
そして水を飲ませてもう一度寝転んだ。

これはもう朝まで起きないかな…

次の日は休みだから良いのだが、と沖田のそばに座った。
ゲロった後でも気にせずにそばに寄り添い、肩に頭を預けてみる。

実際の距離はこんなに近いのにな…

「なんで俺家居んの?」

起きてたか、と頭を上げて寝そべる沖田へと振り返る。

「この状況でわかんだロ。お前が潰れたから私が回収しただけネ」

あー…と辛そうに返事をして身体を起き上がらせる。そしてゆっくりまた水を飲む。

「チャイナ」

甘えたような声でそう呼ぶ時は大抵キスをする時である。
…しかし、待てども待てども相手は来ない。眠そうな目で神楽を見ているだけだ。

「お前ちゃんと起きてるアルカ?」

沖田はコクリと頷いて目をこする。
その姿はかなり眠そうだ。

「今日で、この関係は終わりにしたいアル」

別れ話、なんといって良いかわからず曖昧にぼかした。

「…は?」

沖田の声に動揺は見えない。特に深く考えずに聞き直した時の声だ。

「だから、今この瞬間で、私とお前のこの曖昧な関係は終わりアル!」

お互いに良い人を見つけよう、と続けようとしたところで沖田が口を開く。

「プロポーズ?」

「はぁ!??」

動揺するでもなく意味不明な疑問系に神楽はエチケット袋(中身入り)を沖田に投げそうになるのを沖田の片手に止められた。

「曖昧な関係じゃなくて夫婦ってこったろィ?」

それはいつになく真剣な表情で、急に酔いが覚めたように見えた。
沖田はエチケット袋と空っぽになったグラスを持ち立ち上がりゴミ箱に袋を捨ててグラスにはもういっぱい水を汲む。
そしてそれを一気飲みし、流しに置くと冷蔵庫をあさり始める。
何をするんだと眺めていると小さな箱が出てきた。

何も言えずにいる神楽と何も言わない沖田。
箱をそっと神楽に渡す。

「お前が見つけたら渡そうと思ってたのに、お前が全然見つけないせいで5年くらい冷えてたんでィ。縮んでっかもな」

???と頭の上に浮かべてる神楽をよそに沖田は取り出した指輪を神楽の薬指にはめた。

「なんか…嵌められたアルカ?」

「上手いこと言うねェ」

「なんかお前がハタチの時を彷彿とさせる突然さネ」

「お、それもハメる関連」

腹が立って指輪をつけた方でグーで殴る。

お前は全然その気ないって思ってた。勝手にお前のサプライズにはめられて、嬉しくて、腹が立って仕方ない。なのに嬉しくて。

「もっと早く、わかりやすいところ…入れとけヨ…。バカ」

それは神楽にとって承諾の言葉で、愛の最高潮で、そばに居たんだってやっと気づいた言葉であった。

「てか今殴られたところ以外に頬もいてェがお前何しやがった」

「あ、謝らないアル!謝らないアルヨ!」

そのまま神楽は酔っ払いに襲われるのであった。







「…これで朝覚えてなかったら殴るからナ」

「どんだけ結婚したいんでィ」

「お前マジで腹立つ」

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