光と陰の先

□光と陰の先 5
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女性は絵描きに全体のイメージを
伝えたのだった


「えっと、丸い時計形で振り子を付けて欲しいです・・・それと山査子の花を飾りで付けてください」


聞きなれない花の名に首を傾げる
店長に対して
真剣な面持ちで注文を聞いていた
絵描きは柔らかく微笑んだのだった


「了解。それじゃあ他になにかあったら言ってね?」

「はい!お願いします」


その声を聞くと絵描きは
先ほどまで作っていた時計の原型を
手元に引き寄せると黙々と
作業を始めたのだった

ごく稀に女性の細い声が響く意外は
大量の時計の秒針の規則正しい音と
微かに聞こえるジャズの品の良い
メロディーのみが空間を支配する・・・


張り詰めたように感じる空間だが
誰一人として居心地の悪さは
不思議と感じていなかった。

ふと飾りの花を作っていた絵描きが
作業を続けたまま女性に話しかけた


「誰にプレゼントするの?」

「・・・大切な人です」

「そっか・・・君の気持ち届くといいね」

「はい。・・・でもあの人鈍感だから」

「ふふっそっかー」


柔らかく微笑む絵描きに
女性も思わず頬を緩めるのだった

それから数十分後
絵描きの手が止まったのだった


「よしっできたー」

「ありがとうございました!」

「おー流石智くんだね」


完成した時計は丸い時計形を
囲むように金属の蔓が飾り付けられ
所々に山査子の花がちりばめられている

女性の部屋に飾るには
少しばかり地味なデザインなのだった


「店長おいらが包装する」

「えっ?いいけど珍しいね・・・」

「そうなんですか?」

「うん。いつもは作るだけ作ったら奥に引っ込んじゃうんだよ・・・」

「へぇー・・・」


絵描きは入り口のそばにある
沢山のペーパーの入った棚に近づくと
迷うことなく一枚の包装紙を
取り出したのだった。


「あれ?それ良いの?」

「うん。これじゃないとダメなの」


絵描きが手に取った包装紙は
よく見ると紙に直接柄が書き込まれている
一枚しかない包装紙なのだった

箱に詰められた時計に手際よく
紙を掛けると黄色いリボンで花を
作り両面テープで端に付けたのだった


「うわぁ綺麗ー」


女性は絵描きから商品と受け取ると
感嘆の声を上げたのだった


「ふふっありがとう。」

「良かったですね」

「はいっ!」


絵描きが包装している間に
お会計は済んでいるらしく
嬉しそうな笑みを浮かべながら
女性は出口に向かったのだった


「ありがとうございましたー!またのご来店お待ちしています」

「また来ますっ!それと智さんっ私頑張ってあの人のこと振り向かせてみせますから!」

「うん、応援してるよ」

「はいっ!ありがとうございました」



Vカランッとベルの音と共に
 また一人小さく一歩を踏み出した
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