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□安定な不安定
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神楽と沖田は不思議な仲であった。


「じゃーね、お二人さんイチャイチャし過ぎて人に迷惑かけんなよー?」


友人たちとの集まりの最後は必ず沖田と神楽、セットで送り出される。
それはもう当たり前のことで、神楽も沖田も不自然な動きはなく素直に集団から離れて帰路につく。


「ゆーちゃんと最近仲いいんだってナ」


2人きりで話すことに気ごちなさもない。当たり前すぎて自然に寄り添うように歩いていた。


「あー、仲川さん情報だろ?なんかチクるぞって脅してきたんでィ」


「チクるってなんだって話だよナ」


軽く笑ってその場を濁すと本題に入る。


「あいつらにいつ言おうか」


最初に口を開いたのは沖田だ。
それに合わせるように神楽も視線を向ける。


「言わなくて良いんじゃないアルか?お前が不都合があるだけなら別にバラす必要ないネ。むしろこのままの方が私は楽アル」


「まあ俺もそこまで不都合ねェけど」


お互いに顔を見合わせる。
不都合は本当にない。周りの勘違いを教えてあげるかあげないかのただの世話焼きのようなものである。


「私はー結構モテるからナー彼氏がお前って思われてるのはちょっと屈辱だけどまあ魔除けくらいにはなるアル。結構彼氏として使うのも便利ネ」

「まあ俺においてはお前って言う彼女と勘違いされてるゴリラがいるのにファンクラブあるけど」

「ゴリラじゃねェヨ」

「ゴリラが彼女って思われてるから他の奴がいじめのターゲットにならないっていう学校への配慮くれェにはなってんだろ」

「ゴリラゴリラ言ってんじゃねェゾ」


ツッコム神楽を沖田は面白そうに笑う。会話さえ聞こえなければカップルの痴話喧嘩のようで微笑ましいカップルだ。
どちらも美男美女でお似合いなのは言うまでもない。

「まずお前が女作らなきゃファンクラブもなんもしてこないだロ」


しれーっと突っ込んだが沖田はそれを完全にスルーして歩き続ける。


「私は別に彼氏とかいらないけどお前寂しがりだから無理アルな」


カマをかけるように言った言葉に沖田は簡単に引っかかってしまう。


「寂しがりじゃねーし」

「一人でマック入れないくせに?」

「ぼっちマックはキツいだろ!できなくて当たり前でィ!」


ふーん、とバカにするように笑って相槌を打つと沖田もニヤリと笑い何か思いついたように口を開く。


「寂しがりっつったらお前の方だろ、前だって追試一人嫌だとか言って俺にも受けさせたくせに」

「それはお前だって追試ギリギリの成績だったから!受けて当たり前だっただロ!」


高校生なんてものはノリで生きてるような生き物でそうやって二人で過ごしただけで付き合ってると囃し立てられるのであった。

それはそれで居心地が良くなって結局誤解を否定することなく無言の肯定と受け取られてしまっている。


「「…」」


お互いの肩が少し触れただけでこうやって無言になってしまうくらいの距離

囃し立てられるようになってから何度も異性として意識してきたせいか、少しずつ周りに流されたのだと自分に言い聞かせる。それが精一杯の二人の抵抗。


「…お前が彼女欲しくなったら、好きな人ができたら、すぐこの場所退いてやるネ」


それは神楽の賭けのような言葉
二人の駆け引き

そんなことに沖田は気づくはずもない。


「だからいらねーっつってんだろ。特に今は部活に集中して、近藤さんを全国に連れてってやるんでィ」

「…そうだったナ」


自分だけがこれを意識してる

神楽の小さな胸が揺れ動く。

私だけ、なんでこんなこと気になってるんだろう
沖田は何にも思ってない…?

トクントクンと胸の音が聞こえてくる。それ少しずつ早くなって耐えきれずに寒さに凍える手をきつく握りしめる。


「じゃあさ」


言いかけた神楽は顔を上げふと沖田と目があった瞬間に言葉を止める。


「なんでィ」


バツの悪そうな顔をして沖田から顔をそらすと続けていた言葉をゴクリと飲み込む。


「なんでもないアル」


沖田の小さな期待は簡単に掻き消され、真っ暗な歩道に並んで家への道を歩く。


「まあ、どうせお前が恋愛することなんてないだろうけど、こうやって勘違いされてんの嫌になったら言えよ」

「あ?」

「俺がなんとか「私だって乙女なんだからナ!!」


沖田の言いかけた言葉にたまらなくなって割り込む。

そこまで女子として扱ってもらえないなんて…


「私だって、…好きって思うことくらいあるんだから、ナ」


声は風に吹かれたように揺れていて空気に溶けて消えてしまいそうだった。


「…は、ああ」


気の抜けたような返事をした沖田は神楽のセリフに誰が見てもわかるくらい動揺していて、電柱にぶつかりそうになりながらも咄嗟に避けた。


「そうだな、それくらい知ってら…だから、そん時は俺も手伝ってやるって」


ドクンと大きな音が2つ聞こえる
それはすごく痛く胸に刺さるような音だ。


「お前の手伝いなんか、いらないアル」


俯いて歩けばやはりまた肩がぶつかり合う。


「「…」」


沈黙が続いて、着々と家へと近づいている。
もう少しで神楽の家が見えてくる頃。


「あのさ」


勘違いはきっと本当で、でもそれは嘘で偽りで勝手な妄想で
救いようがなく不器用で
向かい合う勇気も確信もなく、曖昧にことは進んでいく。
それが真実でそれが心で本心で
進んでいくには遠回りすぎて


「ずっと付き合っていよう」


無言は肯定で否定する者は誰も居なかった。

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