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□真っ直ぐ君を見つめて
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好きなものは好きと言えるような若さはまだ持ち合わせているはずなのに

沖田は思う。
こいつに好きなんざ言う日はこねぇ、と。

聞かれずとも恋愛を語りだす近藤から言われた言葉が昨日から頭を離れず、周りなんて見ずにパトロールをする。

若い時はあの娘はあの家の子だからとか、仕事場だからダメだとか考えるもんじゃないぞ、まあ、今でさえ俺は考えてない。お妙さんが好きだ。

そんなどうでもいい近藤の価値観を押し付けられるのだ。

飲み会なんてするもんじゃねぇな。

そんなことを思いながら酔いに任せて土方をめちゃくちゃにして少しスッキリしている。


「定春ー!そんなもん食べちゃだめアル!絶対お腹壊す!!!」


そんな声が聞こえた瞬間、沖田は目の前が真っ暗になる。


「生、温かい…?」


そしてドロンと液体が頬を伝った。
確実に沖田の頭は定春のお口の中である。


「八つ裂きにはしても良いけど食べるのはなしアル!定春がサド春になっちゃうアル!」


「よし、俺がお前を八つ裂きにしてやらァ」


カポン。と上手い具合に口内から抜け出すと刀に手をかけて神楽に狙いを定めた、その時だった


「て、お前その格好なんでィ」


いつもは動きやすそうなチャイナ服なくせに今日はいつかのエンディングのようなひらひらの白いワンピースを着ている。
そんなこと突っ込まずに叩き切るのがいつもの沖田だが、昨日のせいか勢いが止まった。


「何アルカ?美少女を前に動揺してるアルカ?税金の無駄遣い給料泥棒クソサド野郎」


「名前長くね?」


そんなことを突っ込みながらマジマジと全身を眺める。
有無かで言ったら?


「や、なんつーか」


有りだけど…。
素直に伝えることもなくどこを突いてやろうか考える。


「すげえ動きづらそうでィ」


そして勢いよく斬り込んでいった。
もちろん神楽も負けることなく持っていた傘をさしたままその刀を受け止める。


「ふぅん?アグレッシブなナンパ法アルナ」


そう言いながら刀を傘で払う。


「残念ながら、お断りアル。お前みたいなクソガキはそこらへんで早めの熱中症起こして日陰で寝るが良いアル」


「優しいような優しくねぇような提案だなオイ」


沖田も刀を腰に差すと、また近藤の言葉を思い出す。

周りなんか気にせず、勢いだけで…


「チャイナ」


呼んでからやはり少し怯む。

若さだけで乗り越えられるもんか?これって


「何アルカ?」


「そこの喫茶店であんみつ食べるって提案は?」


はぁ?と何かを疑うような顔をしつつよだれはしっかり見え隠れしている。


「もちろん税金泥棒のおごりでィ」


「よし、定春待て。気分が変わらないうちに行くアル!」


意外と若さだけでいけそう。

喫茶店の中に入るともう冷房が入っていて良さそうなテーブル席へと通される。


「デスあんみつ2つ」


適当な注文をしてからルンルンとしている神楽を見やる。

これをもし他人から見たら…


「デートだな」


「はぁ!?????」


「あのデブとブスのカップルでィ」


「豚の散歩の間違いじゃねーの?」


見た目にそぐわぬ暴言を吐きながら、神楽は最初に出されたお水の氷をガリガリと食べている。
沖田はと言えば、見た目には出てないがかなり緊張をしていた。

勢いだけで?若さだけで?
若いからこんな訳あり女好きになってんじゃねーの?

もう自分の気持ちを否定することに諦めはついたようだ。


「お待たせしました〜デスあんみつでございま〜す」


若い従業員に運ばれ、大きく真っ赤なパフェが2つ並ぶ


「おい、まじで良いアルカ?後からなんか言ってもしらねぇからナ!」


そんなことを言い終わらぬうちに神楽はあんみつをカプカプカプと勢いよく頬張る。その姿はリスのよう…に可愛くはない。

後からなんか言ってもしらねぇのはこっちでィ
バーカ

そして1秒もまたぬ間にブフォー!!!と神楽がいろいろと噴射した。


「これはあんみつじゃ、なひいいいいい!!!!」


さきほど飲み干してしまったお水はない。しかも不親切な二杯目からはセルフサービスタイプだ。ゲッフォゲッフォと吐きながら神楽は水を取りに行きその場で一気飲みを3回ほど繰り返した。

それをニタニタと見ながら、沖田は普通に真っ赤なデスあんみつを食べる。

「デスって着いた時点でわかんだろ、バーカ」

なんて暴言を吐きながら。

いつもの荒っぽい行動だってこんなひらひらワンピースじゃただの可愛い子のおバカ行動で、沖田にとっては見飽きない愛玩動物のようだ。

勢いで告白?
いやいやそれはさすがに無理だろ
ナシナシ

否定しつつも、ドキドキしてる。

何で俺だけ、こんなに言葉に振り回されてるんだ

嫌になったり、嬉しくなったり、忙しい。


「お前よくそんな頭おかしい食べ物食えるナ」


帰ってきた愛玩動物は、手に持てるだけの水を抱えている。


「身内がこれ好きだったんでィ。付き合いで食ってたらハマった」


「やっぱりお前みたいな野郎の周りは頭おかしい奴ばっかりネ」


「否定はできねぇな」


辛い辛いと言いながら神楽も食べだす。そんな姿に洋服のせいかやはり、可愛いと思ってしまう。

うん、やっぱり洋服のせい。本当、絶対洋服。
じゃないと、
本当に告白まで流れてしまうかもしれない…。
なんて、な。


「ご馳走様ネ」


「食ったな」


「あ?」


「これからちょっと付き合え」


沖田的に自然な流れで神楽を連れ出す。
もちろん大きな犬も一緒に。

それでも良い。並んで歩くだけで、何かが縮まった気がしたんだ。


「どっか行きてぇとことかねぇの?」


「…お前、死ぬアルか?死亡フラグアルカ?」


「まあ今既に立ってらァ。若さゆえってな、意外と本当かもな」


「あ?なんかよくわかんないアル」


疑いぶかい目を逸らして、また新しいお店を指差す。


「あれは?パスタ。甘いもの食ったら塩いもん欲しいだろう」


んー?なんて疑いながらも食につられてついて行く。
そしてもちろんのことである。


「ウルトラタバスコパスタ2つ」


「おい!また辛いものかヨ!」


「大丈夫でィ。ここのあんまり辛くねぇから」


そう言って出てくるものはやはり通常の5倍は辛いナポリタン
ケチャップと見せかけてタバスコパターンである。


「もう無理アル!甘いの!甘いのが食べたいアル」


そう神楽が言いだした頃にはもう、屯所に戻らなければいけない時間帯。

沖田は大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。


「続きはまた今度、な」


そう言ってそこら辺のパトカーを捕まえようと通りへと出て行く
それを後から追うように神楽も通りに出た。


「なあ…」


「今度はもっと、身体動かすことしたいネ」


唐突のお誘いについ動揺してしまう
今の沖田から神楽を見れば、完全にデートのお誘いなのである。


「わかった。考えといてやらァ」


そんなことを言いながらちょうど通りかかったパトカーに乗り込み神楽から見送られる。
いつもとは違う素直な笑顔で、またなって口パクで伝えてきた。

はいはい。って流すように手を振って車は走り出す。


「やっと勇気出たんですか?」


「うるせえバカ」


若い時は勢いだって、悪くないかも。
ワクワクしながら今度のデートを考える。

あ、てか何であの格好だったんだ?
その全貌はわからず、また後半へと続くのであった。

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