SS2

□その時まで
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最近時々視界が霞む
ある一定の幅しか見えない
段々視界は狭まり
最後は見えなくなる
私は諦めて目を閉じた



「神楽…。」



「銀ちゃん?」



「なんか変なもん食っただろ?」



んっと首を傾げる神楽に銀時はわしゃわしゃと頭をなでる



「いきなり倒れたから新八がすげぇ心配してた。」



周りを見ればそこは銀時の寝床でいつもの押入れではなかった
自分の気を失う前までの一瞬の出来事をあぁ、またかと思い出し、今度は倒れたのかとため息をついた



「なんでもないアル。ただの貧血ヨ。」



「貧血ってあんだけ食ってもなんのかよ。」



素直に話してみるかなーっと悩んだけどやはりやめる
銀ちゃんにそんな事を言ったって、人間と天人はきっと違うところがあるのだ
話したって仕方ない。そう思った。



「散歩でも行ってくるネ。」



「はぁ?今さっき倒れたんだから寝てろ。」



「定春連れてくから大丈夫アル!」



銀時も心配はしているようだが神楽はそれがなんかむず痒くてバタバタと家を飛び出す

暗いことばかり考えてるからダメアル!

心の中でそう呟く
こんなことになるのは毎回らしくないような暗いことを考えてしまった時だった

そんなのは相談なんてできっこない
言うのがなんだか恥ずかしくて

定春と一緒に街を歩いた
定春は暑くてあまり動きたがらずに神楽がスタスタと歩いた

気晴らしにと思っていたのに頭はフル回転して暗いことばかり考えていた

その矢先に神楽の目線の先に沖田が目に入りからかいに行ってやろうと気づかれないように気配を消して歩く

神楽がもう少し近くに寄ったら飛びかかろうと思っていた時だった
沖田は隣りの女性に笑いかけていた
また視界が霞み
目線をそらす

なんで今また視界が霞んだの?

ゆっくり振り返って定春に抱きつく



「帰ろ。」



神楽は笑おうとしたがうまく笑えておらず、定春は首を傾げた
行かないの?と言わんばかりの表情を見せるので、神楽はまた複雑に笑った



神楽は傘を持っていたけど今日の日差しは強くて少しでも気をぬくとクラクラして倒れそうになりビルの隙間の影に入り込み少し休むことにした



「おい、ここで何かやってやがる?犬がでっけーうんこしてんぞ。」



少し遠くを見つめていてその声にハッと現実に戻った神楽に沖田はいつもと違う雰囲気に首を傾げた



「なにアルカ?」



「だから、犬がうんこしてっから片付けろって言ってんでィ。」



「んー、お前が消えたら片付けるアル」



気分悪そうに目を瞑る神楽にいつも通り喧嘩をおっぱじめるのも気が引けたので沖田は神楽のおでこに触れた



「日射病かィ?」



「暑い、触んナ。」



いつもはもっとギャアギャア騒ぐくせに今日は静か。
本当に参っているようだ

調子狂う…。



沖田は近くの自動販売機で飲み物を買って神楽の元に戻る



「ん。」



神楽がそれを受け取ろうとするとひょいっと上げて缶をあけて見せつけながら飲む



「あー…うめぇ…。」



「お前がちょっと良い奴に見えたあの瞬間を返せヨ…。」



しゃべってからヘナヘナと座り込む神楽に半分くらい飲んだ缶を渡す
どうせ飲みかけとか飲まねぇと思っていたが神楽は受け取ってコクリと飲んだ

関節チューじゃねぇか

そんなこと意識する自分が恥ずかしくて何も気にしないふりをする



「お前って、誰にでも優しい?」



神楽の変な一言に首を傾げながらも



「いつも優しいだろうがィ。」



と嫌味ったらしく答える沖田に冷めた視線を送る

沖田は私にはいつも優しくないヨ?
今日はなんで優しいの?

なんて聞けずに立ち上がってうんこを片付けて帰ろうとするところを沖田が手首をつかんだ



「なんかいつもと違うねィ?」



「お前の方が変アル。」



いつもは女の子に笑いかけたりしないヨ?
私にもあんな優しくないヨ?

頭の中は自分でも考えたくない事がグルグルとまわる中で神楽はまた視界がぼやけていた



「変…?どこが?」



「今さっき、女の子と笑ってたヨナ?」



しばらく考えてから思い出して微笑む沖田に怪訝な表情を浮かべる神楽
そんな神楽に挑発的な笑みを見せつける



「気になる?」



「別に。」



またクラリときてパタリと沖田の方にもたれかかり突き放す事もできなかった
沖田もそれを突き放す事をしなかった



「おぶってやろうか?」



「ん…。」



断ろうとするが、離れようとする手を掴まれ声をあげる時には頭がジンジンして反抗できずに沖田に抱えられた



「あれ、ただの市民だぜィ?俺だって笑う時くらいありまさァ。」



神楽は気になってた自分が恥ずかしくて黙り込んでしまい
沖田はそんな神楽にクスリと笑った



「あ、旦那」



「あれ?総一郎くん…と神楽…?え、なにやってんの?」



複雑そうに笑う銀時を見て、沖田はこれはいろいろと勘違いされたなと気づいたが何も否定せずに神楽を渡した



「はぁ、ドーモ。君が神楽を助けてくれるなんて日がくるとはね。」



「一応警察は市民を守るのが役目なんでねィ。」



適当に濁してからさっさとその場を去る沖田に、神楽は目も合わせずに銀時におぶさる



「お前今日は静かなのな。そんなに具合悪りぃの?散歩に来ただけだから!びっくりしたぜ。」



銀時があまりにも散歩に来ただけだと強調するが心配して探しに来たのはあきらかだった



「ねぇ、銀ちゃん…。」



「んぁあ?」



「視界が霞んだり、ぼやけて見えなくなったりとか、した事あるアルか?」



「んー…。」



悩む銀時にやはり天人だからだろうか?と少しだけ不安になってしまう



「そりゃ思春期って奴じゃねぇ?」



「シシュンキ?」



「そ。でも、夜兎ってんなもんあんのかわかんねぇけど。」



適当に答える銀時には、きっとそんな経験があるのだろう
そう匂わせるような言い回しだったが、それを深く掘り下げるのは気が引けた



「どうかナ…?」



「もしないなら、恋の病って奴じゃねぇ?」



「は?コイノヤマイ…?アルカ?」



「わけぇときってなんでこんなんかねぇ。青春見せびらかしやがって…。まあ銀さんは一生少年のような心を持ってるけどね!」



「頭ん中スッカラカンだもんナ。」



銀時に困ったように笑いながら
少しだけ安心して銀時の背中に全て預けた

霞んでいく視界に微睡みを覚えながら

いつか、わかるよ。
その時の輝きが。

銀時は眩しそうに目を細めた



その時まで

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