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□ああ、青い春よ
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手の中にある手提げに力を込めた
…これ、やる。…うーん、なんか違う
今日はホワイトデーだから…違う
何度も頭の中ではいろんなセリフを試しているけどうまく当てはまるものはなかった
学校への道のり、なんだか気が重い
いつもならチャリだけど、わりかし小さな紙袋なため崩れたり壊れたりしそうで今日は歩き
もうそこまで考えて来ていると思われるのが本当に嫌だ
別にあいつのために頑張ってるんじゃなくて、なんとなくもらったままだとモヤモヤするから…
足取りは重たいがどこか背中を押されてるようにも思う
これのおかげで今日はちょっかいなどかけずとも話す機会ができた
拳は握りしめたままだし、肩もなんだか力が入っている気がする
道の端っこに寄って身体を反らし深呼吸を試みたときであった



「サード!」



「げほっ!」



後ろからの衝撃で俺は咳き込んだ



「ちょっと押しただけで、軟弱者アルな」



朝の挨拶もなしに澄まし顔でそう言うと俺の少し先を歩き出した



「お前の力が強すぎるだけでィ。これだからゴリラは困るんでさァ。」



ふっと気がついた時に手の中の箱は電信柱にぶつかったのだろう、箱から形が変わっている
どんな勢いで押されたらこんな衝撃を受けるんだよ
中身を見ずとも箱と同様に壊れているだろう



「?何アルカ?それ」



今気づいたらしいチャイナをギロリと睨むとチャイナも俺を睨みつけてからぷうっと頬っぺたを膨らませた



「どうせ私には関係ないとか言うんダロ」



「まあ、そうかもねィ」



嘘を平気でついて、内心オロオロ
実はこのお返しも姉に相談してまでやっと決めたものでそう簡単に手に入る値段でもなかった
少しお高めだったのだ

どうしよう、同じものを渡すのも…なぁ…
どうせ壊れてるだろうし

そんなことを考えながらもロスした時間を取り戻すために早歩き
てこてことチャイナがついてくる音がする



「今日はホワイトデーアルよ!」



「知ってらァ」



知ってるから困ってるんだろうが!お前へのお返しだからなやんでんだよ!
なんて言えずに、何食わぬ顔を突き通すしか俺にはできない
早歩きの俺を追い越すほどの大股早歩きで不機嫌そうに通り過ぎて行くチャイナ
こんなことをされると俺も負けずにチャイナを追い越す



「すいやせんね、こっちの方が身長も高くて足が長いもんで。あっれーチャイナどこー?見えないんだけど。ちびすぎて。」



結局はこうやって喧嘩だ
俺は普通に接するやり方がわからなくて、いつもこうなってしまう
周りに手本となるような男が居ないのが問題なんだと思う。
チャイナはそんな俺に歯向かうかのように走り出す
そしたら俺も、ってなってそしたらまたチャイナから追い越されて追い越して
前回の神威との対決のように走って学校についたらまだ少し肌寒い季節なのに汗だくだった



「…っはー…はー!あーあ!…っ疲れたー!誰かさんのせいで!」



技と大きな声で呟いて下駄箱まで入っていくと、チャイナもかなりバテていたのだろう
バトルなど関係ないように歩いて俺の後に下駄箱に入ってきた
俺が靴を履き替えているのを見上げて止まる



「なんだよ」



優しく言うつもりがやっぱりぶっきらぼうになってしまう
理想とはかけ離れた音だった
喧嘩しか始まりそうにない



「もしかして、ホワイトデーのお返しだったりするアルカ?」



シュンッと落ち込んだような顔して見上げる彼女は一瞬だけ耳の垂れたうさぎを連想させたが、気のせいだ。うさぎがかわいそう!



「だったらなんでィ」



「お前いっぱいもらってたよナ?」



「…まあ。」



質問の意図は理解できないが、何か反省しているのか落ち込んでいるのかしたチャイナは可愛いことがわかった
うさぎと一緒にするのはダメだが



「本命にだけ、返す…とかアルカ?」



そう言って指差す先には崩れてしまっている紙袋
ああ、お前にやる奴だけどな。なんて爽やかに言えるわけもなく

…ほ、本命って…ほ、本命…いや、本命だけど…。本命ですけど…!
ここで言うべきなのだろうか?

口を開けようとしたらチャイナはもうその雰囲気で察したらしい言葉をかぶせた



「弁償はできないけど!その他手伝えることなら手伝うアル!お前のことはどうでもいいけど、もらう方がかわいそうネ。」



それはお前だって
言いたいけど…まあ確かに、これを渡すのはちょっとかわいそうだろうか
これで告白したら確実にふられるよな
こんなボコボコのプレゼントなど…



「じゃあ、お前選べよ。1000円以内で買える良い感じの奴。一応女子ならそれくらいできるだろィ?」



えー!っと大きな悲鳴をあげたが…いろいろ自分の反省すべき点を考えたのだろう
うんっとゆっくり承諾した

じゃ、放課後とだけ伝えて教室に逃げ込んだ
チャイナもたぶんそれが聞こえた時には予鈴がなりはじめていたから教室に入っただろう

放課後デート
まだ付き合ってないけど、そんな言葉が浮かんで口角が上がってしまいそう
ここで悟られてからかわれるのはプライドが許さない

そうやって努力したにはしたが、やはり機嫌が良いことは隠せず周囲はだいたい気づいていた



「おっせェ」



「友達の意見を聞いてきただけアル!お前のためにやってんだからちょっとくらい許せヨ!みみっちい男アルな」



それに言い返しながら最寄りのショッピングモールへと足を進める
もうついてしまう頃には言い返すのでさえめんどくさくなってお互いに無言であった



「本命なのに1000円以内で良いアルカ?」



「このボコボコの紙袋が案外高かったんでさァ。しょうがねぇだろィ。」



そう言うとチャイナは見る見る小さくなっていくようだったが足はちゃんとホワイトデーのお菓子コーナーに向けられていた
ちょっと可愛い



「…な、なんか!本命には飴が良いんだって聞いたネ!飴ってずーっと甘いでしょ?だから、これから一緒に甘い時期を過ごしましょう。って意味なんだってヨ!」



「知ってる。だからこの紙袋ん中も飴細工だぜィ。もうバラバラだろうけどねィ。」



また小さくなった気がする
ちくりちくりと攻めていくのが良いらしい
笑いたいのを堪えながら隣りを歩く



「あ、ちゃんと本命の子には今日渡せるアルカ?時間とか…」



慣れないくせに気なんか使って変なの。そこが可愛いけど。
…でも、もし俺のこと好きだったらこんな気なんか使わない
俺の応援なんかしない

脈なしか

ずいぶん前からわかっていたのにこうやって痛感するときついもんだ



「お前は?」



「は?」



「時間」



俺の質問が意味わからなかったらしく、眉間にシワを寄せながら小さく頷いた
どうやらチャイナも本命との約束は取り付けて居ないのか
いや、興味がないのだろうか?そんな気がする



「なら、大丈夫でさァ」



素っ気ないふりをして返した言葉
それでも心臓はバクバクいってる
バレただろうか?
俺はお前に渡すつもりだ
そう言ったようなもの

緊張しながらチャイナの表情をチラ見

…あれ?なんか…
すっげーどうでも良さそう
聞き流してる!?
今さっきの俺のドキドキは何だったというんだ…!



「あー!これ可愛いアル!」



気にしていなかったらしいチャイナは飴ちゃんコーナーではなくアクセサリーコーナーに入っていってしまった
マイペースは変わらないらしい
可愛いけど!!



「ネックレスとかお前使わねェだろィ?」



覗き込んでるのはイニシャル入りチャームのネックレス
チャームはウサギの形だし、チャイナらしいっちゃらしい
千円以内…ではないけれど…



「可愛いなって、見てただけネ!お菓子コーナー行くアルよー」



自分が勝手にどっかいったくせにまるで俺が脱線させたかのように振る舞いながら移動する
ちょっとムッとはしたがチャイナの可愛さにすべてかき消されてしまった



「カラフルで可愛くて美味しそうアルナ!」



今さっきの乙女なチャイナとは全然違う食い意地のはったチャイナ
全部わかっているようで今日初めて見れた表情もあって、俺はただただ引き込まれていくばかりだ



「あ、ウサギ!すごー!飴でこんな細かいとこまで作れるんだナ!びっくりネ!」



俺が買うのにまるで自分のもののようにはしゃいでる
まあ、どうせ彼女にあげるんだけど。
こんなに喜ぶのなら、この紙袋もぐちゃぐちゃにならなければとびきりの笑顔で受け取ったに違いない

こいつが原因でボコボコになったのだが…
それのおかげで放課後デートなどということまでできているし…
で、ででででで、ほ、放課後デート…!



「あ、この大きい瓶に入ってる飴!安いアルよ!量たくさん入ってるし、カラフルだし!お得感満載ネ!」



それ、もう普通の買い物だろうが
と、突っ込もうか悩んだけど…
もう良いや
俺の中ではもう決まっている

お前に渡すんだから、お前が好きなものを。
それが何より大事だろ?



「わりー、ちょっと便所。そこで待ってろィ。迷子にならねェように勝手に動くんじゃねェぞ。」



「もうこの年で迷子になんかならないアル!さっさといって来いヨ!」



そう言ってチャイナはまたたくさん並んだ綺麗な飴細工を眺め始める
俺はそれをチラチラと遠目で確認しながら今さっきのネックレスのあった場所へ!
イニシャルを覗き込んで居たところで店員さんにロックオンされていることに気がついた



「そちらよく彼女本人様のイニシャルではなく彼氏様の方のイニシャルを贈られる方多いですよー!男除けにもなりますし、浮気防止にも効果的です。」



ふふっと何がおかしいのか笑う店員にちょっとイラつきはしたものの
悩むのはそんなことじゃない

チャイナのイニシャルがKで、俺のイニシャルはSで…。
やっぱりKが無難?もし付き合えるなら…Sを持たせたいとも思うが…
先走りすぎてるようで恥ずかしい



「ペアリングも人気でして、裏にイニシャルを入れるサービスを無料でやらせていただいてます。」



今はそれどころじゃないんだ!まずそれでも入れるとしてS & Kとか…!入れるのか!?絶対それもう先走りすぎてるから!



「ネックレスのイニシャルも控えめなデザインなので普通に使いやすいんですよ」



何も返事をしない俺にここまで話しかけてくる店員はすごいと思う。
いや、そんなものなのか?
頭の中では考えることが多すぎてパンクしてしまいそう
便所に行ったと言ったってそんなに時間がとれるわけじゃない

よし、決めた
ネックレスを手にとった
イニシャルは…S…。これくらいしないと、俺の告白に気づいてくれなさそうなチャイナだ。
どうせなにもわからずネックレスを着けて俺のモノだと知らぬ間に主張していれば良い…とも思っていたりする。
とりあえず、告白を…、するのだ。

よくしゃべる店員に適当に相槌をうちながら綺麗にラッピングしてもらいそのコーナーから出た

財布の中が、寒い
もうすぐ春だと言うのに…
春よ、こい。いろんなところに。俺のところに。



「おっそいアル!う○こだったアルカ?」



「これ、やる」



ムードなんてわからないから
勇気があるうちに届けよう

ネックレスの入ったちょっと安っちいが、それなりの袋を差し出す



「…?なんで?」



「お礼…みたいな。」



言えていない
告白になってない!
お礼ってなんだよ!違うよ、逆告白だよ!
にぶちんのチャイナがわかるはずもなく
何か疑いながらも袋をあけて覗き込む
中には小さな縦長い箱
それを手に取るとまた首をかしげた



「あけて良いアルカ?」



恥ずかしくなってきてうつむきがちに頷くとチャイナは素直にその箱をあけて固まる



「え、今さっきの…!」



驚いてるチャイナ、今日発見した。大きい目はまた大きくなるんだ。
可愛い
こぼれてしまいそう

そしてまたボコボコの紙袋を差し出す



「これも、お前への俺の気持ち…。」



中は飴細工
意味もさっき知っているようだった
それをわかってこれを選んだ
そしてそれをチャイナに渡すんだ
これならきっと、伝わるだろう



「…本命の子には何渡すアルカ?」



わかっていなかった

そうか、こいつバカだった
けっこう前からわかっていたけど、読解力はなかった。
しょうがないかー。言いますよ?言います。



「本命の子に、今やっと渡しやした。…好き…でさァ。」



真っ直ぐ投げた言葉をチャイナは全身で受け止めたかのように肩を揺らした



「あ、あけていい?」



「おう」



返事を待ってはみるが、どうせふられるのはわかっている
だから、喜ぶ顔だけで良いから…見ていたい



「ウサギの飴細工…!」



期待以上に目を輝かせているチャイナ
可愛いってわかっててやってるだろ?そうなんだろ?
俺は今日一日で何度も何度も可愛い地獄に落ちてる
チャイナ=可愛い で結んであるんだ

チャイナの喜ぶ顔の先の飴細工を見る、跡形はなんとなく残っているがぐちゃぐちゃになっているだろう
そう思っていたのに



「あ、生き残ってる」



鮮やかで細やかな飴で作られたうさぎは何もなかったかのように形を崩してなどいなかった



「…好きって言われたら、好きになっちゃうタイプかもネ」



ぼそりとつぶやかれた衝撃の告白
これは、これは…!?



「ネックレス、着けてくれますかィ?」



いたずらに微笑むと、頬をピンクにして頷いた

場所はいつものモールのホワイトデーコーナーで、最悪なのに
彼女と彼は幸せそうに微笑んで隣りを歩いてる



あ、春がきた

彼は桜の花びらを心の中で舞わせるのであった



ああ、青い春よ
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