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□ホワイトデーと思った?
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凍えるような風に吹かれて今日も街の巡回中。
道端で危険物を発見した。


「なんでこんなとこに粗大ゴミがあるんでィ」

「誰が粗大ゴミネ!か弱い少女…、アルよー」


セリフの後半は冷たい風に吹かれてブルブルと震えているのがまるわかりだった。


「2月ってこんなに寒かったアルカ」


ガクガクと膝は笑っていて、誰が見ても薄着の神楽は暖をとるために沖田の隊服の下へ手を差し込もうと沖田に近づく。
それに気づいたのか沖田は神楽から一歩離れる、が神楽は容赦なく手を差し込み沖田の地肌に触れた。


「っつっ、つめたすぎでィ」

「寒い」

「こっちのがさみぃ」


気怠げに神楽の手を振り払い、進行方向へと向き直る。
神楽との戯れは必要ないものと判断しただめだ。


「おまわりさん」


それを膝を笑わせている神楽が引き止める。

が、
沖田は振り返るそぶりなどない。


「おい真選組」

「お前の相手するだけ無駄って気づいたんでコタツでみかんでも食ってくらァ」

「仕事しろヨ」

「屯所警備も立派な仕事でィ」


フンッと軽くあしらわれている神楽は誰が見ても少しかわいそうだ。
それは今日がバレンタインのせいだろうか。


「なあ、ここに飢えに耐えきれなくなった市民がいるんだけど助けてくれないアルカ?」


ギューっとジャケットの裾を引っ張り続ける神楽。
その馬鹿力に、無理に抵抗すると隊服ごと破られてしまうとわかったらしく、沖田はやっと振り返った。


「腹空かせてんならおまわりさんじゃなくて家族に言いなせェ。保護者いんだろ、あの天パが」

「給料全部飛んだアル」

「ああ、半ニートみてぇな生活してりゃそら給料もすくねぇだろうしな」


なにもしないぞ、とでも言いたげに神楽を見下ろして警戒する。


「お前は定職ついてんだロ!だったら少しは可哀想な市民に恵むのもアリアルよ!」


「ちゃんと税金納めてる奴には恵むかもしれねェなァ」


絶対どんな奴にも恵みはしないだろう表情を浮かべ、棒読みのセリフを読む。
そんな沖田に神楽は諦めた様子はない。


「お腹減ったアル」


ギュルルーグルグルゴゴゴゴゴとお腹から普通は出ないであろう音をたて、沖田から手を離さない。

沖田はそんな神楽に根負けしたのかハーっと浅いため息をついた。


「お前が俺の奴隷として働くってんならなんか配給してやってもいいけど?」


「奴隷にはならないネ!バカじゃないアルか!?」


「酢こんぶなら今持ってたかもしんねェ」


「やるアル!」


そんなこんなで簡単に釣られた神楽は早速酢こんぶを1枚もらいゲジゲジと噛みながら沖田の後ろをついて歩く。


「どこまで行くアルか」


やってきたのは見たこともないような外れだ。
歌舞伎町と比べ自然が生い茂っている。

返事をしない沖田の背中を見ながら、どうせサボり場なんだろう。と聞くのを諦める。


「ついたぞ」


やっと沖田が振り返った時、その先を見ると小さな小屋があり、なにやら沖田は小さな鍵を握っている。
鍵を開けてからはさっさと沖田だけが入ってしまい、閉められる前にと神楽も急いで中に入る。


「コタツにみかんにテレビとはなかなかセンスが良いアルな」


外観はボロボロだが、中身は立派な部屋だった。
電気ガス水道全て通って居そうなワンルームである。

何も言わずに沖田はコタツに入り、ラジオをつけ落語を聴き始めた。

そこはテレビじゃないのかよ、とツッコムところだったのかもしれないが、何も言わずに沖田を見やる。


「で、私は何をすれば良いアルか」


「…愛玩動物になれ」


「は?」


言葉の意味は理解できないがとりあえず寒いのでコタツに入りミカンを食べる。
沖田もそれに合わせるようにミカンを食べ始めた。


「俺を癒せって言ってんでィ」


ふてぶてしい顔でミカンのカゴを自分の方に引き寄せ、神楽がもう一個とミカンに手を伸ばせばそれを払いのける。

しばらく攻防戦が繰り広げられたが結局神楽はミカンをゲットすることはできなかった。

癒せと言われてやることもわからず神楽は沖田の肩叩きを始める。


「やめろ、肩壊れんだろ」


「それ銀ちゃんからも言われるアル」


沖田は嫌そうに肩を振り払うと軽く腕を回して神楽の方へ振り向く。


「やっぱりお前はミカンでも食ってろバカ力が」


カゴごと渡されたら神楽はそれは得意分野!とでも言いたそうに目を輝かせコタツに入ると高速で皮を剥き始めるのだった。

誰かと2人でコタツでみかんなんて、いつ振りなんだろう。
今は亡き家族を思い出しながらコタツに惹き込まれるのであった。

みかんがカゴからなくなりそうになってやっと沖田の方を見やる。
いつもは腹立つ顔ばかりしていたが、そこにあったのはただの少年の寝顔だった。

何かを抱えて辛くなったかのように丸められた背中は悲壮感が漂っている。


「なんで私がお前について来たか、教えてやろうか?」


返事は返ってこないのを知っていて尋ねる。
そしてそこら辺に転がっていたマジックを手にするとミカンに文字を書いた。

眠る沖田に添うように神楽もいつの間にか眠った。

パチリと沖田が目を覚ました時には隊服は神楽の唾液でベトベトになっていた。

目の前に置かれたミカンにはハッピーバレンタインの文字、下手くそな字に下手くそな文字間隔、大きさに一瞬なんて書いてあるのか悩んだがなんとか読めた。


「このミカン俺のだし」


ふっと笑いながらそのミカンは食べないようにと棚の上へと除ける。

そしてそっと内ポケットから板チョコを取り出してマジックで文字を書く。
それを神楽が起きるまで神楽の真ん前に置いて自分はトイレへと移動する。

最初からさっさと渡しとけば良かった。

少しでも一緒に居たいと思ったけど…、それもどうやって過ごして良いかわからず、さっさと渡そうと思っていても勇気が出ず、
てか、まず、バレンタインを渡すのは俺からじゃないハズなのに!

沖田が立ち上がった頃、神楽はカクンっと頭のバランスを崩して目を開ける。
目の前には『義理』と大きく書かれた板チョコ。
クスッと笑ってチョコを食べ始めるのだった。






「おい、せっかく書いた義理の文字のとこビリビリに破けてんじゃねェか」

「ようはお前の気持ちよりチョコが大事ってことアル」

「なるほどな」

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