SS4

□すきなひとと。
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どこ行こう?なんて言っていたくせに沖田は神楽を連れて意思があるように歩き続ける。それも見慣れた道である。
そう、いつも戯れるサボり場だ。


「またいつものところアルカ?昼ならまだしも夜は相当寒いアルヨ?」


「いつものとこだけど用事済ませるだけでさァ。まあ黙ってついてこいよ」


面倒くさくなったのかベンチに放り投げるように神楽を下ろすと、草むらをガサゴソとあさり始める。


「何やってるアルカ?落し物でもしたのかヨ?」


そう問いかける神楽には見向きもせず、沖田は何かを探していた。
そして何か見つけたらしくまたもやそれをベンチへと放り投げる。


「スーツケース?」


「それ、着替えでィ。寝巻きだったらさみィだろィ」


神楽は、は?と気の抜けた返事をしてから沖田を見やる。


「お前、急に拉致ったかと思ったけど、用意周到アルナ」


「お前こそ急に拉致ったけど、無防備過ぎじゃねェの?」


脳みそ平和ボケしてんのか?ああ、元から腐ってんのか。とダブルで嫌味を言った沖田だが、神楽がスーツケースを開けようとすると口を塞いだ。


どうせお前のことだから趣味悪いのはわかってるアルヨ、期待してねェからそんな緊張すんな。なんてぶっきらぼうなことを言いつつ目はすごく輝いているのが一目瞭然だ。
だからこそ、沖田の胸はチクチクと痛む。

ガチャっと鍵の外れる音がして神楽が洋服を取り出す。


「ちゃんとチャイナ服アルカ」


意外とちゃんとしてんじゃねェか。とツッコミどころのなさに戸惑いながら服を取り出す。
中に入っていたのは大人の女性が着るような長いスリットの入ったチャイナ服で、袖はフリルが施されていたり、少し振袖部分もついていたり、胸元にも細やかなレース細工をこらしたいわゆる漢服と呼ばれるものに似ている。
神楽はそれを初めて見たようで、目を輝かせたまま、沖田には悟られまいとニヤける口元を必死で堪えていた。


「まあ、デザインはまあまあだけど、お前がどうしても着てほしいって言うなら着てやるアル」


とても着たそうでウズウズしているのは見ただけでわかりやすい。


「どうしてもっちゃ言わねェよ。なんなら俺が着てやらァ」


「は?この服お前には勿体無いアル!じゃなかった…この服が私に着てほしいって言ってるアル!だから着てやるアルヨ」


おちょくる沖田に簡単に乗せられた神楽だったが、そそくさと公衆トイレの方へと歩いて行った。

その数分後、沖田がホットの缶コーヒーを手にしている間にぴょこぴょこと神楽が嬉しそうにかけてきた。


「…あまりに私が美少女過ぎて言葉もないアルカ?」


何も反応しない沖田に神楽は首をかしげる。
しかし沖田はもう一度足から頭までを撫でるように見るとニヤリと笑った。


「本当にそんな状態かもな」


洋服は速攻で選べたものだったが、靴や小物に至るまで、沖田はかなり苦労して選んだものであった。値段などは気にせず神楽に似合うもの、洋服に合うコーディネートなど、さすがにわからないことが多すぎてとても苦労したものであった。
それだけのことをした甲斐があったと、一目で思えた。もはやもう沖田にはストッパーが消えたかのように、神楽を抱きしめた。


「おい、お前ここどこかわかってるアルカ?」


キスをしようと顔を寄せたところで神楽からの反抗的な言葉が飛び出してきた。


「わかってらァ。お巡りがするこっちゃねェってことくらい」


そう言いながら寸前で止める。


「でもやっぱ、我慢できねェ」


そう言って一回キスをした。


「18歳未満に手を出すとか犯罪者アルヨ?」


「それはちょっと思ったけど、お前が黙ってりゃ良いんでィ」


暗くてはっきりと顔色は見えないが赤く染めているであろう頬を両手で包み込む。


「それに、一回で抑えとくから、これくらい許せ。じゃねェと本当、苦しいんでィ」


そんなことを言われれば神楽の心臓だってドクンドクンと大きな音を立てる。


「我慢しなかったらどこまで行っちゃうアルカ?」


「それは大人に聞くもんじゃねェ」


「もう1個年取るアル!」


「成人までまだまだだろうが、クソガキ」


「お前だってまだネ!」


沖田は歳で思い出したらしく咄嗟に公園の時計を見上げる。


「あと1分」


沖田がそう呟いた時にカチリ、と時計の針が動いた。


「誕生日、おめでとうございます」


冷たく言ったようだが、熱い視線は真っ直ぐに神楽へと注がれている。


「ありがとうございます」


あはははは!とお互いに噴き出すように笑いあって、手と手を指先を、絡めあう。


「好きだよ」


気持ち悪いってわかってる。
こんなのらしくないってわかってる。
これが恋愛なのかすらわかってないんだ。

だけど、こんなあやふやな関係を、隣に居られる未来を、信じている。

今度こそどこへ行こう?なんて話しながら、2人はゆっくりと公園を後にした。
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