SS4

□かぐちゃんと呼びなさい!
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53巻470訓ネタバレ有り












そうくんって呼んでみ?

それはつい先日の入れ替わりからずっと彼の口癖

神楽はそれを馬鹿じゃねぇの?でひと蹴りして会話終了。
沖田はそれでもめげずに、彼女に会えばよくそう声をかけていた。

いつも名前だってそうそう呼ばないのに…急にあだ名で、しかも下の名前で…呼ぶなんて出来るわけないネ

普段からそう距離が近いわけでもないし、そう親密な仲へと踏み出そうとも思っていない。
沖田も毎回おちょくるように言うからそう本気にも見えていなかった。


「そうくん」


空で練習してみる。1人と一匹の散歩道は独り言も便も自由である。


「そうくん」


二回呟いたけど、違和感しか出てこない。
そうくんって誰だよ!としか思えない。サドとばかり呼んでいたせいだ。これを矯正する必要なんてないだろうに、ついつい暇を持て余して頭を悩ませてみたりするのだ。

これは、ただの暇つぶし程度のお遊び。


「そうくん、かー」


もう3度目、空ばかりを見上げて言っていたものだから目前の人の気配に気づくのが遅れた。その人は神楽の真っ正面に立っている。


「何回も呼んでんじゃねェよ。どれに反応すりゃ良いかわかんねェだろ」


神楽がせっかく練習までしていたのに、彼はそんなこともつゆしらず、神楽を罵る。


「あと犬、糞してんぞ、バカチャイナ」


そうくん呼びに苦戦していた神楽はムッと顔をしかめる。


「お前はいつもそんな変な呼び方なのに、なんで私だけそうくんアルカ!」


ウンコを取るための袋を取り出しながら姑のようにグチグチと呪いごとを垂らす。


「じゃあ俺はお前のことなんて呼べば良いんでィゲロイン」


「ゲロイン止めろ!汚物が!」


言い争いをするついでにポーンと思いもよらぬ声が漏れる。


「かぐちゃんとかどうアルカ?」


「かぐちゃん?」


一度口に馴染ませるように呟くと彼も何か考え事をするように視線は空へと向く。


「かぐちゃん」


今さっきまで視線は宙をさまよっていたのに、もう神楽の瞳へと一筋に伸ばされていた。


「そうくん」


呼び合って、似合わねぇ!とお互いに笑った。
今日一日はこれ以外で呼んではいけない!と決めて、2人街中を歩き始める。


「別の呼び方したら罰金ナ!」


「は?まずお前金持ってねェだろ」


「はいアウト」


あっ、と口に出したところで遅い。神楽に罰金を奪われてしまう。


「かぐちゃんしね」


「そうくんこそ豆腐の角に頭ぶつけてしね」


そう言い合ってるところで丁度土方が2人の視界に入った。
あいつこそカモだ!と2人は意気揚々と近づいて行く。


「おいニコチン」


そう言いながら沖田は爽やかな笑顔でバズーカを取り出し土方が振り返ったところでバズーカを発射。


「ニコチンは今俺に沖田、とか総悟、とか言おうとしやしたね。これは罰則でさァ。そうくんと呼ばないニコチンにはバズーカ一発」


したり顔でそう言う沖田に土方は今にもブチ切れそうだ。


「そうアルよ、ニコチン。もし私のことをかぐちゃん以外で呼んだら酢こんぶ100個ネ!」


最初の約束とは違うけれど、それは沖田と神楽間の契りであり、土方とはまだ決め事をする前であった。バズーカでボロボロにされた土方はくわえていたタバコを右手に持ち替える。


「人のことニコチンニコチンってなんだクソガキども!意味わかんねェ遊びに大人巻き込むんじゃねえよ!あと沖田は仕事しろ」


「「かぐちゃん(そうくん)って呼べっつってんだろォォォォ!」」


その後、土方に記憶はなく、気がついたら隊舎にある自分の部屋の隅で泣きながら体操座りをしていたらしい。そして、財布の姿も消えていたそうだ。


2人はまた犠牲者を探すべく街中を練り歩く。


「そうくん、あれ見るアル!ザキネ!格好のターゲットアルよ!?」


「おー良いの発見したねィ、かぐちゃん」


気をつけて呼びあえばまだ、馴染みはしないもののそれなりの楽しみを感じてきた。ただのゲーム感覚である。


「「ザーキー」」


2人に出会ってからの記憶がザキにはないと言う。
気がついたら身ぐるみを剥がされ川辺で全裸で素振りをしていた。そのところを隊士に保護されたらしい。


「いやー!今日はガッポリアルナ!」


「財布が二つ増えたからちょっと重てェけどな」


ルンルン気分で帰り道へと足を進める。
分かれ道に差し掛かるところでやっと神楽は勇気を出す。


「そうくん」


「ん?」


「気持ち悪いからもうやめるアル」


笑顔もなく、そう言い放つ神楽はなんだかとてもやさぐれているように見える。柄が悪そうなちびっ子だ。


「俺も気持ちわりィからやめらァ」


フーッと沖田が息を吐くと、それに合わせるように神楽は息を吸い、口を開く。


「総悟って呼ぶようになってやるアル!」


「あ?」


不意のことに沖田はきょとん顔だ。


「名前で、呼ぶようにするアル」


「遠慮しときまさァ」


その返事は即答で、神楽はバツが悪そうに顔をそむける。


「サドってのもお前がつけたあだ名だろうよ」


少し恥ずかしそうに頬を染める沖田に、神楽はキラキラの笑顔で見返した。


「罰金!」


「え!?もうこのゲーム終わりじゃねぇの!?」


この後結局いつも通りサド、チャイナと呼び合いながら駄菓子屋に行き、喧嘩をしながら一緒に酢こんぶをかじるのだった。


実際、振り回された人間たちは土方、山崎、だけではなかった。
そうくん、かぐちゃん、と呼び合う2人を見てしまった銀時は、あれはどういう関係なんだと脳内が修羅場中であった。

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