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□ずっと見つめて
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今日もか…
心のどこかがムッとした
なんだろう…何かが引っかかってる
全てはあいつのせい
メガネをかけてないあいつのせい



「今日もメガネ忘れたのかィ?」



「うるさいアル」



こっちを見ることもなく
机に突っ伏したまま応える彼女は隣の席のいつもムカつくチャイナ娘
理解のし難い良い性格をしている。とてもムカつく。



「今日で三日連続?バカじゃねーの?」



何も応えずにうつぶせたまま
寝不足?
それとも…なんか嫌なことでもあったのだろうか…?例えば、…失恋とか?

何考えてるんだろう…この思考回路はおかしいぞ…



「メガネ、もうかけないかも…」



やっと顔だけはあげてそう答えたが、目線の先は何をみているのかわからなかった
黒板を見ているのか、真ん前の席の男子を見ているのか
何も見ていない、1番近い気がする

俺も同じように机に身体を預けて首だけはチャイナに向ける
チャイナはそんな俺を見ようともしない
白い首筋に細くサーモンピンクの鮮やかな髪が一本一本映えて見える

綺麗だ
って何考えてんだ
俺がメガネかけた方が良いかもしれない



「また壊した?」



「ううん」



唸ったようにも聞こえたがこれは否定のようだ
からかおうにもなんだか元気がないような気がして
なんて声をかけて良いのかわからない
どこか、心の中がモヤモヤしだす
いつもの調子ではない
風邪でも引いたのだろうか?
引いてなどいないとわかっていながら手の甲を頬にあてた
熱い…気がする
でもこれは風邪なんかじゃないと思う
だから…

俺はうつぶせて真っ暗な世界に逃げ込んだ



「神楽ー寝るなー128P目読めー」



授業が始まる頃には自分の熱は引いていて落ち着きを取り戻しはじめていた
チャイナが居る左側だけが、少しだけ熱を帯びている気がする
呼ばれても目を覚まさないあいつに頬杖をついている逆の手で軽く殴って起こす
ベシッと乾いた音が響いてあいつは目を覚まし、俺を睨んでいるようだが俺は目線の端であいつを見るだけで文句はスルーしておいた
もう一度銀八が128Pと指示すると渋々という感じで教科書を取り出して読み始める

頬杖をつきながら立って読むあいつを見上げる

メガネがないからか教科書を近づけて見ている姿に新鮮さを覚えた
俺が見ているのに気づいてかチラリと俺と目が合うとすぐに目をそらされた
なんだよ、と呟きたくなったがそれ以上に何故だか顔が火照ってきて変な感じ
これは、たぶん、メガネをかけてないあいつに見慣れてないから変な感じがしてるんだ!

教科書に隠れるように机にたて寝ようとすると銀八にチョークを投げられたがそのまま寝た



放課後になってちょうど掃除当番だったため、教室に残っていた
俺が掃除当番ということは隣りの席のチャイナも必然的に掃除当番となる
机を適当に運ぼうと持ち上げ、顔をあげた瞬間にチャイナと目があった
心の中で何かが始まるゴングがなった気がした
その瞬間にチャイナも急いで机を持ち上げて運び出す
負けられない!
それしか思い浮かばずに競うように掃除が始まった
箒ではわくくらないならばキレイさよりも早さが大事でだいたいをはわきおわったらまた机運び競争が勃発した
何故俺が掃除の時に置き勉するやつ多いんだ
そろそろ終業式だろうが、持って帰れよ
重たさに机をひきずろうとした時だった
急いで運んでいたであろうチャイナがガターンと音をあげて机と共に倒れていった



「いってぇえ!!!」



机につまずいたのか机はチャイナの下敷きになっているし、中身も全てぶちまけている
どうやって運べばそうなるんだよ
無視しようか、とも思ったが自分の運ぶ先にも中のものが散らばっていてどうにも運べそうにない
ふうーっと大きくため息をわざとして落ちているものを拾いに行ってやった
チャイナはまだ打ったところが痛いらしくうずくまっている
まあ、痛い痛いとわめいているから元気そうだ



「これ…」



拾ったものはメガネケース、しかもこれは、以前見たことがある…確か…チャイナの…
ん?でも忘れたと言ってなかったか?
中身を確認しようと軽く振るとコトンと小さく音をたてた
中は入っているようだ
じゃあ何故…忘れたなんて…?



「これ、お前のじゃね?」



拾ったものをチャイナに差し出すとそれが何かわかったらしく罰が悪そうな顔をして乱暴にそれを受け取った



「せっかく拾ってやったのにそれはないんじゃねェ?」



嫌味っぽく言ってやったがチャイナはなにも言い返してこない
今さっきまで抑えてたスネももうどうでもよくなったようで
メガネケースを後ろ手に隠した



「忘れたんじゃなかったのかィ?それ。」



一方的に俺が話しかける中でチャイナは黙りを決めこんでいた
どうしようもないか、と机を運びに戻ろうとした時だった



「眼鏡だと見えちゃうアル…」



振り返ってくびをかしげる俺にすがるように彼女は泣いていた
いきなり過ぎてどうにも追いつけない
どうすればいいかわからずに黙ってそばで膝立ちをして覗き込む
隣りには引っかかってしまったであろう箒が落ちてる



「眼鏡なんだから見える方が良いんじゃねェの?」



内心オロオロしていたがそれを悟られるのは嫌で平喘としているふりをした
落ちる涙も気にせずにうつむく彼女
今さっきまで後ろで隠すように抱えていたメガネケースは胸の上で大事に抱えられていた



「嫌なところも良いところも全部見えちゃうネ。もう、頭がおかしくなっちゃいそうヨ…。」



伏し目がちだった顔をあげて覗き込む瞳は大きくて、ポロリと落ちる水玉に見惚れた
瞬間的に納得した
自分は、彼女が好きらしい
今触れたいと思うこと自体がソレを認めている
いや、前から気づいていた…認めたくなかっただけで…きっと
そうだ



「全部、見とけば良いだろィ」



彼女の頬を両手で包んで固定させる
俺だけ見ていれば良いだろう?そんなキザな言葉は言えないけれど、見つめる先は真っ直ぐに彼女へ落とした



「嫌なところも良いところも、全部」



チャイナは頷く代わりにゆっくりと瞬きをした
たぶん、それは頷きだった
抱きしめたくなる衝動を抑えて、心の中で願う

全部愛しく思えるくらい、俺を好きになって苦しめば良い…



ずっと見つめて



「それは無理アル」

「え?」

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