光と陰の先
□光と陰の先 2
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深呼吸をした少年は
もう一度大きく息を吸い込むと
丁寧に言葉を紡ぎながら歌い始めた
絵描きは前方の踊り子を捉えていた
目を少年の声を聴くとすぐに
声の聴こえるほうへ向けたのだった
視線を向けるというよりは
その声に頭が持ち上げられているような
"ガバッ"
という音が聞こえるようだった
絵描きは少年から目が離せなくなった
その少年の歌声は
絵描きの心に愛があったころ
彼が大好きだったあの人の声に
とても似ていたから…
忘れようとしたけれど
ガムのようにしつこくまとわりつく
あの日の記憶…
いつの間にか絵描きの頬には
熱を帯びた雫が一粒一粒と
伝っていた
しだいにその量も増えていき
それが涙だと気がついた頃には
羽織っていた濃紺の上着の袖が
涙で黒く色を変えていたのだった