SS4
□儚く消えてしまいそう
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そこはこじんまりとした佇まいの小さな家。
神楽は息を飲んで呼び鈴を鳴らす。
が、その呼び鈴はなんの音もたてず、神楽の指を押し返すだけ。
緊張していた自分がバカみたいだった。
これ、プリント。銀ちゃんから頼まれたから持ってきたアル。感謝しろヨ?
あと、それと、はやく…元気になれ、ヨ?
変じゃないよね?これを伝えれば良いんだよね?
神楽は何度も心の中でセリフを練習してセーラー服の裾を引っ張り、目をつぶる。
ガタッ
つぶった途端に開く扉に、目を開けた。その瞬間に見える沖田の姿。ビクリっと体が跳ねたがこれも練習してた。ちゃんと言わなければと口を開くも、ドアを開けた先の沖田の姿に言葉に詰まる。
「だ、大丈夫アルカ?」
沖田はフラリと体を揺らし、ドアに持たれかかるようにして神楽を見下ろす。
「なんか用かィ?」
「プ、プリントを持って来てやったアル」
結局何度も練習したセリフを使えないまま、神楽は白く細く、やつれきった沖田を見上げる。
沖田は無表情のまま手を差し出すだけだった。
「お前、本当に大丈夫アルカ?」
差し出された手がとても細くなったように見える。会わなかったのはたった数日だったのに、ずっと見ていなかったような錯覚をするほど。
「まだ生きてるし、大丈夫なんじゃねェ?」
気だるそうにする返答はいつもより平坦で、いつも嫌味を言ってくるあの時とは全然違うか弱さだ。
沖田はそっと渡されたプリントを手にすると、さっさとドアを閉めようとした、が、神楽はドアの隙間に足を突っ込む。
「何でィ?」
「お前、礼の言葉も言えないアルカ?」
こんなんじゃない。こんな言い方をするつもりじゃなかったのに。
沖田もめんどくさそうに神楽を見下ろし、小さく"ありがとうございましたー"と嫌味ったらしく返す。
そして神楽の足を蹴っ飛ばすとさっさとドアを閉められた。
ドア越しに沖田は崩れ落ちる。
今、会いたくなかった。今会ったら、頼ってしまいそうで。
プリントをグチャグチャに握りしめて大きなため息をついた。
そんなことも知らずに神楽は明日の決意をする。
明日こそはもっと病人を労ってやろう。
少しは寂しいと感じている自分をわかっているから。
なんて伝えたら良いんだろう?なんて頭を悩ませながら帰路についた。