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□打ち上げ
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ここ成均館では、行事ごとのたびに打ち上げが行われる。
今日は、はじめて新入生たちも上級生たちと同席になる。

東斎、西斎に別れて、それぞれがどんちゃん騒ぎだ。

東斎を取り仕切るのはもちろん、ク・ヨンハ。お酒、女の席には必ず彼有りきなのは言うまでもない。
ひらりひらりと、人の輪を転々としながら、すこぶる饒舌だ。

名無しさんは、お酒が入るとスキンシップがやたらと増えると新入生の間ではすでに評判だった。
上級生も、妖艶な笑みを浮かべてすり寄ってくる姿は、そこらの妓生よりもよっぽど色っぽいと評判の名無しさんに、内心興味津々だ。

すでに、早く酔わせろと意気込んだ儒生らにより次々と、名無しさんの杯にはお酒がつがれていく。

楽しい席ですすめを断るわけにもいかず、名無しさんの飲みっぷりは男顔負けだった。



そんな姿を、遠くから心配そうに見つめているのはムン・ジェシン。



ぼちぼち酔いのまわってきた名無しさん。
警戒心も薄れてしまい、その視線が、表情が、女のものになっていく。


最初に名無しさんの視界でロック・オンされたのはキム・ユンシクだった。

「ユンシクぅ〜」

彼の身体にしなだれかかっている。
ユンシクも酔いがまわりはじめ、二人で顔を寄せ合って何やら囁いている。

その光景は、都に安価で出回る春画本よりはるかに妖しく、周りの儒生達はごくりと唾を飲んだ。

「僕らの友情に、かんぱぁい!」

名無しさんはぐいっと一気に飲み干し、ユンシクもご機嫌でごくごくお酒を飲む。

「いつも、助けてくれてありがとう。大好き!」

そう叫んでユンシクの額に口を付けた。

へへへ〜とはにかむ名無しさんと、照れながら額をさするユンシク。

周囲からはおぉー!などと歓声が上がった。

そんな二人のもとへ嫉妬に燃えるイ・ソンジュンがすっ飛んで来た。

「キム・ユンシク!飲み過ぎだぞ。名無しさん、君もハメを外しすぎだ」

間に割って入り、抗議する。

えぇー、せっかく楽しい席なのにまたお説教?と口を尖らしたユンシク。

「そうだそうだ!カラン、さっきから全然飲んでないじゃないかー。君も飲んで!」

下戸なのは周知の事実。彼はぎくりと眉をひきつらせた。
「僕は遠慮しとくよ…」


「僕のついだお酒が飲めないの?悲しい…」

ソンジュンを下から見上げ、杯を握らせた手を両手でさすり、悲しそうに目を伏せる名無しさん。


その色気に圧倒された彼は、意思とは無関係に言われるがままに杯をグッと飲み干し、ばったりと仰向けにひっくり返ってしまった。

あー、カラン…と呂律のまわらないまま一応は心配しているユンシク。


「んもー、男の癖にぃ!情けない
っ」

もっと飲ませる気だった名無しさんはプイッとむくれて、手酌で酒をついだ。


「おい、名無しさん!俺にも酒をおくれよ」

彼女の手に、自分の手をそっと重ねたヨンハ。

あっ、ヨリム先輩ももっと飲んで飲んでーと、また上機嫌になる名無しさん。

「名無しさん、テムルにばっかり優しくして…俺はすねてるぞ」

ヨンハが耳元で囁いた。
ふふっ、と微笑を浮かべ、彼の袂に手を滑り込ませ、扇子をすっと抜いた名無しさん。

「ヨリム先輩ともあろう方が、嫉妬ですか…?」

ぱんっと扇子を広げ、二人の顔を隠す。

「先輩には、感謝してもしきれません」

扇子の陰で、一瞬彼女の唇がヨンハの頬に触れた。

まったく、可愛い奴めー!と、名無しさんを抱き締めた。
が、すぐに暴れ馬にべりっと引き剥がされ、首根っこをつかまれてポイっと脇に放り投げられたヨンハ。

「…っ、コロたんってば、ひどいわ!」

相変わらずヘラヘラと笑っている。
ジェシンの嫉妬にはずっと前から気付いていたヨンハだが、これ以上怒らせると後が大変なので、他の輪の中へすっと溶け込んでいった。


「お前なぁ…」

コロ先輩探してたんですよぉ、とくっついてくる名無しさんに苦笑いする。

「飲みすぎ…」

ジェシンは、名無しさんの目の前にある徳利のお酒を全部飲み干してしまった。

「これで、もう酒は無くなった。今日はここまでだ!」


強引ながらも、彼女の小さな身体がこれ以上たえられるか心配な彼の優しさである。

けちー、と悪態をつく名無しさんは、ジェシンの首に腕を回した。

「でも、やっと二人っきりですねーっ」


気が付けば周りに人は居ない。

眠気に勝てず部屋に帰ってしまった者やその辺でひっくり返っている者、外で真っ青な顔でうなっている者…

酒癖こそ問題アリだが、名無しさんは中々お酒に強い方らしい。


「やっぱり私は、先輩が一番好き…」

首に回した手にいっそう力を込め、ため息まじりにつぶやく。

酔っぱらってしまったせいで、その言動、表情は完全に惚れた男の前の一人の女のそれだった。


「…!クッ!…ヒクッ!」


さっきから意識しないようにしてたものの、限界らしい。
名無しさんの手を振りほどいて、逃げるように部屋に帰ろうとする。
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