短編

□変態に男女は関係ない2
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先日不幸にも出会ってしまった苗字 名前という人物。出会いがしらに誰が聞いた訳でも無いのに、自分が要注意人物であることを長々と、だが事実を語った奴だ。



そして今、我々はそいつに苦しめられている。こんな図体のでかい男たちが、何故至って一般的体格の女子に苦しめられているのか。何に苦しめられているのか。そう、答えは一つ





―――――――――――――ストーカー



彼女は親切にも自分のことを説明しながら「自分はお気に入りリストに載った人物をストーカーする」と言っていた。まさかと思うのも仕方あるまい。正直、我々も今までそう思っていたのだがら。



だが、最近―。
ふと気が付くと、誰も居ないはずの通学路で、何処からかねっとりとした気持ちの悪い視線を感じるようになった。一人で歩けば、高確率でもう一つ、明らかに自分とは違う足音が背後から聞こえる。体育館から部室に戻ってロッカーを開けたら、確実に何かが消えている。特に肌に触れるようなものが。



考えたくは無いが、実際心当たりは彼女しか居ない。宣言していたくらいだし。だから、このストーカー事件の犯人は、苗字 名前という人物で決まりだろう。



「犯人は苗字っちて分かってるのに、すげえ怖いッス!!なんなんスかあの子!同年齢の女の子とは思えないんスけど!!」



「ああ、本物のストーカーなのだよ。自分が何処に居るのか全く気付かれず、そして、相手に不安を抱かせるこのやり方。まさにストーカー」



「緑間くんがストレスからおかしくなりつつあります。誰か助けてあげてください」



「オレも、何かいつの間にタオルとか無くなってたり、飲んでたペットボトルが無くなってたり、使った箸が無くなってたり、1時間毎に『今、何してますか?』ってメールが来るんだよねー。怖くない?」



「……………………生々しいな」



それぞれの被害体験を口にすれば、不本意ながらあるある話と化す。自分だけが体験している訳じゃないと知るだけでも、心が軽くなるのだ。



「犯人は苗字っちって分かってるんだし、どうせなら堂々と来て欲しくないッスか?本当のストーカーみたいですげえ怖いし」



「本当のストーカーに変わりないと思いますが」



『え!?良いのっ!!?』



黒子と彼女の声が重なり、部活終了後、自主練の為に残っている体育館内に、黄瀬を中心とした男子の悲鳴が響いた。同時にカラスたちが不気味な鳴き声をあげながら飛び立って行く。しかも、時刻は空を真っ赤に染め上げる夕方。その不気味さをより際立たせる。なんて恐ろしい



声のしたステージ裏に全員で注目していると、何故だか全く無関係の体育倉庫から笑顔で登場した。色々とツッコミを入れたいところはあるが、全てスルーしよう。彼女の声がした瞬間思い出した自分の本能、彼女に常識・法律は通用しない。



ルンルンとスキップしながら自分たちに近付いてくる彼女に、全員で身構えた。被害を報告していない青峰でさえも。なんせ、彼女の纏うオーラがあまりにも禍々しく、時空が歪んで見えるからだ。あいつは人間か?



『久しぶり、皆さん。といっても、お察しの通りいつも一緒居たんだけどね?警察の人に見つからないようにするのは大変だったけど、おかげさまで良いもの沢山撮れたんだ。あ、これに対して肖像権が云々言ったりしちゃあダメだぞ?言ったよね?私には法律なんて無関係なんだって。それにしても、みんな寝顔の素晴らしいこと!でも、みんなが寝ている時に襲わなかった私を褒めて欲しい!涎垂らしながらだったけど、はあはあしたけど、盗撮だけで我慢した私を是非とも褒めて頂きたい!あとは、着替えシーンっ!!思わず鼻血が噴射したよぐふふ。体育の着替えは男の子って大胆にするじゃない?パンツ一枚になったりさ。その時、男の子みんなのパンツのパターンを記録してるんだけど、黄瀬くんは一ヶ月くらいしないと同じパンツを穿かないことが分かったぞぐへへ。そして、今日はグレーだったよね?あと、紫原くんはいつになったら私のメールに返信してくれるのかな?今度から5分毎にしちゃうぞ。緑間くん、君の放置プレイの長さに私は発狂しそうなくらい昇天…じゃない、テンションがあがっている!君は素晴らしいサディスティトだよ。そして黒子くんっ!今日も襲いたくなるくらいに可愛いね』









悲しきことに、今日も変態は健全だった。



いつ呼吸しているんだ?と聞きたくなるくらい、句読点の間が極端に短い。つらつらと聞いてもいない、恐ろしい内容を喋りやがる。どうして世界は、彼女をブラックリストに載せないのだろうか?指名手配しないのだろうか?危険人物はここに居ます



「た、確か…、赤司と約束してたよな?もう二度とオレたちと関わらないって…」



唯一名前のあがらなかった青峰が、足をがくがく震わせながら絶望的な目を彼女に向けて怯える四人の代わりに会話を切り出した。すると、彼女はさらりと問題発言をする。



「理性が、ブラジルから宇宙に飛び立っちゃってさ?」





オレたちの望みは絶たれた
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