SS4

□心比べ
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見知らぬ女性と沖田が並んで歩いていた。神楽にとってそれは見たことも想像したこともない光景で、心にぐさりと何かが刺さったような衝撃を受ける。

何で、こんなにショック受けてるネ…?

沖田が知らない女と並んだところで神楽にとっては何もないのだ。その癖、腹立たしいような、苛立ちを感じる。
それは、お互いの暗黙の了解でがあったからだ。沖田は何も言わないけど神楽のことが好きで、神楽も沖田のことが好き。誰も何も言わないし、付き合ってるかと言われればそうではないし、仲良しごっこをすることもなく。ただ、お互いが想いあっている。そんな状態だった。

あいつに彼女ができたって、関係ない…はずなのに。

心の奥底では裏切られたと言わんばかりの悲愴感が漂っていた。
付き合っていたわけではないのだから、沖田が誰と付き合おうが自由なのだ。何かを責める権利など誰も持っていない。

気づかれる前に帰ろう。そう思った矢先、彼らは急に方向転換をし、沖田と神楽は丁度鉢合わせてしまった。
そうなってしまったからには関わらないというのも難しいもので、触れなければ良いのについついつつきに歩み寄る。


「勤務中にデートアルカ?」


「今日はオフでィ。格好みりゃわかんだろィ?」


デート、は否定しないんだ。
ボロっとこぼしそうになった独り言を飲み込む。


「芋侍のくせに生意気アル」


「行きやしょう、お嬢さん。こいつと話してもいいことなんて一つもないんでねィ」


これ見よがしに隣の女性と手を繋ぎ神楽の横を通り抜けていく。
女性は神楽にお育ちの良さが伺える丁寧なお辞儀をして去っていった。

女の子らしくて可愛らしくて守ってあげたくなるような子
それは少し背伸びをして本屋さんでファッション雑誌を立ち読みした時に読んだフレーズ。
男性の理想とされる女の子。

私とは真逆だな…

わかっていたし、自分がそうなろうとは思わないけど、なんだか悔しくて通り抜けた先を振り返る。
やはりそこには仲睦まじく歩いて行く2人が居て、あまりにも仲の良いカップルに見えて、それを自覚すれば自覚するほどに神楽の心臓は締め付けられる。

なんで?
なんであいつの隣は私じゃないの?

あんな風に手を繋いで恋人の様には歩けないけど、二人で喧嘩しながら、それでも、それが楽しくて幸せに感じて、そんな時間は二人だけの世界になる。
それが神楽の理想だった。
でもそれを沖田が望んでいたか?そうなれば神楽の考えだけでは何も解決はできない。

関係なくなんか、ない
ショックなのも、イライラしてムカつのも全部
あいつの事が好きだから

強がって隠してた本音は隠しきれずに出てきてしまい、神楽の脳内をかき乱す。

あいつの"好き"が欲しい。
好きになってほしい。
今の私みたいに、他の人と歩いてたらモヤモヤして悩んでほしい。
少しだけで良いからあいつの特別になりたい。

欲はいっぱい出てくるのに、神楽にはこの気持ちをどうしていいかわからなかった。
恋だって初めてで失恋の感覚でさえうまく実感できない。

二人が行く方向はいわゆるカップルのデートスポット。神楽にとっては遠い遠い世界だ。


「お前も変なもん見ちまったな」


唐突に聞こえた声にビクリと驚きつつ、振り返る。


「なんだ、ニコマヨかヨ」


「初めて聞いたわその略し方」


土方はいつもの通り隊服を来ていて、勤務中であることが丸わかりだ。


「ゴリラの真似してストーカーアルカ?」


「まあ、そうなるな」


こんなところに土方が1人で現れるのはそれしか考えられなかった。
いつもは部下を引き連れてパトカーに乗って偉そうにグルグル回っていることが多く、1人で歩いて居ることなど少ない。今日は沖田が心配でしょうがなかったのだろう。


「心配しなくてもお前が思ってるような関係じゃねぇぞ。だから、そんな顔すんなよ」


土方は神楽の頭をぽんぽんと優しく撫でるともう一度沖田たちの方向を見やり笑う。

そんな顔すんなら止めときゃ良いのに。

神楽は土方の手を振り払うと今にも零れそうな涙を飲み込む。


「心配してんのそっちだろーが!私には関係ないアル」


それだけ言い残して沖田が向かう方向とは真逆の方へ歩き出す。
できるだけ、二人から遠い場所へと行きたくなったからだ。
土方がどうして笑ったのか、その意味も知らずに。
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