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□確信犯
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ドーンと近くで地響きがなる。
今日は花火大会で見物客は楽しげに歓声をあげるのだった。
こいつらのせいで見回りの俺は土方しねと願いながら舌打ちを一回。あとは適当に周りへガンつけて行く。目があった頭の悪そうな輩は睨み返して行ったが警察だとわかっているから変な因縁はつけてこなかった。
どうせこいつら弱いんだろうな。



「銀ちゃーん!花火すっげーアル!!」



聞き覚えのある名前、聞き覚えのある特徴的な声に振り返るとやはりあの三人組が肩を並べて歩いている。
一番ちびっこのあいつは夜だから傘を持ち歩いておらず身軽そうだ。
ちょっとからかいに行きますかね
この憂さ晴らし(八つ当たり)に人ごみを分けてズンズン近づいていく。
俺の気配に一番はやく気がついたのはやはりダンナだ。死んだ魚の目で俺と視線を合わす



「や、沖田くんじゃないの。なに?見回り?ごくろうさんだね」



片手で鼻くそをほじりながら人と会話するこのダメ人間はとても興味深く、上から下までジロジロと眺めてやる



「今日も暇を持て余してんですかィ?良いですねィ。こっちは忙しくてかなわねェや」



嫌味交じりに返してやるがそんな挑発に乗ってくる旦那じゃなかった



「うるっせーアル、こっちだって仕事でわざわざこんな人ごみに紛れてんだヨ!お前ら税金泥棒より人のために動いてんだヨ、バーカ!」



簡単に乗ってくるのはやっぱりこっちの方
メガネがそれをなだめて、旦那は何食わぬ顔で鼻くそをほじってるだけだ
もうちょっとだけ、からかえば…



「今さっき普通に花火楽しんでるアル中の声が聞こえてきたけどアレはアンタじゃなかったんですかィ?」



からかえば、あいつは絶対に俺と戦闘モードに入る
そしたら、2人で…



「気のせいデスー!この人ごみの中探し人の名前読んでたんデスー!」



ヒロインとは言えないような嫌味な顔して俺につっかかってくる
こんな奴、女じゃないのになんで…俺はこいつと2人で花火が見れたら良いと思ってるんだろう



「へー、そうですかィ。へー?」



わざと苦笑いをしてみせてチャイナのイライラゲージをあげていく
そしたら何もしなくたってこいつは俺を追いかけてくるようになる
だから…このまま…



「門限20時だから。ちゃんと返してね、沖田くん。守れなかったらもう神楽は貸さないから、頼むよ」



旦那は耳元で囁くようにそういうと俺の肩をポンと軽く叩いて人ごみの中へ消えて行った
メガネも察したように笑って旦那の後を追って消えていく
置いて行かれることに気づいたチャイナが小走りで2人の後を追おうとしたがあの白い二の腕を掴んで引き止める
大きな瞳をもっと大きくさせて驚くチャイナが振り向く、そんなチャイナに言える言葉はこれしかない



「女じゃねェみたいな固い腕だねィ」



「筋肉アル。もやし男が」



俺の腕だってそれなりのもんですけど?なんて食いついてやりたくなったが、それはまた今度見せつけてやろう
筋肉はあるくせに細く白い腕はとても丈夫に見えない
守ってあげたいとは思えないが、こいつには俺しか居ないだろとはどこか思ってる。
それは自惚れからきた間違いでも良い。俺はそれをずっとずっと思って正解に変えてみせる。
掴んでいた二の腕を引き寄せて隣りに並ばせると、二の腕の上を滑らせた手で手首を掴む
そのまま恋人繋ぎでもしてやろうと思っていたには思っていたのだけどまだ難しそう。レベルが足りなくてできなかった。
それでもこうやって触れて隣りを歩けるのはこんな近い距離にまで縮まったのは大きな進歩
緊張で何も声をかけられないけど少しずつ人ごみが解けたところに向かえている



「…。」



チャイナは何も言わなくて



「…。」



俺は何も言えなくて

沈黙は後ろのガヤを強調させる
たぶん、今何か伝えようとしたって聞こえないだろうから

好きだと言ってみる

こんなに緊張して言ってるのにやっぱりこの距離でこんな呟き聞こえるはずなくて、チャイナは無言だった

やっと人の少ない川辺までつくとあの騒がしさが祭りの雰囲気をうまく作り出していた
バックミュージックの音量の小ささが沈黙な俺たちを追い詰める



「銀ちゃんも新八も意味わかんないアル」



不貞腐れた顔で俺から捕まったままのうさぎさんは緊張なんてしてる様子はない
不機嫌そうなオーラは出ているのに

この細っこい手首に手錠をかけてその先を俺と繋げばまだ緊張は和らぎつつチャイナと隣りに並べたかな



「俺も意味わかんねェ」



「は?」



ドンドンと盛り上がり始めた花火を見上げて思う
いつもはもっと近くで喧嘩してるのにこういう恋愛的な意味ではかなり遠いのだなと



「ハートだ」



手首を掴んでる方と逆の手で空を指差す
チャイナはそれを辿って空を見上げて歓声をあげた
いつもありえないくらい可愛くないヒロインのくせに、こんな時だけ純粋な瞳を輝かせ俺を苦しませる

その攻撃を食らった俺は隙ばかりだったらしく掴んでいた手は振り払われチャイナは花火に手を伸ばしたり振ったり、大はしゃぎだ

子供らしい反応まで俺の柔な心をくすぐっていく

2人で見られて良かった

言えない言葉、伝えられない想いは重くたまり続ける
それでも良いや。こいつは俺じゃないと…
考え込んでいた俺の手に柔らかな何かが絡みつく
気を抜いて居た俺の手をチャイナの手が包んだ



「定春アル!」



手をつないで居ない方の手で空を指し、今さっきの俺より余裕に花火を楽しんでいる
手をつないでいると気づいてないのか、当たり前とでも思っているように…
彼女の手は俺の左手と繋がってる

何度も返り血を浴びたこの汚い手を浄化するように
優しく包んでいる
握り返そうか悩むうちに花火は終わり、簡単にその手は離れていく
繋がる時と同じように、当たり前のように



「定春型花火とかできるんだナ!ごっさ可愛いアル!」



興奮したように俺を見上げたチャイナには今さっきの不機嫌オーラなど残ってなくて
何もできなかったのに俺は全てが満たされたような満足感

本当に隣りに居ただけ



「あれはけっこう可愛かったねィ。ま、俺はやっぱりバズーカ型の花火が1番と思いやすがねィ」



並んで空を見上げていただけ



「はー?あれのどこが可愛いアルカ!?」



それなのに特別に心臓はうるさくて



「ガキにはわかんねェ魅力があんでィ」



特別に空を輝かせた



「ふーん、そんなのが好きなお前がガキってことしかわかんなかったアル」



憎まれ口でしか会話ができなくても、俺は知ってしまった
あんなに簡単に手が繋げて、あんなに簡単に同じ時間を、特別な時間を一緒に過ごせるということを

人ごみに消えた旦那やメガネ、好きの言葉
俺はいつかそれともっと真剣に向き合う時がくるだろう

だけど今は
この手もつなげない空間でも俺の隣りに居るくせに楽しそうに笑うチャイナでも
いいんじゃないかと思う。


確信犯



「あれ?もうとっくの昔に20時すぎてんだけど…」



「花火開始が20時アルよ」



「まじでか」

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