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□転生少年
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それは突然の出来事だった。見知らぬ男性に腕を掴まれたのは…。
掴んだ方の男性を見ると大学生くらいで髪は薄い茶色。ハチミツを髪の色にしたような綺麗な色で、見た目は中性的な今流行りの男の人。



「神楽だろィ?」



「そう、デスケド」



名前を知られていたが覚えていない顔、たぶん、初対面のはずだ。もしくは知っていても忘れてしまったか…でもこれだけイケメンオーラを発していれば覚えているはずである。
ちょうど友達と遊んだ後の帰り道で都会の街中を駅へ目指して歩いているところだった。



「誰アルカ?」



困惑する私に相手も困惑したような表情を浮かべる。羽織っていたカーディガンの裾がめくれていたので掴まれた手を振り払って裾をなおした。



「覚えてないのかィ?」



「新種のナンパアルカ?」



カバンにつけていたパスケースには名前が書いてある。ちょっと見えにくいけど、名前がバレたのはそれのせいと考えて返答を聞く前に駅までの道を歩き出した。



「相変わらずバカだねィ」



少しだけ気になって振り返ると本当にバカにした様な目線を送ってきていた。周りの街を歩く人々は私たちなどには目もくれずすれ違って行く。



「沖田総悟だけど、本当にわかんねーのかィ?」



名前の響きに懐かしさを覚えたが何も思い出せない。それに中学までは共学だったが、高校大学と女子校に通っているので男ならば珍しいせいで覚えているだろう。
沖田総悟と名乗るその人はスタスタと私の目の前まで歩いてくるとピタリと止まって、私の顔を覗き込む



「チャイナ」



そう呼ぶ声がなんとなく聞いたことがあるきがする。確か、誰かに呼ばれてた。同じ声で同じ響きを、聞いたことがある。
でも何も思い出せない。幼い頃に誰かに呼ばれていたのか、でも相手は同い年くらいだ。相手も覚えているのは少し変だろう。
すれ違う人の肩がぶつかって少しよろける私に手を差し出そうとしつつも触れることはなかった。



「思い出せないアル。どこで会ったアルカ?」



そう質問した私にすぐに答えようとして口ごもる。しばらく考えるような素振りを見せてもう一度口を開いた。



「前世、みたいな」



「宗教勧誘ならお断りアル。じゃーな」



もう一度駅までの道を歩き出そうとしたところで、どこか後ろ髪を引かれる様な思いがした。
まだ離れたくないような胸の高まりを感じたのだ。



「待った、なに言ったら信じる?」



通る声で呼ばれたら振り返らずには居られなかったもっと一緒に居たいと、心の端で思っていた。それに気づいているのにどこか隠したいと願う自分がいる。
変な気持ち、ムズムズするような変な気持ちがするのは何故だろう?
やっぱり振り返って目を合わせた



「私について、何なら知ってるアルカ?」



挑発するように見やると沖田と名乗る青年もクスリと笑った。
その笑顔にときめいた気もするが…気のせい…。



「誕生日、11月3日。家族構成は兄貴と父親だけ…。前は定春ってでっかい白い犬飼ってたねィ。好きな食べ物は酢こんぶ。無駄に腕っ節が強い怪力女…その他何か聞きたいことあるかィ?」



それは驚くほど当てはまっていて否定ができなくなってしまう。
何も言い返せなくない。



「怪力女じゃないネ…!」



それだけ無理に否定してまた駅までの道のりに踵を返すと沖田も私の隣りに並んで歩き出す。
睨みつけるように見上げると懐かしむような笑みをこぼした。



「身長、154センチ?」



「うっさいアル!」



またも否定できない。目を逸らして迷わず駅まで早歩き。
なんだか手の上で踊らされているようで嫌だ。でも、なんだかそれが心地良くも感じてしまう
。いつの間に私はマゾになったんだ!



「全然反応変わらねェもんだねィ」



楽しそうにクスクス笑うから少しだけ私まで笑えてしまった。こんなちょっとした会話でも自分がこいつとしてた事が想像できてしまったから。



「…信じてやるヨ」



しょうがないしょうがない、ここまで当てられたんだから。それと、自分の直感的に。
オキタソウゴが必死になって私を探していたのならばしょうがない。



「ところでお前前世の私の何アルカ?誕生日も身長も好物までなんで知ってるネ!ストーカーカ?ストーカーアルカ?」



からかうようにププーっと笑ってやったが相手からの返事がない。不思議に思って隣りの沖田を見やると真っ赤な顔して下を見てやがる。私まで熱が伝染してきそうだ。



「…残念なことに、恋人…でさァ」



改まったような口調で言う沖田は嘘をついているようには思えなかった。前世で出会った、恋人…?



「はい?」



聞き返すとなんだか気まずそうに黙るだけで…それはそれはもう事実としか言い様のない雰囲気を醸し出している。
駅にあと少しで着くと言うのに、こんな気になる別れ方はあるのだろうか…。



「前世で恋人で、しかも俺はお前のこと覚えてる。これってどういうことなんだろうねィ…。」



二人とも同じ答えが出たと思う。答えがわかっているのに答えたくない。それも二人とも考えただろう。
お互いに真っ赤であろうが一応私は初対面なはずなんだ…。

駅についてからやっとちゃんと向き合う。



「お前、家どこアルカ?」



「ここから近くだからバスで帰るけど?」



「じゃ、私電車だから別アルな」



あっそ。と興味なさげに言ったつもりなのだろうがとても寂しさに溢れている。こんな可愛いところもあるのか。
まだまだ知らないことばかりだけど、知りたいと思えることもたくさんできてしまった。



「「連絡先っ…!」」



被って慌てて赤くなる。変だ。いつもはお互いにこんなことならないのに…。
"いつも"ってなんだ!



「いや、なんでもねェ、違う。間違えただけでィ」



「い、意味わかんねェヨ。何も言ってねェし。違うアル間違えただけネ」



だから何を間違えたと言うのだろう…
ツッコミどころはたくさんあるけどツッコミ担当は今日は居ない。



「…じゃあ、またな」



軽く手を上げて挨拶をするとクルッと方向をバス停へ向けて歩き出した。
"またな"って…!
つい笑ってしまいながらお腹に空気を吸い込む



「まーたーな!サド野郎!」



大きな声が出過ぎたからかいつもは他人に無関心な周りまで振り返ったが沖田も驚いた様に振り返ったがすぐにニヤッと笑ってまたバス停に向かって歩き始めた。

またいつ会えるのかなんてわからないけど、会えることは絶対的に決まっているから。
今日はこれまで。
さて、今度は前世の私について何を聞こうか。それとも、今の沖田について聞こうか…?
そういえば、なんでナチュラルにサド野郎なんて出てきたんだっけ?
知りたいことは積もって行くばかり。
はやくもう一度会える日が来ますように



転生少年



「「(やっぱり連絡先聞いとけば良かった)」」

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