SS2

□涙のあとで
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目が覚めると、彼女はいつも居なくなってた

彼女が居なくなる前に目覚めた事もある。
その時彼女は時々俺の名を呼びながら泣いていた
どうにもできずに、俺はただ、寝たふりを続けるしかできなかった。



「チャイナ、今日もくるかィ?」



「うん。行くアル。」



俺たちは大学は違えど付き合って居るし、毎日のように連絡はとっている。
大抵俺の家に来て泊まって帰る。
俺は一人暮らしだし、チャイナが来るのはとても嬉しいことだった。
大学にはちゃんと行くものの、剣道のサークルには入らずに知り合いの武道場に通っていたから帰りが遅くなることもまちまちなので帰って来た時に家に電気がついていると浮ついた気持ちになるのだ。



「ただいまー。」



家の中に入ればくったりと寝入ってるチャイナが目に入る



「玄関で寝るなィ…」



担いで運ぶかな、とも考えたけど
自分を待ってて寝てしまったのだと考えると愛しく思えて
軽くチャイナの頬をつねった
んん…と小さく漏らされる声にドキドキして、何やってんだ自分!と手をひいた



「そーご…」



「…ん?」



寝ぼけているのだろう
ぱっちりの目は半分ほどしか開かれておらず、いつもは名前で呼ばないくせに呼んで俺の首に絡みついて甘えてくる



「汗くしゃいアル」



「うるせぇー。絡みついて来たのはそっちでさァ。」



うん。頷いたのも束の間
その白い頬を涙で濡らして行く
わけがわからないのにどうにかしてあげたくて
わからなくて、抱きしめ返す



「ごめんネ。自分が、わかんないアル。」



なんと返すこともできずに黙り込む
もっと女慣れしておけばこれにも良い言葉がかえせたのだろうか
そうなら、本当に自分が嫌だ



「わけわかんないよネ。でもね、好きアル。」



「うん。わかってまさァ。」



出てきた声は震えてて
どっちが泣いてるかわかりゃしねぇ
ただ彼女の安心できる場所になりたいんです。
それだけなんです。

彼女の手は少しだけ力が緩んで
俺を掴んだまま眠っていた



「…はぁ。」



この答えであっていただろうか。もし、他の答えを望んでいたなら、俺は何も返せない。
おしゃれな言葉、気の利いたセリフ、かっこいい動作
全部わからない
そんな自分へのため息だった。



「飽きれた…。」



チャイナが少しだけぎゅっと掴んだような気がしたが
眠っているだけのようでベッドに優しく降ろす
前よりカレカノらしいと思う。
前の方が良かったのか?
彼女でも彼氏でもなくて、友達ならこんな泣き方をするチャイナを見なくてすんだのだろうか



その朝も彼女は何時の間にか帰ってしまっていた
きっと…また泣いてた



「あーもーまじで嫌でィ。」



「沖田がなんか死んでるんだけど!」



「まじだー!あげーだよ!沖田くん!」



大学のざわざわ感に溶け込むと
そんなダメな自分でも良いのかなと思えた
悩んでることさえ忘れて、はしゃげた

それはまだ子供だったから…?



「沖田くんなんか悩みでもあんのー?」



「関係ないでさァ。」



かっこ悪いとこは誰にも見られたくねぇよ
彼女にはもっとかっこ悪いところは見せたくないのに
いつも何もできない



「ちょっとなんなんですかィ?あんたんとこの娘さんは…。」



帰りぎわに母校によって、かつての担任とご対面
相談できる人って本当に思いつかない
担任を選んだのは絶対人選ミスだ

いつものように気だるそうにれろれろキャンディーをくわえ
めんどくさそうにたぶん、彼なりにもてなしてくれている
たぶん。



「なに、また神楽と喧嘩したの?はやく仲直りすれば?」



「喧嘩だったらどうにかなりやすよ…。ちげぇんでさァ。」



やれやれ、とため息をついて
何を話そうかと今更考える
ちゃんと相談するとしても、どこから?



「どうせ、あれでしょ?あいつの考えてる事がわかんない。とか」



「まあ…そうでさァ」



人選ミスではなかったかもしれない
こいつは俺の事もチャイナの事も全部見透かしているのだから



「聞けばいいじゃん?簡単じゃん?」



「何を、ですかィ?」



「わからないとこ」



やっぱり人選ミスだ
こいつはわかってるからこそ大事なことは答えてくれない
それは、俺たちを信じてるからなんだろうが
本気で今はイライラする



「別れる、とかの方面も視野にいれといた方が良いんですかねィ?」



これはただの賭け
銀八がなんて答えるかの賭けだ
本当別れる気など一切ない
それでも、なんて答えるのか聞いてみたかった
なにバカなこと言ってんの?って言ってくれたら…



「価値観が合わないなら別れるしかないんじゃない?」



少しだけでも安心できたのに
その期待は脆くも崩れ去る
別れるしかないってなんだよ
別れる道なんて、俺は見つけきれないよ



「わかんねぇよ。一緒に居ても他人は他人なんだから。相手のこと考えたって、わかるわけねぇだろ。」



「そらァそうですねィ。」



その後の会話はうわの空で少し暗くなり始めてから家に帰った
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