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□沖誕(2013ver.)
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今日はあいつの誕生日である
とても祝えない。むしろこの日を憎く思う。
昨日は七夕祭りであいつに出会って、今日もあいつに遭遇した
同じ町内を歩き回っているのだから遭遇するのはしょうがないのだろうか
何故かほくそ笑む沖田を私はなんとも奇妙な生き物を発見したかのように迎え撃つ!
先手必勝だ!
傘の先を沖田に向けて豆鉄砲を発射させる



「いきなり攻撃たァずいぶん余裕がないもんだねィ」



余裕をぶってほくそ笑んでいるのかそれともただほくそ笑んでいるのか
真実は定かではないが豆鉄砲は余裕で避けたのは真実である
ならばこれではどうだと醤油を発射してみたが、水力が弱く飛ばして10センチ程度のところに落ちた

沖田の笑みは変わらず私の傘を取り上げると私の間近に迫る
相合傘な上に距離が近い。少しでも動いたら簡単に触れてしまいそう、バランスをとりそこねたら抱きついてしまいそうな態勢だ
ついその距離に呆気にとられている間にガチャリと金属の擦れる音がした

両手首にはゴツいあいつがついている



「手錠!?」



「不法入国で正当な逮捕でィ。暴れんじゃねェぞ」



その枷にはちゃんとリードが繋がっていてグイグイと引っ張られる
無理矢理歩かされてはいるものの日傘を指しかけている親切心は認めてやっても良い

黒い隊服を暑苦しそうに着た彼の首すじに一筋の汗が垂れていくのを後ろから眺めた



「…何?」



振り返ることもせずに不機嫌そうな声だけが発せられた
前を向いたままではあったがそれは確実に私に向けられた言葉で
グイグイと引っ張られるのを感じながら首を傾げる



「何って、何アルカ?」



「変に大人しいからでィ。なんかカウンターしかけてくるつもりかと思ってねィ」



もう一筋の汗が流れたところでドキリ心臓が動く
今さっきも見たけど首すじに流れる汗は色っぽさを放つばかりだ



「昨日は酢こんぶ降らせてくれたし、今日はお前誕生日でショ?一個くらい願い叶えてやるアル。ただし私の誕生日には倍返しが鉄則ネ」



昨日言った告白はきっと彼には届いてないだろう
そう思うと心には隙間ができる。そこをもう少し彼で埋めつくそうと手を伸ばす
それは貪欲な女の証だ
私は欲張りで、もっと余裕のない沖田を見てみたい。もっと私を欲しがる沖田を見てみたい。欲望は募るばかりだった



「ん…、じゃあ、黙ってついて来い」



グイグイと引っ張られそのままタクシーを拾い
乗ること1時間以上
街の中では高いビルが立ち並び人の流れを見つめていたがもう今では家もポツポツと見えるだけ
人とはずいぶん前からすれ違わない
大きい建物がポツンとあるとその煙突からはモクモクと体に悪そうな煙が吹き出している
私はそれ眺めながら隣でソワソワしている沖田を感じていた



「ついた」



タクシーから降りて見上げる廃墟と化した建物
中々に元は立派であっただろう大きな建物だ



「何アルカ?ここ」



「ヒミツキチ」



それだけ答えるとまたズルズルと引きずられるように建物に入り、真っ暗な階段を慎重に上がって行く
沖田はチラチラと私を見てくるが、心配しているのだろうか?挙動不審にも見える
から回ってて少し面白い

コツンコツンと階段を登る音が響きワクワクした
まるで刑事にでもなって捜査にきたようなかっこよさに酔う



「今日一日、お前をここに監禁する」



やっとついた部屋は壁にロッカー
真ん中には壊れた鉄柱の様なものが落ちている
ロッカーが倒れているところもありとても綺麗とは言えない



「監禁するって決めてたんならちょっとくらい綺麗にしとくアル」



「これでも片付けた方でィ!床も洗ったしィ!…って、監禁するって言われて人の部屋に遊びに来たみたいな反応やめろィ!」



あのほくそ笑みはやっぱり余裕ぶった笑みだったな。とこの時点で確定した
今日もこいつは相変わらず余裕がないらしい
こいつの考えることはなんとなく察しがついていたし、根っから悪いだけで悪いやつじゃない。根っから悪いだけで…って悪いかジャラジャラと音を鳴らして手錠ではなく首輪を付けると部屋の端にあるパイプにくくり付け手錠は外された



「首輪、似合ってんじゃねェか」



余裕を取り戻そうとしているのだとわかる
そして手首に残った小さなあざを気にしているのも視線でわかる



「…このくらいならすぐ消えるアル」



顔をギョッとさせたがフンっと顔を背けて息を整える
私とやること一緒
でもきっと沖田は私が沖田を知っているほど私を知らないだろう
せいぜい誕生日と年齢と好物、くらいかな
私は好きな音楽も見回りの範囲も当番も考えていることもだいたいわかるのに…彼は知らない。私のことを。

沖田はコホン、と咳払いをし雰囲気を整えると私の両肩を手で掴み顔を寄せる



「今日はお前に絶望を感じてもらうぜィ」



冷たく言い放そうとした努力は認めるが耳はすごく真っ赤だった

一旦その部屋から沖田が出ようとする



「どこ行くアルカ!?」



まさかの放置プレイを心配したがどうやら違うそうだ
鍵をくるくる回しながら楽しげに笑った



「お前を監禁した上で室内でしかできないようなことをしてやろうと思ってねィ。道具の準備でィ。ま、それまではくつろいでなせェ」



フンフンと鼻歌を歌いながら出て行くとガタゴトと大仰な音が聞こえてくる
何をするつもりだと伺いながらもずっと立っておくのも嫌でペタンと地べたに座った
床は洗ったって言っていたし、大丈夫だろう

ゴロゴロと荷台の音が近づいてくる
何かが歩く音も聞こえた
それは確かに沖田とは別物で沖田の足音に隠れては居るが何かが歩く音
どこか聞き覚えのある足音だ

沖田が入ってくると片手にはマットのようなものとシーツ、もう一方は方にゴザが担がれていた
ナニをするつもりだこいつは。と怪しい目で睨んでみたが何もないかのように彼は荷物を置いてマット、シーツ、ゴザの順で並べた
マットとシーツは同じくらいのとても大きなものだがゴザは人一人分だ
ナニを…するつもりだ…こいつ…
怪しさはまして行く
また部屋の外からは扇風機を持ち出してきて延長コードを使ってコードをのばし、ゴザの位置に風がくるように固定された



「ナニ、するつもりアルカ?」



沖田はその質問にニヤリと笑って答える
まさか、まさか…!?
心の準備ができていない。いや、あいつも盛りを迎えていることは重々承知だが、まさか、こんなはやくその日がくるとは…

段ボール箱をマットのそばに置く沖田

ああ、きっとあれだ…あかん系のやつだ…と雰囲気的に悟った



「何するか当てられたらすぐ解放してやっても良いぜィ?」



準備はだいたい整ったのか今持ってきた背もたれ付きの椅子をマットの上に置いてそこで胡座をかいた
これで、当てられないとでも思っているのだろうか



「おま…、それ、あれダロ?成人向けの…あれ、ダロ…?」



空気は静まり返り真っ直ぐに見つめ合う
ガッと見開いたその目は驚きを隠せないといったように見える



「ざーんねーんでーしたー」



一気にバカにしたどSモードの顔になり、椅子から立ち上がり私を見下ろした



「何勘違いしちゃってんのー?ありえないだろィ。バカじゃねーの?ヤらねーし、こんなとこでヤらねーしィ。何妄想しちゃってんの?ねえ、今どんな気持ち?ねえどんな気持ち??」



お前がそんな雰囲気を作ったんだろうがぁぁぁあと叫びたかったが恥ずかしさのあまり悶え苦しんでいた

段ボールから大量の漫画とお菓子、お茶などを取り出し寝転がっても届く範囲に並べて行く

こいつ、引きこもり慣れてやがる



「チャイナまだ顔赤くね?うわーないわー。お前まじ…携帯小説の読みすぎ?ってお前携帯持ってなかったかー!独学の妄想力お疲れ様ですなァー!」



語尾が態とらしくてムカつく。こいつが全部悪いのにこいつが全部悪いのに!
並べ終わったのかフウッと一息ついて段ボールを逆さまにした
ドサッ落ちてくる小さな箱たち



「…!?酢こんぶの山!?」



沖田は計画通り!とでも言いたいようにほくそ笑むとまた何かを取りに部屋を出て行った
やっと登場するらしい沖田とは別の生き物の足音
同じような音をどこかで聞いたんだけどどこだっただろう?

コツコツと足音、トテトテと少し小さめの足音

部屋の入口に出たところでその正体はすぐに判明した



「小さい定春!?」



「そ、同じ種類のちっさい奴、レンタルするのちょっと高かったぜィ」



そう答えると真っ先にマットに寝かせて自分もそのモフモフに埋まる
顔を犬の背中にスリスリとすり寄せて手は犬の肉球をぷにゅぷにゅと触っていた



「あーあーきんもちィー!猫の肉球も良いけど犬もなかなかのもんだねィ。毛もフサフサで滑らかだしー、かわいーなー、犬ゥー」



態とらしい語尾の伸ばしは苛立ちを助長させる
怒りでプルプルと震え出している私に沖田は何かを投げた

拾ってみると猫の手のストラップだ



「おすそ分けでさァ」



その語尾には絶対(笑)がついていたバカにした笑いがついている

悔しくも衝動には耐えられずその肉球をぷにぷにした
定春にはかなわなかったが

ある程度私を苛立たせると沖田は扇風機をつけて涼む
私は窓しかなく少し日差しが入り込んできていてどうも暑い
風がない!
そんな私を尻目に今度はゴザに寝転がり私を見る
それは私より下の位置に居るくせに見下した目だった
そうして酢こんぶの山に手を伸ばすとあっさりと箱を開けて一口パクリとかじりつく



「あーしょっぺー。まっずー。これのどこが美味しいんでィ。どっかのチャイナさんは頭湧いてんじゃねーのー」



「うるせぇぇぇぇえ!!お前に酢こんぶの何がわかるアルカ!嫌いなら全部私にやるヨロシ!」



ガチャンと音をたてて前に進もうとしたがやはり首がしまるだけで動けない
でも、こんな細いパイプ…



「美味しい酢こんぶやろうか?」



動かない私を他所に沖田は黙々とマズそうに酢こんぶを消費していく
私はそれを血眼になって睨みつけブンブンと縦に頷くと端によけてあった酢こんぶの箱を手に取り私の目の前でしゃがみ込む



「口あけろィ」



「は?」



「だから、口」



言われるままにあけると箱から取り出した酢こんぶを口の中に放りこまれた

酸っぱいと感じた瞬間に痛い!と思った
痛い、じゃなくて、これは…!!!



「辛!!!」



顔をしかめる私を嬉しそうに沖田は眺める



「可愛い」



「は?」



聞き返した時にはもうマットの方が戻って行くように立ち上がっていて返事は帰ってこなかった
唯一言ったのは「仕上げにはオリーブオイルよりタバスコでさァ」という謎の迷言だった

酢こんぶに飽きたのか残り数箱を残して漫画を読むことに集中する沖田
監禁して室内でしたかったことって、なんだよ。私必要だったの?

つい恨めしい顔で見つめてしまう。

昨日言ったじゃん、大好きだって
伝わらないお互いの気持ちを想った
確かに、妄想力は逞しいかもしれないと自嘲気味に小さく笑った

つまんない

そろそろ眺めるのにも飽きてきた
手のくせ、目線、読んでいる時に無意識に動かしている手
知ってるものばかりだ



「飽きた」



漫画を床におくとボンっと音をたててゴザから立ち上がり私の方を向いた
ポケットに手を突っ込むと小さくチャラチャラと金属と金属がぶつかり合う音

まっすぐ私の元にくると首輪外した



「自力でも抜けられただろィ?」



パイプを指差して言われたが何も答えず目も合わせず、
私はマットの上に乗って背もたれ付きの椅子に座り込み、漫画と酢こんぶを手にとる
よけてあった酢こんぶは段ボールに投げ込む。どうせタバスコ入りだろうから

一つあけたら餡子がかかった酢こんぶがでてきた



「…これ、何アルカ?」



「旦那の大好物とお前の大好物を組み合わせてやったんでィ。感謝しろィ」



新しい漫画を読むように取り掛かる姿は態勢に疲れてきているのだとわかる程度にくずれていた
あんだけ漫画読んでたらそりゃ腕が痛くなるだろうな

その酢こんぶをまた箱になおしてまた新しい酢こんぶをあけて齧り出す
モソモソと沖田が起きてくる音がして背中に重みと温もりを感じる
沖田が私によりかかってきてる

必要とされてるようで私の心は少しだけ満たされた



「お前、誕生日こんなで良かったアルカ?」



「チャイナと居られたら、なんで良い」



その言葉についつい笑顔がこぼれて漫画で隠した
たぶん、沖田は今ので勇気を使い果たしたことだろう

でもね、沖田、私は



「まだ足りないアル」



昨日の沖田と同じセリフだ
振り返って後ろに居る沖田の背中に飛びつくと真っ赤になって固まる姿に笑った



「やっぱり男はガキアルな」



言い返せずに固まるだけの沖田を
もうしばらく間近で見ていよう




沖誕(2013ver.)

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