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□クリスマス(2013年ver)
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トイレの前の洗面台でくるりと一回転をする。
寝癖よし、服装も…たぶん無難だろう。マフラーの巻き方も変じゃないし。うん。いい感じだ。
誰もいない家に向かっていってきます。を言うと家を飛び出す。
いつも遅刻ばかりの学校生活だが、さすがに初めての彼氏、初めてのデートに遅刻する余裕なんてなく。緊張で夜も眠れず、寝たと思ったら予定より早く目覚め、しかも二度寝ができずに目が冴えてしまった。
それからは服を何時間もかけて吟味し、ネットで調べて軽く化粧をしてみたり。寝癖を念入りになおしてお団子をいつもより少し上の位置で作ってみたり。
そうであっても時間には余裕はありまくりだった。
心にはないんだけど。
「30分前とか…」
待ち合わせ場所には難なく到着し、あとは待つだけ。でもこのクリスマスに待ち合わせの人なんて山ほど居るわけで。
待ち合わせしていてもどこにいるかわからない。なんてあり得そうだ。
雪が降るんじゃないかって思うほど寒い。
なんでこんなにはやくついてしまったんだろう。
メールボックスを開いてみるが相手からは何も連絡なし。私からも送ることなんてなく、お互いに(?)音沙汰なし。
寒いのをなんとか耐えてやっと約束の時間。でも彼は現れる様子がない。
連絡こないんだし遅刻はしないだろう。いや、でもあいつならやりそうだ。
クリスマスに30分以上待ちぼうけ。バカみたいだなー。
「あっ」
そんな後悔をしている時に視界に待ってる人を発見。でもやはりこの人ごみの中、気づいていない様子。
声をかけようかと思ったが、こういう時こそいたずら心がくすぐられる。
どんな反応するんだろう。
口元はニヤニヤと緩みまくりだ。
携帯を取り出してどうしようと悩んでる様子の彼。何かいじくっているがこちらに連絡が届くことはなくて。キョロキョロと辺りを見回し、やっとニヤニヤしている私を発見したらしい。
「高みの見物たァいい趣味してるねィ」
「いつも学校ではお前がやってることアル!いたずらしといて遠くで見てるとか!」
フンっと鼻をならしてみたが沖田総悟はいつもの余裕そうな表情を崩そうとしない。
緊張してる自分、なんなんだろう。
「俺は良くてもお前はダメなことが世の中にはゴロゴロ転がってんでさァ」
「差別アル!憲法違反!」
そんなことをいいながら約束していた映画館に足並み揃えて向かう
手をつなぐことなどなく、ただ隣に並ぶだけ。
周りは手をつなぎ寄り添いあっているのを横目に、口喧嘩を続けた。
「広告詐欺アル」
「どうせお前が選ぶのってみんなあんなもんなんだろィ?」
「そんなことないネ!」
映画館から出たところでまた喧嘩
どこに出かけようとやることはいつも同じらしい。
イチャイチャなんてまるでなくてカップルらしいことなんて、よくわからない。
映画館から繋がるショッピングモールへ抜けるとお互いにフラフラと違う方向に歩き始める。
結局一緒にいない方が楽なことが多いのかもしれない。
クリスマスの装飾が施されたモール内に腹が立った。
浮かれ過ぎ!初めてのデートなのに、しかもクリスマスなのに、こんなに落ち込んでしまうなんて。考えてもみなかった。
フラフラとどこかに行ってしまった沖田を目で探すと、相手も気になっていたのかバッチリ目があった。
「なんでィ、迷子のちびっ子」
近寄ってきた沖田は気だるそうに見えてどこかピリピリしている。
「ちびっ子じゃないアル。お前だってそんなに大きくないくせに」
なんでィといつも通り喧嘩腰な沖田。私はいつもより緊張してうまく会話もできてないように思う。
どうせ喧嘩しかしないなら、これで良いようにも思うが…。
「デートもクリスマスもこんなに無駄なイベントとは知らなかったアル」
ボソリと独り言を呟いて意味もなくウィンドショッピングを始める。なんならここで解散してしまおうか…。
でも、本当は、暗くなるまで一緒に居てイルミネーションを見たかった。
予定通りになんて進む方がおかしいのだ。やっぱり私たちは教室で会って喧嘩してばかりの関係の方が良いんだ。
「腹、減らねェ?」
「あんまり」
「大食いのお前がそんなわけねェだろィ」
ウィンドショッピングをしていた私を置いて沖田はドンドン先に進んで行ってしまう。私はこいつの思い通りに動くのも嫌だったがしょうがなくその後ろをついて行った。
実際にお腹はあまり減っていなかった。緊張のせいだと、薄々気がついていながら恥ずかしくてそんなこと認めたくない…。
「ここ、入るぜィ」
おしゃれなレストランに入っていく沖田。
本人に似合っていないため少しだけ不思議に思った。
こいつの好きなもの渋いものばかりだし…。
今日も、蕎麦はザルに限るとか言って古い蕎麦屋でざるそば頼む姿しか想像していなかった。
小走りに追いかけて入ると、半個室になったおしゃれな席に通される。
「意外アルな、お前がこんなとこ入るなんて」
「ホットケーキ?かなんかよくわかんねェけど、美味いって聞いたんでさァ」
メニュー欄から美味しそうな生地の厚いパンケーキが視界に飛び込んでくる
「ひゃっほー!めっちゃうまそうアル!」
パンケーキのメニューをガッと掴むと沖田は通常メニューをめくりはじめた。
「やっぱりお前食うんだろーが。よく腹が減ってねェって言えたもんでィ」
「違うアル!それは、その、緊張してたから…」
沖田が目を真ん丸くしたせいで自分がどれだけに合わないことを言ったかを理解した。
「間違えたアル!お腹減ってなくてもこれぐらい入るネ、いつものことアル」
恥ずかしすぎてパンケーキのメニューで顔をそっと隠した。
「俺は昨日寝れなくて寝坊した。…そのせいで朝飯食えなかったんでさァ」
気持ちを告白した時より恥ずかしかった。告白した時は怖いの方が大きくて、また違う感覚。初めての感情。
「…イチゴスペシャルパンケーキに決めたアル」
「ここ手打ちか、まじでか、ざるそば」
イメージの通りすぎてプッと吹き出すとチッと舌打ちが聞こえた。
店員を呼んで競うように注文し睨み合う。
「まさかお前が緊張するたァね
ィ。キャラじゃなさすぎだろィ」
「お前に言われたくないアル」
好き勝手に言い合いをしながらも今さっきより楽しめている。楽しくないと思っていたのに、この喧嘩が楽しい。
お互いに食べ終わるとまたなんやかんや言い合いをしてお店を出る
辺りは既に暗くなっているようで、きっとこのモールを出たら楽しみにしていたイルミネーションだろう。
「デートもクリスマスもいいもんだったろィ?」
「な!?聞こえてたアルカ!?」
クスリと笑って自然に私の手を取る沖田。
いつもは見た目と逆で全然嫌なやつなのに、こんな風にされると見た目通りの爽やか野郎にも見えてしまう。
「イルミネーション見に行こうぜ、写真撮って姉上にも見せてやりたいんでさァ」
シスコンなところは相変わらずだけど、そんなギャップが可愛いんだ!と本当にキャラじゃないことを考えてしまう。
「私も、いつもぼっちクリスマスの駄メガネに見せてやるアル」
繋いだ手を引っ張ってショッピングモールの外、イルミネーションに向かって走り出すのであった。
クリスマス(2013年ver)