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□淡い想いと
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隣りの人が座った衝撃に驚き顔をあげた
目を合わせることはなかったもののしっかりと相手の顔は確認できた
どこかで見覚えがある気がする…
誰だっけ?なんだっけ?
思い出そうとするうちに講義室の中に先生らしき気だるく白衣をまとった白髪の男が教壇に立った
あれは知っている
入学式の日に教師とあろうものがいびきをかいて寝ていた
それがあの気だるく白衣をまとった白髪の男だった
かっこいいと騒がれていたけども、中身が残念なのだと言うことは入学式の時にわかってしまったので本気で狙う女子は少ないもののファンは絶えない
そういえば…もう一人かっこいいと騒がれていた奴が居た気がする
先輩がかっこいいならばよく聞くことだがその騒がれていたもう一人のイケメンは同じ新入生であった
隣りをもう一度盗み見る
そのイケメンもこんな明るい茶色の髪だった
今度は顔を見るのは気が引けたので手を見つめた
ゴツゴツしてるようで綺麗な手だ。肌も白く、指も長い

もしかして…
心の中で答えを見つける前に後ろから女子のヒソヒソ声が耳に届く



「沖田くんだ…!同じ授業とかめっちゃついてるね…!」



「授業の間沖田くんも銀ちゃんも眺めてられるなんて幸せだねー!」



やはり、騒がれていたイケメン、沖田…らしい。
今度はどれほどのイケメンか確認してやろうと遠くをみるようなフリをして隣りを見た瞬間であった
目線と目線がぶつかり合った
もっとも近い表現としては私が彼を目線でとらえる前から私の方がとらえられていた
綺麗な頬のラインの下、首元は骨ばっていて美しさから男らしさまで感じさせられた
心臓が大きく動いた瞬間彼は薄い唇を小さく動かす



「何チラチラ見てんでィ、雌豚」



カッと血が登るのを感じた時には立ち上がってグーで殴ろうとしていた
が、その行動よりもはやく彼は私の腕を掴んでいた
白髪の教師はしばらく黙って私たちのアレやこれやの攻防を見ていたが、飽きたのか勝手に授業を進め始めた
のに気づいたのは授業が終わるチャイムがなった時だった



「お前授業中になんてことするアルカ!?」



出していた教科書やペンケースをまとめてリュックに詰め込むと隣りでふてぶてしく足を組換えながらあくびをしている沖田とかいうクソ野郎を見下ろした



「やられたのはこっちの方だろィ。怪力女」



音にすればキーッ!という音が似合うだろう。怒りは再沸騰していた。
思いっきり蹴ってやろうとしたがそれを予測していたのか席から立ち上がり私の攻撃をよけた
ぶつける予定だった怒りは椅子にだけ命中してそれがまた弁慶の泣き所とも言われるスネに当たったものだからうずくまって死にかけた



「お前が挑発してきたからアル!」



叫ぶように言い返すと教室から出ようとしていたあいつは足を止めて振り返るとニッコリと微笑んだ
悔しくも心臓は大きく音を鳴らす
イケメンってやつは本当に罪だ



「人のせいにするのは良くないと思いますぜィ?神楽サン」



イラっときたのと同時に気がついた
何故、名前を知っている…?
よく見ると彼の手には一枚のカード
それは証明写真つきで大学のイメージカラーだ



「生徒証!?」



クスリと鼻に掛けたような笑い方はそれを肯定していた
しかも、まじまじと私の証明写真を見てまたバカにしたように笑った

確かにそうだろうよ…高校までは牛乳瓶の底のように分厚いグルグルメガネをかけていた
それがかっこいいとも思っていた…
大学に入ったら生まれ変わる予定だったのに!
うっかり学籍番号忘れて取り出した私がバカだった!気を抜くんじゃなかった!
駆け足で追いかけたが彼は止まることなどせず大股で廊下を優雅に歩く



「返せヨ!お前バカじゃねーの!?どんだけ人の気分を害せば気が済むアルカ!?」



「この格好でアルアルアル中だったのかィ?どこの商売人でィ。絶対あだ名チャイナだったろィ?」



「アル中関係ないだろーがァ!!」



足を踏み切って彼の手元から生徒証を奪おうとしたがそれも予測されていたかのようにいとも簡単に避けられてしまう
そして服の端をグイグイと引っ張って止めるという強硬手段に出た私にクルリと振り返ると、生徒証を私の目の高さまで差し出すと、ニタリと嫌な笑顔を浮かべる



「これ、あげようか?」



変な江戸っ子口調も忘れてゆっくりと言葉を発する彼は別人みたい
本当にただの親切な人にすら思える



「うん。」



泣きそうになりながらも頷くと彼はニタリと嫌に笑っていた口角をもっと上げた
そして腕をゆっくりと上にあげる

もしかして:(上に)上げる



「はい、あーげた」



はやく教えてよぐーぐるさん!私素直に頷いちゃったじゃねーか!
手を上げようともやっぱり身長で負ける
届かない



「じゃ、また明日な」



手を上げたまま半泣きの私の頭にポンっと生徒証を持っている方とは逆の今さっきまで見ていたちょっとだけゴツい女のような手をのせると駆け出して行った

乗せられた手と意地悪じゃない笑顔
追いかけることもできずに言葉が頭の中で繰り返された
"じゃ、また明日な"
また…明日…?

一気に顔が熱く感じる
何かが燃えているのとまた違う、血が巡る感覚
熱い、ドキドキしてる…。
また、明日?
言葉の意味と、今の自分の現状を理解すると変な汗までかいてきて
しゃがみ込む



「む、ムカつくううううう!」



叫んでから手で口元を隠す
口角が上がるのが止められない
これから、楽しい生活が始まりそうだ



淡い想いと

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