短編
□んーん
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『え?彼女?』
「はい。同じクラスで委員会が同じ人に、先日告白されたんです。何でも、僕が居るから同じ委員会を選んだとかで」
黒ちんが惚気る。目を伏せながら、口元を綻ばせて、その相手のことでも思い出しているみたいに、ほんのり頬を朱く染める。それを見た◆◆ちんは、呆気に取られてるみたいで、暫く何も動かなかった。
『そっかぁ…。良かったねー、黒子くん。今度、みんなでお祝い会やろうか』
オレには◆◆ちんの背中しか見えないけど、声音から動揺してることはすぐに分かった。そりゃ、突然こんなこと言われたら、◆◆ちんだってびっくりするよねー
「ありがとう、ございます」
はにかむ黒ちんが、やっぱり嫌いだと思った。
『あっくん、黒子くんに彼女さんだってー。やっぱり黒子くん、男前だからモテちゃうか』
「オレ、黒ちんみたいな熱苦しい奴、苦手だからわかんない」
『また、そんなこと言っちゃってー。チームメイトなんだから、そんなこと言わないのー』
中庭のベンチに並んで腰掛けて、小雨が降っているというのにひなたぼっこする。空を仰ぐ◆◆ちんの横顔が、雨でよく見えない。
『何か、寂しいなぁ…』
「んー?」
雨音で掻き消されそうになった、凄く小さな呟きを何とか拾って聞き返す。だけど、◆◆ちんは、袋から取り出した湿気たせんべいを咥えて、オレに答えようとはしない。オレの、聞き間違い?
「よお、紫原、苗字」
黒色の大きな傘を差した峰ちんが、オレたちの前にやって来た。
『やあー、青峰くん。どうしたのかな?』
峰ちんに挨拶する◆◆ちんの声は、聞き間違いかもしんないけど、オレがさっき聞いた◆◆ちんの弱々しい声とは全く違って、いつも通りの◆◆ちんの声に戻っていた。せんべいを咥えながら、峰ちんに顔を向ける。オレも棒付き飴を口に咥えながら、峰ちんを横目に見た。
「恥ずかしい話なんだけどよ、オレにも、その、あれだ…。か、彼女って奴が出来たんだ。マネージャーの奴でさ」
その後も峰ちんは自分の“彼女”について話していたみたいだったけど、オレは全部聞き流した。そんなものに興味ない。だけど、隣の◆◆ちんは相槌を打ちながら、峰ちんの話を熱心に聞いてあげてる。さっきの黒ちんので、慣れたのか、顔に動揺を出さなくなった。
小雨の降る空を仰ぐと、鼻の頭に雨粒が丁度落ちて来た。続いて、目の中にぽつり、一滴降ってくる。
『黒子くんも彼女さんが出来たみたいだから、二人分のお祝い会、みんなでやろうねー』
「おう!その時、ちゃんと紹介っすっから」
『んー、よろしく』
話が終わったみたいで顔を戻すと、峰ちんの後ろ姿が見えた。その代わり、◆◆ちんの表情は見えない。顔を覗き込もうとしたら、ぱっと顔を上げて明白に無理に笑ってる顔をした。
『まさか、青峰くんにも彼女さんが出来るなんてね。びっくりだよー、全く』
「峰ちん、バスケめちゃくちゃうまいからね。あのプレイは、男女問わずカッコイイと思うっしょー?」
『あっくんもー?』
「……………さあ?」