短編

□情けは人の為ならず
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その後、オレ達は男たちのお望みのものがある場所に向かった。そう、近所のスーパーに。



入口から入った途端、男たちは真っ先に欲しいものがある場所にかけて行った。スーパー内は走るんじゃねーぞー、というオレの声が届いたかどうかは定かではない。



オレもここまで来たら自棄だと、そいつの後ろを女の子と追いかけた。見知らぬ偶然助けた女の子の為に金払うとか、オレどんだけ気前が良いんだよ。無意識に自虐的な半笑いをしてしまう。



「お前らの欲しいもん、見つかったかー?」



オレの問いかけに、オレとは対照的な満足げな笑顔で振り向くこいつらに、やれやれとため息が出る。本当に単純なんだな、お前ら



「おい、高尾。お前こんなとこで何やってんだよ?」



「あ、宮地さん。ちわーす。奇遇っすね、こんなとこで会うなんて。一人っすか?」



こんな平和で穏やかな、ただの近所のスーパーとか似合わない、金髪で目つきの悪い宮地さんが、怪訝そうな顔でオレ達を見ていた。普通そういう反応しますわな


                   ・・
「オレのことなんてどうでも良い。お前、ガキ三人連れて菓子コーナーで何やってんだよ?身内か?」



「いやあ、話せば長くなるんすけど…」



目を伏せつつ、苦笑いした。そして、ことの経緯を説明した。



この女の子は、コンビニで売っていた、このガキたち(小学生くらい)が欲しがっていたお菓子残り三個を目の前で全部買っちゃったことが原因で、ガキたちにいちゃもんをつけられていたらしい。年上なのに大人げないぞ!とか、お菓子返せ!とか。でも、女の子もむきになって、社会には早いもの勝ちと言うルールが存在するんだよ少年たち!と反論していたとか。だから、コンビニでは売り切れになっていたそのお菓子を、このスーパーでオレが買ってやる、と言うことで話は丸く収まった、という訳だ。



やれやれ、と首を振ると、あの宮地さんがオレのことを褒めてくれた。お前凄いな、と。エースの相棒なんだ、それなりでなくちゃだろ?



「お前、伊達に緑間と一緒にいねえな。オレなら、さっさとぶん殴って終わらせるぞ」



「そんな乱暴、小学生相手に出来ませんよ」



『あららー?こちらの金髪イケメンさんは、お知り合いですかね?』



宮地さんと話していると、オレの後ろから例の女の子がひょこりと顔を出した。あ…、このタイミングで出ると、宮地さんに叱られそうだなこの子。と、オレが心配したのは、無駄だったようで



「お前、みぽりんに似て…」



「宮地ー、買い出し終わったから、さっさと帰るぞー?」



「お、木村さんも来てたんすね。ちわーす」



「おお、高尾。お前も来てたのか。あー…、何かよく分かんねえ状況だけど、オレら急いでるからまた部活の時に話聞くわ。おい、宮地行くぞ」



「うーす」



宮地さんは木村さんが買い物をしている間に、色々と歩き回ってたのか?出口から出ていくお二人の様子から、そう推測がついた。木村さんに怒られてる宮地さん…、貴重だし写メっとこう。ぶくくっ!



ぴろりーんと写メってると、女の子が遠慮がちに声を掛けてきた。



「お、そういや忘れてた。さっきの小学生たちは?」



辺りを見回したが、先ほどまでいた現役めんどくさい小学生たちは見つかなかった。オレ、まだ買ってやってねえのに



『私が買ってあげたら、すぐに帰っちゃいましたよー。お兄さん、お取込み中のようだったので』



「え、マジで?ごめんね、払わせちゃって。いくらだった?オレが払うよ」



『いえいえ、そんなー。私がさっさと諦めてれば良かったことに、巻き添え食っちゃっただけなんですから、私が払いますよー。助けてくれて、ありがとうございました』



「いやいや、オレが勝手に首突っ込んだだけだし…。なら、二人で割り勘で良い?」



女の子にお菓子代の半分を渡した。
最初は常識が無い、ただのド天然の変わったゆるゆるのんびり女の子かと思っていたけど、実は真面目な常識ある子だったんだね。面白いことには変わりはないけれど…、ぶふぉっ!



『私、お菓子のことになると冷静でいられないみたいで。小学生と喧嘩するだなんて、高校生にもなってお恥ずかしー、ひゃー』



お菓子のことになると、冷静でいられない?
耐え切れず、吹き出した。ダメだ、この子。キャラ濃すぎて超おもしれえ。そのまま笑いだすオレに、暫くぽかんとしていたけれど、お兄さんが楽しいなら良かったですー、何てまた追い打ちかけてくるもんだから、笑いはしばらくおさまらなかった。ひーっ!息できない!!



オレの笑いがおさまってから、やっとスーパーを出た。



『今日は本当にありがとございました。こんなかっこいいお兄さんに助けられたなんて、今日はラッキーデイですよー』



「そう言ってもらえたら、嬉しいわ。じゃ、オレはこの辺で。もう小学生と喧嘩しないようにねー?」



ばいばいと手を振ろうとしたら、女の子は『あの!』とオレを引きとめた。え?もう帰る空気だったことね?まだ何かあるの?



『お兄さん、最後にお願いがあるのですが!こう…、ぎゅうってハグしても良いですか?』



その後、オレが再び笑いだし、スーパーの店員さんに叱られたのは、言うまでもない。初対面の男にハグ求めるとか、やっぱり普通じゃない。ちなみに、ハグはかるーくさせていただきました。









次の日。



また休み時間に爪の手入れをしている真ちゃんに、昨日の超面白エピソードを話した。



「その女の子、男に絡まれてんなーって思ったら、相手小学生でさあ!」



思い出すと、また笑いがこみあげてくる。笑いを堪えていると、真ちゃんが何かを思い出したらしく、そう言えば、と呟いた。ふと真ちゃんの机の上を見ると、昨日の争奪戦の戦利品らしい、今日のラッキーアイテムだろう骨董品があった。



「昨日、中学時代の友人がうちの学校の男子生徒に助けられた、とメールが来たのだよ。お前が先ほど話した状況にほとんど似ているが…。まさか高尾、名前に会ったのか?」



爪の手入れをいったん止めて、真剣なまなざしをオレに向けた真ちゃんに、肩をすくめた後、オレはたった一言言ってやった。



「知らねえよ、真ちゃん」




END
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