ありま。設定
(ありま。を知らない方へ
ただのんびりしたネジの緩い頭のおかしい女の子なだけです)








『それで、お母さんがテツヤくんをお父さんにうちの養子にどうかしら?なんて紹介したら、お父さん飲んでた珈琲吹き出しちゃってですねー。私も久々に爆笑しちゃって、あの時は本当に死ぬかと思いましたー。いつも無口で地味〜なお父さんが凄い動揺してたから、もうねーアハハー』



「…………………(超絶めんどくせぇ、こいつ)」



『あ、お菓子なくなっちゃった…。お兄さん、ちょっと私、そこのコンビニでお菓子買って来ますねー。行ってきます』



「は?おいてめ、一人でどっか行くな。どうせまた迷子になんだろが」



『きゃー、お兄さん私のこと心配してくれるんですかー?ありがとございますー、嬉しいー。あとでお菓子分けますねー?』



「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!めんどっくせぇなあ っ」



* * * * * * * * *



時間は遡ること、一時間前ー。
何となくの気分で霧崎第一高校のバスケ部は、近場で行われるというストバスに参加することにした。開場は13時ということで、それまでに各々集合場所に集まるように、と連絡してある。特に午前中に用事があった訳では無い花宮真は、予定時間より一時間前に集合場所に到着していた。開始する時間帯がお昼時ということもあり、ストバス会場の周辺で昼食を済ませようと考えていたのである。一人ぶらぶら昼食を取れそうな店を探し、とある喫茶店に入ったのであった。
ここまではいつも通りの花宮の生活である。
だが、この喫茶店に入ってしまったことにより、花宮は変な奴に出会ってしまったのである。



カウンター席で適当に昼食を取り、珈琲を啜りながら時間を潰し、時計に目をやれば丁度いいタイミングだった為、会計を済ませようとレジに並んだ。すると、自分の前で会計をしている、自分と同じくらいの年代の女子が、財布の中をがさごそと探しながら、あれ?と探し物が見つからない様子であった。店員が早くしろと言わんばかりのオーラを出しているにも関わらず、この女はマイペースにあれ?と首を傾げている。



ーおっせぇな…、遅れんだろー



その様子に内心舌打ちをし、優等生花宮が笑顔でどうかしましたか?とその女に声をかける。すると、その女は不思議そうに花宮を振り返り、ああと短く声をもらした。



『あー、すいません。お金が5円足りなくてですねー…。いやー、困った困ったーアハハー』



花宮はその女が口を開いた瞬間に、またも内心舌打ちをした。自分が嫌いなタイプの人間だとすぐに察知したのである。間延びして、のんびりとした声で話すこいつに、一瞬眉間に皺を寄せて目元をヒクつかせたが、瞬時に優等生花宮の笑顔にすり替えた。



「それはお困りですね。良ければ、僕が5円お貸ししますよ?是非使ってください」



『えええー、悪いですよ。見ず知らずのお兄さんにお金借りるだなんて…。申し訳ないですってー』



「良いですよ、5円くらい。これも何かのご縁ということで…なんてあはは」



『おおー、そういうことか。ならば、今日はお言葉に甘えさせていただきますー。ありがたやー。絶対いつかお返しいたしますのでー』



「いえいえ、良いんですよこれ位」



笑顔を貼り付けたまま、自分の財布から五円玉を取り出し、すっと目の前の女に渡した。ありがたやーとふざけてなのか、花宮の渡した五円玉を両手で挟んで拝んでいる。こいつ…、馬鹿なのか?うっぜぇ…



その後、やっと支払いが終わったと店員は窶れた表情で、女にレシートを渡した。女は財布にレシートをしまいながら店を出て行った。そして、花宮も会計を済ませ、店を出て会場に歩を進めようとした時に先程の自分の嫌いな声が声をかけてきた。一瞬身体が強張り、嘘だろ…?と恐る恐る振り返ると、予想通りあの女が立っていた。



『先程はありがとうございましたー。やはりお金すぐにお返ししなければと思うので、今からおろしてくるので、少々お待ちいただければ良いのですがー…。お急ぎの用事とかありますかねー?』



喋り方は癪に触るが、言っている内容からすると常識人のようだ。会話はできるらしい。ならば



「わざわざそんなことして頂かなくても結構ですよ。たかが5円ですし。あと、実は僕、友人と待ち合わせしてて…。もうすぐ時間なので、失礼しますね」



早くお前との関わりを切って、さっさとストバス会場に向かいたい。そんな思いで言ったこの言葉。花宮が思った内容全てが全て伝わるとは思わないが、最低でも“お金は結構ですから、忙しいんで帰りたい”ということは伝わっているべきだろう。常識人ならばだ。だが、花宮はこの女のことを誤解していた。



『もしかして…、お兄さんも彼処のストリートバスケの大会に参加するんですかー?実は私も友達の応援に来ててですねー、アハハー』



へらへら笑う女に油断していたのか、この発言のせいで花宮の中にぴりっとした緊張感が走る。優等生花宮の人当たりの良い笑顔のまま、話を続ける。



「何でそう思うんですか?」



『んー…、深い理由がある訳じゃないんですけど、お兄さんの後ろにいるお兄さん達が如何にもバスケ部だぜーって感じの格好してるから、ですねー』



そう言われて慌てて後ろを振り返ると、待ち合わせをしている見知ったメンツがジャージ姿にバッシュの袋を手に引っ掛けた出で立ちで、にやにやした表情でこちらを見ていた。今度は堪らず内心の舌打ちではなく、口に出して舌打ちをした。



「なあに?花宮。お前、女の子ナンパしてんの?優等生花宮くんが?」



花宮の表情の歪めようを面白がって、原がにやにや口元を歪めながら嘲るように言うと、隣に居る山崎もにやにや口元を歪める。もう一人居る古橋はいつも通りの死んだ魚の目の無表情でじっと女を見つめていた。くっそ、この状況で最も出会いたくねぇ奴らと会うとか…



『お兄さんのお友達ですかー?』



「そーう。君は?花宮に声かけられたの?こいつ、見た目は優しそうかも知れないけど…」



「おい、原。調子に乗んなよ」



にやにや楽しそうに話す原に、目で威圧を掛けつつ舌打ちした。その声音に女は花宮を振り返ったが、この女に自分の本性を晒したからといって今後何か支障が出るわけでは無い。もう猫を被るのはやめた。はーあ、と深い溜息を吐き、今までの花宮からは想像も出来ないような態度に驚いて困惑しているだろう女を振り返る。と…



『いやー、私が5円会計を払えなかったところをこのお兄さんに助けられたので、今そのお金を返そうと話が進んでる次第ですー。…が、お兄さん達はバスケの用事あるみたいで、どうしようかなーと思って』



いやはやと笑いつつ首の後ろをかく女が居るだけだった。何だ、この女。花宮は口元をヒクつかせた。こいつがただの空気読めないバカな頭のおかしい奴であるということに、素直に引いてしまったのである。



「金貸すとか、太っ腹だなお前」



「好きで貸したんじゃねぇよ。こいつのせいで遅れそうになったから貸しただけだ。たかが5円くらい、どうってことねぇよ」



「ザキはケチだもんねー」



「はあ?んなことねぇよ!」



「花宮、お前ジャージで来なかったのか?その格好じゃ動きにくいだろ」



「はっ、別にジャージじゃなくても勝てんだろ?つか、お前らこそ、ジャージとか着て気合い入り過ぎじゃね?たかがストバスだろが」



「ザキが新しく買ったジャージ着たかっただけだよん。オレは丁度ジャージ着てたからそれで来ただけ」



「おい!原適当言ってんじゃねえよ!オレは別に…」



「ザキが新しいジャージ着たかった着たくなかったとか、どうでも良いんだよ」



「…一人私服で試合をする花宮が不憫だから、オレは私服に着替えて来る」



「不憫って何だ?」



「ザキは黙ってろ」



『あははー、皆さん仲良しですねー。見ていて楽しいです』



四人での会話で全く存在を忘れていた女が口を挟んで来た。まだ居たのかよと顔をしかめる花宮を見ていた原が、またもにやにや口元を歪めた。



「花宮、その子にお金返してもらってから来いよ。エントリーはしとくからさ?そんなすぐ試合始まる訳じゃねぇよと思うし、行っといでよ」



「そうだな。どうせ瀬戸は遅れて来るだろうから、丁度良いんじゃないか?」




「はあ?こんな奴とこれ以上一緒に居れっかよ」



原に賛同する古橋も死んだ魚の目で無表情のまま、いつも冷静な花宮が取り乱す様子をからかっているのである。花宮がこんなにも取り乱すところを見れるだなんて、レアである。この、花宮とは真反対のゆるふわガールを利用しない手はない。それに対し、女を気にせず正直に言い放つ。



『ならば、さっさと済ませましょうよ!お互いすっきりしますから』



「はあ?オレはもうどうだって良いって言ってんだろ?ちゃんと人の話聞いてんのか?」



『これは失礼しましたー、そうでしたそうでした。でも、お友達さんは行ってしまったようですが、どうしますかー?』



言われて振り返ると、原達は既に居なくなっていた。チッと大きく舌打ちをして女を振り返ると、平和でバカそうな笑顔を浮かべており、何処かの誰かを思い出して腹の奥がムカムカする。忌々しいと顔を顰めて女を見下ろすが、その表情は変わらない。心底嫌いなタイプだ。



………はあ。
大きくため息を吐き、眉間の皺をなくした。こんなバカげたことにイライラする方が馬鹿らしい。この女の気が済んで関わりを断てるなら、たかだか10分程度付き合ってやるか。



「あんま時間かけんなよ」



『極力努めますー、はい』





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