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□中二病ごっこ
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月が欠ける、
欠けた月明かりに照らされ路地裏に潜んだ少女が映し出される。


「始まった」


誰もがつぶやくその一言
何も知らない平和な脳の凡人だけがはしゃいだようにカメラを月に向けるのだ。


「そろそろ、行くカ」


ゆっくりと路地裏から出て来ると、周りを確認するように見渡して走り出す。
あの月が見えるのならきっとあいつも引き寄せられるようにやってくるさ。
そう気楽に考えている彼女はしらない。もう見つかっていることを。


「動きだしたんなら、俺も動きますかねェ」


それはそれはダルそうなくせに顔はやる気満々だ。


「「ターゲットはあいつ」」


違う場所で暗闇の中同じ言葉が響いている。
それに共鳴するように彼らは引き合わされるのだ。

ひっそりと潜んでいたはずの沖田の元へバキューンッと一発でかい玉が撃ち込まれる。
沖田は待ってましたと言わんばかりに避けた勢いのまま撃ち込んできた方へと飛び込む。


「もう月食も結構進んでるぜィ?」


「お前はわかるアルカ?あの月がどのくらいで全て食い尽くされるか…」


「そらァねィ。あの月が全て食われる前にお前を倒さなきゃならないんだからな」


お互い、あの月が全て真っ黒になってしまうまで。
あと1時間ほどで決着をつけなければならない。
つかなければ…この世界は終わる…。
どちらが生きるか、それともどちらも死んでしまうのか。


「まあ、俺がさっさと勝ち逃げしてやりまさァ」


「なまいってんじゃないアルヨ」


戦いは爆音とともに幕をあけ、2人の世界が広がる。
相手は番傘、もう1人は刀。
一般的に見れば圧倒的に刀が強いけれど、彼女の強みは傘だけではない。全身である。


「お前男のくせに細過ぎアル。折れちゃっても責任は取らないからナ!」


「俺もお前が死んでも責任とらねェよ」


刀と傘がぶつかり合う。間近に見えるお互いの表情はいつもより生き生きとしていた。
戦いだと言うのに、それは好奇心に満ち溢れた子供のようだ。


ドンッと大きく傘から豆鉄砲を打ち上げ沖田の気を引かせると、そのまま傘を後ろ手に拳を振り上げて襲いかかった。

それをわかっていたのか沖田は不敵に笑い、刀を手から離すと神楽の拳を片手で受け止め、もう片方の手で神楽を抱き寄せた。


「はぁ!?」


驚くどころでなく予想外なことに混乱する神楽と、そのまま地面に落ちていく沖田。
神楽が上で沖田は少し肩を丸めて受け身の姿勢のまま神楽をもっと近くへと抱え込む。


「な、何アルカ?」


もう、顔も見ることができないほどの距離。お互いの口はお互いの耳元だ。


「お前になら、殺されてやっても良いぜ?」


慌てたように沖田から離れて表情を伺う神楽。
それを面白そうに眺める沖田。
完全に無抵抗であるが信じられない状況。


「お前だって俺が他の奴に殺されるより自分でヤりてェだろ?」


「な、ま、まあ、そうだナ」


何もできずにしばらく見つめ合い、神楽は意を決したのであろう。
そっと沖田の首へと小さな手を這わせた。


「私の力なら、苦しまずに落とせるアル。最後の優しさネ」


なんて小さく笑い、手の力を込めようとした時だった。


「ま、そんなことさせるなんて嘘に決まってるけどなァ」


沖田はまた不敵な笑みを浮かべると今さっき落とした刀を神楽の胸へと突き刺した。


「情けをかけようなんざするからヤられちまうんでさァ。ぐっちゃぐちゃのボッコボコに殴ってたらこんな反撃されなかったんだぜ」


突き刺した相手に聞こえてるのか聞こえないのか、神楽は地面に崩れ落ちる。
今度は沖田が上に跨がり、突き刺したままの刀を抜き取る。


「はい、俺の勝ち」


「いや!何カッコつけてるアルカ!ただの中二病ごっこだってのに!バーカバーカ!」


もちろん胸に突き刺したなんて嘘、神楽の脇に突き刺して周りから見たら刺さったように見えるだけだ。


「お前がなんかやりたそうだったから提案してやっただけでィ」


月食の日の中二病ごっこ。ちょっとやってみたかったのは2人一緒。

沖田は思う
こんなに本気で遊べる相手なんて…

神楽思う
ただのごっこ遊びを全力で楽しめる相手なんて…


"あいつしか居ない"


「私が勝ちたかったアル」


「まあまあ、次の月食の時にでも頑張んなァ 」


「あああ!ムカつくアル!!!」

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