短編

□情けは人の為ならず
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「真ちゃーん、今日部活休みだし、帰りどっか寄ってかね?久々にさぁ」



休み時間中に爪の手入れを、隣の席の女の子以上に丁寧にする真ちゃんに、平凡な男子高校生らしい提案した。



しかし、心身ともに非凡な真ちゃんの答えは毎回予測不可能で、オレの腹筋を鬼畜にいじめる。



「今、爪の手入れをしているのだよ。気が散るから話しかけるな」



友達より爪の手入れのが気になるとか、どんだけマイペースなんだよ!目線が爪から全く逸れねえし!つか、休み時間に黙々と爪の手入れをする、190p超えの大男って絵図ら、超ウケるんですけどっ!!ぶくくっ!!
笑いを堪えつつ、真ちゃんを宥める。



「まあまあ、そう言うなって。なんか食いに行こうぜ?好きなもの一つ奢ってやるからさ」



「生憎だが、その誘いは断らせてもらうのだよ。今日は行きつけの骨董品屋でとてもお買い得な、半額セールが行われるらしい。今後のおは朝のラッキーアイテム候補確保の為、オレはそちらに行くのだよ」



眼鏡の位置を直しながら、ドヤ顔で自慢げに言う真ちゃんを可愛いなとも思うけど、呆れも半分あって、文句を言う気なんて起こらない。まあ、どうせ何か言ったところで、この真ちゃんが変わる訳無いか。
いつもなら、そのセールに気まぐれに付いて行ったりもするのだけれど



「さすがに、そんな骨董品マニアが目を血走らせて参加しそうな争奪戦に行ったら、危ない目に遭いそうだし、オレは付いて行かないでおくわ。一人で寂しいだろうけど、頑張ってね」



ウインクして心配してやってんのに、真ちゃんは無愛想に「バカにするな、黙れ」と冷たく言い捨てる。可愛げがないな、ホント。仕方ないから「へいへい」とすぐに引き下がった。



…ん?なら、オレは帰りぼっちか。何しよう。まあ、今日のところはひとまず大人しく帰るか。
授業が再開してから、ぼんやりと頬杖を突きながら窓の外を眺めた。



放課後、HRが終わった途端に、真ちゃんは予告通り、何の迷いも躊躇いも無く、足早に教室を出て行った。ぶれねぇな、真ちゃんは。



オレもさっさと荷物をまとめて学校を後にした。
家帰って何しよ…。ゲームとか久々にやるか?いや、取りあえず寝よう。



くあ、と大きなあくびを一つして通学路を歩いていると、ちょうど通りかかった住宅街の小道から、何やら騒いでる声が聞こえてきた。足を止めてよく聞いてみれば、騒いでるというよりもめている様だ。喧嘩でもしてんのか?



………まぁ、どうせ帰るだけだし、見に行くだけ行くか



興味本位で声のする方につま先を向けた。お節介かも知れないけれど、情けは人の為ならず、ってね。いつかオレが怖いヤーさんたちにいちゃもん付けられて絡まれてたら、エース様が助けにでも来てくれんだろ



ふざけたことを考えながらも、声のする方に歩を進めて行き、壁の後ろからひょいと覗いてみると、オレと同じくらいの年の女の子が、男三人に絡まれている現場があった。その女の子は制服からするに、他校の女の子だと思われる。てか、えー。この時代にも、こんな典型的な絡み方する奴いんのかよ。思わず苦笑いしてしまう。



ここから聞こえる内容からするに、男たちが女の子に訳分かんねえいちゃもんを付けているらしい。質悪いな。さて、行きますか



「お待たせー、ごめんね遅くなっちゃって」



一番穏便で話がまとまり易く、比較的簡単に男から女の子を助ける定番の“彼氏のフリ作戦”を決行した。オレが笑顔で手を振りながら壁の裏から登場し、女の子に歩み寄る。だけど、女の子はオレが助けに来た心優しき少年だと分からないらしく、状況が把握できておりません、と顔に書いてある。そして、オレが肩を抱き寄せた瞬間に、『あなた誰ですか?』なんて言おうとするもんだから、言葉に被せて咳払いをして誤魔化した。鈍感な子なのかな?



「オレに合わせて?」



と耳元で囁くと、女の子はほんのり頬を赤らめて小さく頷いた。鈍感つうか、純粋な子か。



「で、君たち。オレの彼女に何か用かな?」



オレがにこやかに男たちに話しかけると、男たちはまた訳の分からないいちゃもんを付けてきた。は?この女の子が何かを取った?



「何か盗んだの?」



耳打ちすると、女の子は横に首を振った。



『何も盗んで無いよー?私はそんな悪人じゃありません』



きりっ、と決め顔まで見せてくれたこの子は、大分変ってらっしゃるらしい。だが、毎日変人と名高い真ちゃんと一緒に居るオレは、いちいち動揺なんかしない。一瞬焦ったけど、一呼吸置いて話を進める。



「本人がこう言ってるんだし、変ないちゃもん付けるのやめてくれよ?」



物腰柔らかに言ってるのに、男たちはしつこく文句を言い続ける。嘘つくんじゃねえ?さっさと返せ?もう、ほんと訳分かんない。予測すらつけらんないんだけど



『こら、君たち!カッコいいお兄さん…、じゃなくて、私のか、か、彼氏さんに何て口聞くんだ!私もおこになっちゃうよ!?』



オレらはとっくにおこだよ!って言い返されて、むむむと黙るこの女の子。
お願いだから、もうこれ以上話すのやめて。オレの腹筋がつらい。話し方変だし、怒る理由も嬉しいけどずれてるし。面白過ぎんだけど!!吹き出しそうになるのを堪えて、また話を進める。



「こうやって、ずっと盗んだ盗んで無いって言い合ってても仕方ないから、何が原因でこうなったのかオレに教えてくんないかな?」



またも物腰柔らかに下手に出ながら、話を聞き出そうと試みる。すると、眉間に皺を寄せつつも、男たちが経緯を説明してくれた。そして、その内容に再びオレの腹筋はいじめられる。これ以上はやめて!つらい!痛い!途中、耐え切れずに一回だけ吹き出した。



説明を聞き終え、この状況の意味を理解すると、このふざけた言い争いの手っ取り早い解決策を考えて、思い付いた。ふざけた言い争いの解決策も、ふざけてる訳で。



「しゃあねえから、お前らのお望みのもんやるからさ。彼女のことは、許してやってくれよ」



オレが首の後ろを掻いて、最終決断を口にすると、三人は抗議をやめ、お互いに目くばせした後、それで手を打ってやる、と素直に頷いてくれた。単純な奴らだね、真ちゃんと違って
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