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□後悔シリーズ1
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そろそろ暑くなってきて折角なので川辺で定春と水遊び
少しまだ風が冷たいけど、水遊びには十分な温度で服まで濡らしながら水をかけあう
定春は目に入ると大きくまばたきをさせてそれを見て笑うと、わかったように定春も前足でやり返してくる
傘が少し邪魔だけど、それは幸せな時間



「もう川遊びたァ、ガキってのは本当に元気なもんだねィ」



昼寝に来たのか頭にはアイマスクをのせて澄まし顔のアイツ
なんとなく、遭遇しそうな予感はしてたけど…嫌な予感は当たるもんだなってちょっと呆れちゃう

濡れた髪が鬱陶しくて髪飾りを外して川のそばの草むらのわかりやすい場所に置いてからアイツが草むらに寝そべるやでを冷たい視線で見送る



「お前って絵に描いたような税金泥棒アルな」



「絵に描いたようなってどういうのでィ。税金払ってねェ愚民」



バチバチと音をたてて睨み合ったが決着があやふやなまま目をそらした



「定春、あんまり深いとこ行っちゃダメアル!」



スイスイと犬掻きで泳ぐ定春に振り返って濡れた髪を後ろで一つにまとめた



「やっぱり兄妹って似るもんだねィ」



独り言とも話しかけているとも聞こえる声のトーンで響いた声に振りかえる

今の自分にとって、それは嬉しくない言葉で
特にこいつから言われるとなんだかシャクに触った

大きなため息をついてから答える



「バカ兄と一緒にすんなヨ」



あんまりにも自分の声が子供っぽく聞こえて嫌だった
震えてるような気がして、また意識するうちに小さなため息がこぼれた



「お前もバカだろ」



手のひらで水をすくいあげると、落ちないうちに草原に眠る少年の方へ投げる
どうせ届かないから、今度は水を蹴ってみる
届かない…。

サドはわざわざアイマスクをずらして意地になって水を飛ばす私を笑った



「バーカ」



ニヤリと嫌な笑いをふくませてそう言うとアイマスクをつけなおして一気に寝るモード
ムッとしたまま頭に浮かんだ一つの言葉



「あんな兄、はやく死んじゃえば良いアル」



言葉にしてからまた子供染みた自分に嫌気がさした
そして、ふと思い出す
そういえばコイツにも姉が居た
いつだったか、ポロリと漏らした
あまり自分のことを話さない彼がこぼした
小さな昔話

否定しようにも何を言えば良いかわからなくて
後悔しかなかった
心なしか寂しげに見える彼になんと声をかけて良いかわからなかった



「ふーん」



首筋に髪からのものか自分の汗かが流れた



「いや、居ない方がマシ、ネ」



言い換えてみるけど心には罪悪感が降り注ぐままだった
定春は私のピンチに気づいてか鼻で私の背中をつつく



「そうかもねィ。」



アイマスクを外すことはないし、やっぱり…
言わなければ良かったのに
後悔に後悔が重なって言葉が喉の奥で詰まっていく
言い訳を考えたって言葉となって出ることはなく喉の奥に積もっていくだけだった



「俺も、お前が妹だったら絶対嫌でィ」



「私だってお前みたいなのが兄だったら最悪アル!」



やっとのことでナチュラルに飛び出してきたのは文句
彼に言える言葉は限られていて、伝えることができなくて
厳選された選りすぐりの無駄口ばかりだ



「そうじゃねェ…。だから、兄妹だったら結婚できねぇだろィ」



アイマスクを外してガバリと起き上がるサド
少しだけ顔が赤い気がするのは日焼けのせいだろうか
持っていた傘をクルッと回した



「は?」



沈黙が続いて出た言葉たちは
意味もなく空気に振動して消えていく



「なんでもねェよ。俺は寝る!邪魔すんじゃねーぞ」



(ああ、やっぱり言わなきゃ良かった)



そうやって何度も後悔して少しずつお互いが距離を近づいていくのはもっともっと、後のお話



後悔シリーズ1

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