SS2

□おめでとうが言いたくて
1ページ/1ページ

ずいっと出された花を見つめる



「なんでィ」



「蓮」



「は?」



いつもはこんな事しないくせに
なんだ、いきなり
出されたものだし受け取れば良いんだろうが
黙って受け取るのも気持ち悪い
普通女から花をもらうものか?
渡すのが普通だと思ってたが、天人にはそんなんも通用してねぇもんかな



「受け取れヨ。」



「はー?お前からもらう義理とかねぇし、いらねぇよ。」



「これ以外準備してねぇんだヨ。黙って受け取るヨロシ!」



半ば強引に渡されてピンクい髪色のチャイナ娘は走って去ってしまう

なんなんだよ
なんか言えっつーの

あと、お礼ぐらいどうにかして言えば良かったな。
せっかく、ガールフレンドから初めてもらったものだし。



なんで蓮?
花ならもっと違うものでも良かっただろうに
バラ…とか?
やっぱりそれは男が女に贈るもんだよな。うん。

受け取ってしまった蓮を屯所に持ち帰り花瓶がわりに日本酒の瓶にいけた

やっぱり、ちょっと気になる
これってなんでもらったんだ?
なんか意味とかあんのか?

昔姉上が言ってた気がする

花には花言葉があって、素敵なのよ

なんて優しく微笑んでくれたような気がする
たくさんの花を家に植えてたな

そんな事を思い出しながら花言葉を考える
なんか、姉上と蓮を見たときに言ってたような気がする

なんだったっけ?
いろんな意味があって、なんだっけ?
思い出せない
当たり前か、何年も昔の話だから

ゆっくりと腰をあげて考えが浮かぶ
思い出すことなんて難しいだろう
花図鑑でも探してみるか
花図鑑ってどこにあるんだよ?
本屋?
俺が本屋…似合わねぇかな…
いやいや、モヤモヤしてる方が嫌だ



「隊長またサボってるんですかー?まあ良いですけど。て、蓮?どうしたんです?」



「見回り行ってきまさァ」



質問に答える暇などなく、俺は屯所を後にした



歩いていると頭に花つけたごつい天人と思われるモノが居て
その天人は蓮の手入れをしているようだった



「暑いですねー」



えっ後ろ見えてるのか!?とびっくりしたが、まあここで無視するのもアレだ



「そうですねィ」



ん?
この天人…見た事がある…
確か、銭湯で…

などと考えてるうちに彼が振り返った



「あれ?どこかで会ったことありません?」



「ひ、人違いでさァ!」



あぁ、終わったな
遠い目をしていた、が
彼はそうですか。失礼しました。と丁寧に返されたのでほっと胸を撫で下ろした



「それで、蓮を見つめていらしたでしょう?」



「あ、はぁ…。」



「何かありましたか?」



たぶん、こいつなら
わかるんだろうな
でもな…まぁ、聞いてみればいい
殺されはしないだろう



「蓮の花言葉って知ってやすかィ?」



「花言葉…ですか、なんだったかな…?」



やっぱり知ってるもんじゃないか
少しがっかりした
でもまだ手段はあるわけだし、といろんな考えが交差する



「まぁ、他で調べまさァ」



「あ、ちょっと待ってください。花図鑑を最近買ったんですよ。使う機会ってあまりなくて、良い機会なので使わせてください。」



こいつ、顔に似合わず良い奴だな
お礼を言ってしばらく立って待つことになった



「有りましたよ!」



嬉しそう?に本を掲げて調べ出す
あったあった、とたぶん上機嫌に読み出す



「花言葉は「雄弁」「休養」「沈着」「神聖」「清らかな心」「離れゆく愛」だそうですね!それと…」



まだ話していたが俺は最後の言葉にいろいろな事が駆け巡った
離れゆく愛
それって、あいつが伝えたかったこと?
どれも当てはまらないのにこれだけが心に突き刺さる



「ありがとうございやした」



丁寧な礼を残してさっさと歩いていく
ここからならあいつの家も近い
真っ直ぐあいつに会いに行こう
どんな気持ちとか全てを理解して受け入れる事は今はできない
ただ、少しだけ…こわかった…。



「「あ。」」



チャイナの家に着く前に保護者の方に出会ってしまった。
気まずい
旦那はすぐに見透かしてくるから嫌だ



「こわい顔してどうかしたのー?総一郎くん。悩みあるなら聞くよー?パフェおごってくれるなら解決策も考えるよー。」



適当にヘラヘラと笑ってるようでこいつは厄介だ



「すいやせん。ちょっと厳しい任務をくそうざい上司に押し付けられただけなんで、旦那には関係ねぇでさァ。」



たぶんこんな言い訳では通用していないだろう
やはり旦那は全てわかっているように笑っているんだ



「まぁ、関わってほしくねぇなら無理に関わったりしねぇからそんな変な顔すんなよ。」



「変顔の練習中なんで失礼しやす。」



「はは、じゃ、最後に一言…「銀ちゃーん!!」



ダダダダダッと足音が聞こえてくる
この声も足音も
彼女だ
チャイナ娘
あいつしか居ない



「え?なんで、サドと一緒アルカ?」



旦那はチャイナに気づいたぶっさいくな顔した俺から目を離さなかった事を知っていた
絶対ばれたであろう
だいたいの事が



「沖田くんに神楽貸す。晩ご飯までには返してね?おごってくれるなら別だけど!」



にっこにこでチャイナを押し付けてそそくさと逃げ帰る旦那は
少しだけ寂しそうな背中をしていた



「サド…、なんだヨ!なんか用アルカ!?」



ツンツンした彼女を抱きしめる
旦那に隠れて見られてても良いや
もう。



「なんで蓮…くれたか聞いても良いかィ?」



それは、
きっと…
2人の別れの合図なんだ
壊れる音が響く時なんだ



「お…前は、花の意味わかったのかヨ?」



「「雄弁」「休養」「沈着」「神聖」「清らかな心」だっけか?」



「へ…」



「あと…離れゆく愛…?」



目線を合わせると
びっくりしたような
落ち込んでるような
不思議な顔
なんで知ってるんだ?とでも思ったのか?



「離れゆく…愛…」



意味を確かめるように呟く彼女に首を傾げる



「なんでィ…それを伝えたかったんじゃねぇの?」



「んなはず…ねぇだろバーカ!もっとちゃんと調べろヨ!!」



怒ってぶんぶんと揺さぶられる
いや、わかんねぇよ
俺今さっき聞いた知識しかねぇよ



「離れゆく愛って何アルカー!!聞いてないアル!雄弁ってだけ聞いたアルー!!」



「はぁ!?じゃあなんで蓮なんか…」



黙る彼女はモジモジしていて
言葉を発するのはもう少しかかりそうだ
しょうがない。無理矢理吐かせるか。



「俺はそんなに気が長くねぇんだよ。酢こんぶやるから言え。」



ぽいっとなげるとそれをすかさずキャッチ
いつもお前のために持ち歩いてるんだっていつか伝える時がくるのだろうか
チャイナは酢こんぶを嬉しそうに持ち
また嬉しそうに笑って言った



「今日はお前の誕生日アルよ!」



「は?」



今思い出した
確かに誕生日
なのだが
意味不明
なんだそりゃ
誕生日の奴にはみんなに蓮をやるのが夜兎のしきたりか?



「だーかーらっ!誕生花って知ってるかヨ?」



「あ、あー…そんなのあったな。」



だから…ね?
とはずかしそうに笑う彼女は酢こんぶ一個ではもったいないくらいの笑顔

その幸せと一緒に思い出す
姉上との記憶

これがそうちゃんの誕生花、これは十四郎さん、あとは近藤さん。
ね?お花って綺麗でいいでしょ?
お花にはね、たくさんの花言葉があるの。
そうちゃんの蓮はね、「雄弁」その他にも「沈着」「神聖」「清らかな心」などがあるの。
とっても仏教でも神聖に扱われるお花なの
そうちゃんは清らかな心も持ってるし、ぴったりよね?

そうやっていっぱい話してくれたんだ。
思い出した笑顔が
幸せそうに笑うチャイナと姉上の笑顔で重なって
チャイナを抱きしめる



「…おめでとうございます。」



「…ありがとう、ございやす。」



聞こえたよ
姉上
大切な人の声と一緒に、貴女からのおめでとう

ありがとうございやす。
ずっと…ずっと…



「大好きでさァ…」



「ん。」



照れる彼女と照れながら笑いあう

大好きでさァ…
この日、この時間、明日、世界、全て、ずっと…ずっと…。



おめでとうが言いたくて

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ