SS4

□アメシトアンブレラ
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軒下まで出て空を見上げる。
落ちてくる雫は風に煽られてこちらへと襲いかかってきた。

沖田は、はぁーとつまらなそうにため息を吐いて
土方はタバコの煙を吐き出した。





梅雨に入ればパトロールが嫌になる。こんなに雨が降れば地面が最悪だからだ。
しかし、屯所の中に詰めているのもジメジメしてなんだか空気がうざったくて、シトシト落ちる雨の音にイライラする。
外に出るのも中にいるのも嫌な季節だ。


「おい。平山、車出せ」


ただの巡回だというのに部下に車を手配させる。

上に就くっていうのはこういうこと、それが嫌なら俺を消してでも這い上がってくりゃいいんでさァ

なんて、無茶苦茶なことを頭の中で呟いた。

部下の車に乗って雨の降る景色を流し見る。
こうやってみれば窓に伝う露の流れが少しだけ面白い。
雨のつぶつぶの向こうに人がいるせいで露の色が変わるのも、なかなか乙である。

なんて、ただの暇人が思うこと…だろうか?

つぶつぶの向こうが急にピンクに染まる。
そのピンクに釣られるように窓の向こうを覗いた。

やっぱり、アイツだ。

車を止めるように指示し、ちょっと出てくる、と傘も持たずに車から飛び出す。

こんなん、アイツのこと好きみたいか?
いや、好きじゃないから勝手に勘違いされてもどうもないけど。

そんな自問自答しながら、沖田は彼女の大きな傘に無理矢理入りこんだ。


「あー、お前のせいで濡れた、クリーニング代出せ」


「うわっ!急に入って来といて何アルカ!?」


神楽が驚いたところで隙をついて傘を奪い取る。


「ちょっ!返せヨ!私の傘!」


「お前がチビだから俺の身長に合わねーんでィ」


「知らねーヨ!勝手に入って来たんだロ!」


そんな押し問答をしながらも、結局傘は沖田の手に握られたまま2人目的もなく歩き出す。


「雨ばっかでつまんねんでィ。外で昼寝もできやしねェし」


「それはこっちも一緒アル。雨のせいでろくに定春の散歩も行けてないアル」


「それペットDVじゃね?はい逮捕ー」


「暇だからって善良な市民逮捕してんじゃねェヨ」


グダグダと喋ってる間にいつの間にか小洒落た店の並ぶ一角までたどりつく、そこは今流行りのものばかりのせいか神楽と沖田には似合わない雰囲気だ。
横切っていくのは若い女の子か、カップルばかりである。
一組のカップルの彼女の方が沖田と神楽の方を見て彼氏に語りかける。


「私も傘忘れてくれば良かったー。そしたらゆうくんと相合傘できたのに」


ちょうど沖田と神楽の耳にも入り、2人無言の気まずい空気となる。


「傘、買ってこいヨ。そこ売ってるアルヨ」


「嫌でィ」


「は?こっちだって嫌アル!お前みたいな奴と相合傘とか最悪ネ!」


「お前とカップルと思われたのも嫌だけどここで傘買ったらなんか負けた気がするんでィ」


「お前はいつも何と戦ってるアルカ!そんなんどうでもいいからさっさと私の傘から出てくヨロシ!」


カップルと思われた。
内心2人ともここに動揺していた。まさか、相手のことを恋愛感情で見てた覚えはないが、というか絶対ないしこれからもない!と断言したいところだが、そう言い訳をする相手も居ないし、何故そこまで断言したいのかさえわからない。
これが双方の心情であった。

やっと小洒落た繁華街を抜けて足は屯所へと向いているようだ。
神楽もさっさと沖田から傘を回収したいし、沖田もさっさと屯所に帰りたいらしく2人の意見はまあ、一致したことになる。


「雨、うざいアルナ」


沈黙に耐えきれなかったのか神楽が呟く。


「うぜェな」


ゴツゴツと時々ぶつかる肩や、手の甲を意識しないようにしようとすればするほどぶつかるばかりだった。


「でも、ちょっと嫌いじゃなくなったぜ」


「?」


神楽の頭の上の疑問符に沖田は少しだけ笑いが出る。
いつもこんなに素直に感情を出してくれたら可愛く思えるのかもしれない。


「いつもはできねェこと出来るってわかった」


沖田がそう言った直後、神楽はそれの意味を理解した。


「お前、今さっきから私を水溜りに追い込もうとしてたのも、傘がちょっと傾いてうまいこと私の肩に雫が落ちるのも、全部計算だったアルカ…」


「へっ、どうかねィ」


したり顔の沖田に神楽は殺意が湧いたが我慢をして、
不意をついて傘だけを奪い取ると駆け足で屯所とは逆方向に駆け出す。


「ほんっとお前最悪アル!濡れて帰れ!バーカ!」


そう言い残してまた駆け出していってしまう。沖田はそれを雨に濡れながら見送る。


「何してんだろう」


嫌いな雨に濡らされているのに、口角は上がっている。
自分でも気持ち悪いと思うくらい、ニヤニヤしてしまっている。たぶん。鏡を見なくてもわかる程度にニヤニヤが止まらないのだ。


「雨、降れ」


そんなことを呟きながら空を見上げた。
雫は喜んでいるかのように風に揺られて舞い上がり、重力に負けて降ってくる。
顔全体に雫が落ちて目の中にも入ってしまったりして、それでも、今の楽しい気持ちは変わらなかった。

もっと、降れ

そしてまた、

この雨の中で…。

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