短編

□frappucciono
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※ワンコ系男子の黄瀬くんではありません、キャラ崩壊をしております。また、多少発言に不健全な内容が含まれております。苦手な方はご遠慮ください















「ちょっと聞いてよ、名前っち。この前、街中歩いてたら、まあナンパされたんスよ。ちょーっと可愛いかな?って感じの二人組の女の子に。あ、名前っち程可愛い子じゃなかったんで、って一応社交辞令で言っておくっスね?それで、時間もあったし、少しだけならってことでOK出したんスよ。そうしたら、即行カラオケ個室連れて行かれて襲われたんス!!2人掛かりで迫って来て、それぞれがっつりTバックと紐パンで、気合十分で!何か前々からオレのこと狙ってたらしいんだけど…、それって超怖くない!?オレ、ケーカクテキに襲われたんスよ!?しかも知らない人に!クラスとか関わりのある子にそういう目で見られるってのは仕方無えけど、見知らぬ女に外見だけ見られて欲情されたとか…、うわー!怖過ぎるんスけど〜‼つか、キモ!」



そう言いつつ、目の前のキンパツ野郎は、自分を抱きしめるようにして両腕を擦っていた。そんな彼に対し、私は何のリアクションもせず、ただ奢ってもらったフラペチーノを飲むだけである。彼は私にリアクションや同情の言葉かけ、アドバイスといったものを全く望んでなんかいない。反対にそんなものを寄越した際には、ハア?と口元を引くつかせた、モデルで爽やか笑顔が眩しい黄瀬涼太くんとは思えない程の歪んだ表情を拝むことが出来る。もし、私以外の女子がそんな顔を見てしまった日には、軽くトラウマにでもなるだろう。



『一応聞くけど、最終的にその人たちはどうなったの?』



区切りが良い所でごくんと呑み込んで、最悪な回答を予想しつつも聞いてやった。



「どうって…、そりゃヤるだけのことはヤッてその後はポイっ!タダでイイコトしてくれるってんなら、ヤらない手は無いでしょ?」



それが何?とでも言いたげな、純粋に疑問に思って小首を傾げるこいつを改めて最低だと思う。まあ、だろうなとは思っていたけど、いたけども…。期待を裏切らなさすぎて逆に怖いわ。ですよね、と返し、思わず私の口元が歪む。



「あ、さすがにゴムは着けたっスよ?妊娠とかされたらメンドーだし、そもそも自分から出してって言う奴に出してやる程、オレは優しくねえっつうの。バカ女の言う通りに動くとか、マジありえねぇっスわ」



ハハっと、ある意味とてもいい笑顔を見せ、彼もフラペチーノにやっと口を付けた。
そんな悪い表情、端正な顔立ちの黄瀬くんがやるから、悪さが何倍か増しになって普通の人がやるよりも悪い表情に見える。今まで彼を見てきて分かったことは、ゲス顔はイケメンがやった方がゲスさ倍増。ゲスさが映えるってことだ。






私と黄瀬くんの関係はと言いますと…、愚痴を言う人と聞く人、みたいな?しかもそれは一方的で。私はただ聞くのみ。



この関係が始まったのは、いつの日か覚えては無いけれど、黄瀬くんが制服のまま、とあるホテルから出てきた所に偶然出くわしてしまったことから始まる。



私は道に迷ってどうにか家に帰ろうとしていたら、変な通りに入ってしまいあちゃーって思っていたら、偶然最悪なタイミングで、校内で噂に上らない日は無い黄瀬くんが颯爽と出て来たのである。その後、近くのカフェに連れて行かれ、どうかこのことは他言しないでくれと頼まれた。そりゃ、ファンあっての職業に就いている訳だから、好感度下げられたら困るわな。特に黄瀬くんに興味が無かった私は、別に構わなかった。良いよ、と言うとまさかの発言が連発される。



「わー、ありがと!もし、オレがあんな女が好みだなんて噂立てられたら、オレの人生お先真っ暗になるとこだったっスわ。ホントありがと!…えっと、何ちゃん?」



えっと…?何て言った?こいつ
奢ってもらったフラペチーノを飲む口が止まる。ごくん、と呑み込んで、え?と口に出すと、逆にん?と眉を上げて首を傾げてくる。えええええ



『え?好感度下がるから黙ってて欲しいとか、そういうんじゃないの?』



「は?別にオレはそういうの気にしてないけど。そういう事があったとしても、オレの見た目だけでファンになってくれる子なんて腐るほど居るし。つか、中身まで見てファンになるかどうか決める奴の方が少ねっスよ。オレは、そんな事よりもさっき一緒にいた女について言われる方が問題なんスわ」



つまり、黄瀬くんは、私が彼がホテルから出て来たことを他言することを恐れた訳ではなく、私は見ていないけれど、一緒に居た女の子のレベルについて広められることを恐れていた訳だ。



その後、黄瀬くんはそのさっき一緒に居た女の子について、私と同じフラペチーノを片手に色々と話し始めた。どういう経緯でその子と会ったのか、そういう事になってしまったのか。そしてその後どうなったのか。



その間、私は無表情に黙々とフラペチーノを飲むだけで、何のリアクションも発言もしなかった。
まあ、今までの発言から考えるに、こいつは結構なレベルのゲス野郎だ。最低な奴だ。見た目が良い奴には、ろくな性格な奴が居ないとかどうとか聞いた事あるが、そんなレベルじゃないぞこいつ。私も溜まらず苦笑いが零れる。



私が黙って聞いている事を良いことに、黄瀬くんは今日のこと以外の話も話し始めた。また何か頼んで良いから、家まで送って行くから、という条件付きで。愚痴が色々溜まっているらしい。これから予定がある訳でもないし、まあ良いかと、無表情でラテを追加注文して聞いてやることにした。



黄瀬くんの愚痴は止まることを知らず、何分も何十分も続いた。そんな彼に私は、内容をほぼ聞き流し、ずっと無表情を貫き通した。聞いてみると、マンガかよ、とツッコミを入れたくなるようなシチュエーションから、何から何までおかしいものもあって、流して聞いてはいたけれど、不思議と眠くならなかった。



最後の話が終わったらしく、短く息をもらした後に腕を組んで伸びをする彼。ちょっと表情がスッキリしたように見える。イケメンも大変なんだなぁ、思いつつさらに追加注文したコーヒーを啜っていると、黄瀬くんはパッと顔を上げた。瞬間目が合う。ヤバい、カッコいい



「話したらめっちゃスッキリしたっス、ありがと。名前ちゃん、話聞くの上手いっスね。いつもなら、途中で自分で話切り上げるんだけど、安心して話せるっつうか、自然と口が動いちゃってさ。げっ!もうこんな時間じゃないっスか!長いこと付き合せちゃってごめんね。すぐ帰ろう」



私の飲み終わった残骸達を片付ける黄瀬くんを一瞬普通の人じゃん、って思ってしまった。
だが、今まで何を聞かされていたかすぐに思い出す。うん、コイツは下の下の下の最低野郎だ。ゲスの極みだ。でも、愚痴こぼし中に何度か見せてくれた、真っ黒い笑顔とは違う、悪意の無い、爽やかな笑顔には、イケメンに免疫の無い私は少なからずドキリとしてしまう。あと、名前ちゃんて呼ばれたことにも。照れとくすぐったさがある。イケメンに呼ばれると、何か違うな



残骸を片付けて店を出た。黄瀬くんは、約束通り私を家まで送ってくれるそうだ。多少の暗さなら断って一人で帰ろうと考えていたが、今の外の状態で一人で帰るのはちょっと危ないかもなあ…。ということで、断らずに送ってもらうことにした。



………送ってもらうことにしたは良いが、会話が無い。割と気まずい。
二人仲良く並んで歩いているのに、会話がゼロとか、結構気まずい。だからと言って、何を話す?さっきまでのことを思い出すと、話したくも無いゲス野郎なんだけど。そんな奴に気を使うのも癪だな。うーん、と考えていると、黄瀬くんが明るい口調で口を開いた。



「今日は付き合ってもらってホントありがと。こんなに気長にオレの話聞いてくれる人、多分初めてっスよ?流してでも聞いてくれる人なんていないし。だから、すんげー助かった!さっきも言ったけど、名前ちゃんには安心して話せたんス。名前ちゃん、オレに興味無いでしょ?だから、オレの悪い話を聞こうが関心無いだろうなって。大抵の女の子は、まあ、まず無いんだけど、オレがさっきみたいな話したら、イメージと違うだとか言って来たり、その話をネタに広められたくなかったらみたいに脅して来たり、さっさと噂話流しちゃったりとか、後が超めんどくさいんスよ。だから、なかなか話せなくてさ」



『あはは…、無表情に聞いていただけなんだけどんね』



「それが良かったんスよ。ほんとはさ、ホテルから出たとこ見られた時、この人も一発ヤッて黙らせなきゃなんねーのかなとか思ったけど、名前ちゃんにはその必要無いよね?」



爽やかな顔して何言ってんだっコイツ。ぶわっと肌が栗立つ。私は、フラペチーノとか奢ってもらっただけで満足してるんだけど。え?この人いつもそんな事してんの?ホントに学生かよ。私が必要ない必要ないと首を横に振ると、またいつでも言ってねなんて言って来た。これは、一人で帰った方が安全だったかも知んない。完璧選択肢を間違えた。



「つー訳で、名前ちゃん、これからもよろしくっス!」



『…え?どんな訳で?』



またも笑顔で何か言ってる。何がどうしてその台詞が今出てくるのかな?
私が口元を引くつかせて首を傾げると、今までの話聞いてたっスかぁ?と逆に呆れられる。彼の発言は聞き漏らすことなく聞いていたつもりなんだけど…、え?



「オレは、君に話したことでスッキリしたって言ったでしょ?だから、その関係をこれからもよろしくね?って意味で言ったんス。他に聞いてくれる人もいねえし。話してストレス発散しなきゃ、オレの肌に影響出るし。聞いてもらうからには、ちゃんとお礼は出すっスから」



こんな具合に、よく分からない理由で流されてしまい、今に至るという訳だ。まあ、話を聞くだけで何かしら奢ってもらえるなら、良い話だと思うし。人の話を聞くの、嫌いでは無しい。それから、黄瀬くんのストレスがある程度溜まった頃に、メールにて呼び出しをされ、愚痴を聞く、ということをしている。今日もそうである。



そんな変な関係が始まってから、少し私の中で変化が生まれた。



私達は校内では一切会話をしない。関わらない。極力その方が良いと、黄瀬くんと私が何かしら関係があると周囲に知れると、お互い面倒になるし気を付けるよう努めることにしている。実際の所は努める必要も無く、そもそも黄瀬くんと私が校内で出会うことが無いのだが。



だが、何といっても同じ学校な訳で、極たまに彼を見かける事がある。その際、ほとんど黄瀬くんは女子に囲まれていて、お得意の営業用スマイルで接している。接してもらっている彼女たちは、彼が今どんなゲスい事を考えているとも知らずに、猫撫で声で黄瀬くんとのおしゃべりを楽しんでいるようで。ご愁傷様、と手を合わせたくなる。



きっと私以外、彼がどんなゲスで最低な野郎なのか知らないのだろうな…



無意識にそんなことを考えてしまった。
すると、頬が熱くなる。あんなゲス野郎だけど、やっぱり顔はイケメンで、不覚にもカッコいいと言える人で、そんな奴の、他人が知らない顔を知っている唯一で、特別な存在なのだと、私は彼の特別な存在なのだと、そう無意識に思ってしまった。特別な存在、というワードにも恥ずかしくなり、またそんな事を考えてしまった自分にも恥ずかしくなった。私はただの愚痴を聞く人なだけだ。自惚れられるような立場ではない。



馬鹿だな、自分。そんな風に感じてしまうだなんて。



こんな考え、黄瀬くんにとっては鬱陶しいことくらい分かってる。
私がミーハーでなく、彼に興味が無いから、今の関係がある。でも、私が舞い上がって、彼を意識してしまっているだなんて知れたら、条件に合わないのだから今の関係は無くなるだろう。そんなものを感じてもらう為に、黄瀬くんは私を愚痴を聞いてもらう相手に選んだんじゃない。そう分かっているのに、いるつもりなのに。



何か悔しいな
あんなゲス野郎に一人翻弄されているだなんて。





廊下の隅で、一人もやもやしている所にスマホが鳴った。彼からのメールだった。きっと今のことだろう。イケメンも大変だねぇ。



さて、今日は何を頼もうかしら―。









END
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