SS4
□アイの****
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どこからを恋と呼び、
どこからを愛とするのだろう。
そんなこと考えたことなかった沖田だったが、自分の心に少しだけ気づいてから時々この疑問が頭をよぎるようになった。
「愛とか恋とか…」
意味わかんねェと言おうとしたところで何か長い棒のような物が沖田の方へと飛んできた。
気づいたのは遅かったがどうにかそれを避けると、投げられたものがなんだったのかと振り返る。
「傘って…」
最初はでかいバッドか何かと思った。どうせ攘夷志士の連中だろうと思っていたのだがそれは見当違いだったとそこで理解する。
「避けんじゃねェヨ、バーカ」
よく通るこの高い声にイラつきを感じる。
まあ、そんなにピリピリしたところで
「お前の投げ方が下手くそだったからな、意外と余裕で避けられたぜ?」
彼女を冷やかすなら関係ない。
傘を拾い上げて慌てたように傘を広げる。
「自分を犠牲にしてまでお前にダメージ与えてやろうとしたのに!無意味だったアル!」
この時期意外と日差しきついネ…と手で自分を扇ぐ彼女の首筋の汗に視線がいく。
そういう意味でしか見れなくなってきてるし…
思ってた以上に好きらしい。
以前まで沖田はハチャメチャな神楽にイライラしてばかりだった。しかしそれはイライラではなかった。
考えてみれば最初から沖田は神楽を見たときから、どこか自分の中が騒ぎ立てていることをわかっていた。それをいつもの土方を見る時と同じイライラだと思ってきたが、違った。
「じゃあ、変なちょっかいかけずにちゃんと差しとけよ、倒れられて困るのはお巡りさんの俺なんでィ」
「はぁ?どうせ倒れても素通りすんだロ!お前はそういう奴アル!知ってるアルヨ?」
別にどうしたいとかどうなりたいとかじゃない。
彼女が楽しそうならそれが一番と思える。
…確かに下心が少しもないと言えば嘘になってしまうけれど、
「救急車呼ぶくらいはしまさァ、職務中なんでね」
嘘だー!などとギィギィ喚く彼女の姿でつい笑みが浮かんでしまう。
それくらい沖田は重症だった。
今日も元気そうで何より。
なんて思えてしまうんだから、これはきっと恋ではなく愛?
「神楽、急に走り出したと思ったら沖田くんだったの?」
神楽がかけてきた方からノコノコと面倒くさそうな銀時が歩いてくる。
それに嬉しそうに神楽はかけて行き飛びついた。
「銀ちゃん!こいつマジ最悪アル!」
ありもしないことを捏造して語る神楽に銀時はめんどくさそうに引き剥がす程度で話なんて一切聞いていない。
適当に話の途切れ途切れにあっそう。と相槌を入れるくらいだ。
「じゃあ、俺巡回中なんでもう行きまさァ」
適当にその場を濁して立ち去る。
今日の繋がりはこんなもんか、と腹の中を落ち着かせる。
「なんでだろうな」
誰も聞こえないように独り言を呟く。
トコトコと自分でもわからない方向へと足は向いていた。
後ろの二人の会話が聞こえないようにイヤホンまで付けて手持ちの音楽プレーヤーの再生ボタンを押す。
聞こえ始める落語家の言葉は頭になど入ってこなかった。
本当に、彼女が幸せならそれで良いと思えるのに
彼女と戦って傷だらけになっても、笑ってくれるなら怪我なんてどうでもよくなって、
ただ見守ってるだけで良いってそれは嘘じゃないはずなのに
「……嫌だ」
とうとう抑えきれずに唇から溢れた。
彼女の隣が自分じゃないのは嫌だ。彼女の視線の先が自分じゃないのは嫌だ。
どうしようもできないことだと知っていながら、それでも嫌だと脳みそがパンクしそうになる。
これはやはり恋…?
愛はあんなに安定しているのに、恋はどうしてこんなに不安定なんだろう。
愛しているだけで満足できたなら、こんなに面倒くさい嫉妬なんてしないのに。
嫉妬なんて打ち消したくてブンっと勢いよく横を見るように首を振ればそれの反動でイヤホンまでポロリと耳から抜けた。
そしてその瞬間耳の横をまた棒状の何かが飛んでいく。
「また避けやがったナ!」
目を丸くさせて振り返ると神楽がまた急いで投げた傘を拾いに行く姿が目に入り横を通り過ぎる時とタイミングを合わせ足を引っ掛ける。
見事に神楽はそれに引っかかり顔面から盛大に地面に落ちていった。
「何俺の足蹴ってんでィ」
わざとらしく語尾を伸ばし、地面から睨み上げる神楽に嫌な笑みを浮かべてやる。
「お前が出してきたんだロ!」
ギャンギャン騒ぐ神楽を置いて沖田は飛んで行った傘を拾いに行き、まるでお姫様へ手を差し伸べるように膝をつき神楽に傘を差しかける。
「コントロール、すげェ悪ィな」
きっと影絵であればこれは綺麗な映像だった。本当に、王子様がお姫様を助けるような、そのような情景だった。
「お前が急に想定外の人外みたいな動きするからネ!」
「んな動きはしてねェ」
してたしてたと騒ぎながら差しかけた傘を乱暴に受け取り走って銀時の後ろを追いかけて行く。
本当に些細なこの騒ぎが、沖田の充実した時となる。
愛なのか恋なのかわかるわけない。
見えるものではないから。
当たり前の言葉が頭に浮かぶ。
知ってるよ、でも知りたい。
もっとチャイナと関わってみたい。
心の距離を少しだけでいいから詰めたいんだ。
そしたら、そしたら…
独りよがりの願い事。
そしたら、自分が生きていると実感と思うんだ。
彼女と居るだけで全てが充実しているように思えるんだ。
ジッと見つめていた神楽の後ろ姿はとうとう銀時へとたどり着きその勢いで銀時の背中に飛び乗る。
モヤモヤしたものが腹の真ん中にあるのがわかる。
でも、これが最初で最後の恋だとわかってる…。
伝えてしまったら、近づき過ぎたら、今の仕事がやっていけなくなるだろうから…。
「好き」
一生誰にもたどり着かないこの声は春の風に掻き消された。