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□お悩み相談
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「相談があるんだが…いま、ちょっといいかな?」

夕食後、自室に戻ってくつろごうと廊下を歩いていたら、いつになく真剣な目をしたイ・ソンジュンに両肩をつかまえられてしまった。

「えー、またぁ?」

露骨に呆れた顔を作ってみせる。
肩にのしかかる重さが、有無を言わせないってことを物語っているのだけれど。

ここのところ、彼からよく相談を受けるようになった。
彼いわく、私は人の痛みや苦しみを、自分のことのように感じられる優しい人、なのだそうだ。

日常そんなことをはっきりと言われる機会はないし、カランともあろう人にそんな風に言われると、まんざら悪い気もしない。


悩みの種は毎回、キム・ユンシクだ。

彼なりに、テムルに対する感情をずいぶん持て余してるようす。

「たとえば同室生に、深い親しみを感じるようなことは、よくあることなのか?」

これまで、人付き合いをまともにせずに本とばかり過ごした彼には戸惑いもあるかもしれない。

「相手が誰であれ必ず、じゃないけど他人にそんな気持ちを持てるのは素晴らしいことだよ」

「それは…つまりそれは、家族愛とかに似たものか?仲間とか、友を超えるような…」

早口でまくしたて、固く手のひらを握りしめている。

その追い詰められたような仕草に、
(さもなければ、俺は男色なんじゃないのか…)

という、彼の本心を察して少し気の毒に思う。

「うまく言葉にあてはめるなら、天主教の教えにある、隣人を愛せよ、みたいなものなんじゃないかなぁ?

僕も詳しくは知らないけど…」

なるべく、彼をこれ以上不安にさせたりしないよう、慎重に話した。

うーんと、腕を組み、前屈みになって右へ左へと、一直線上を行ったり来たりするカラン。

「誰かを恨んだり、憎んだりしてる訳じゃないし、自分以外の人を思いやれることは誇らしいよ。

価値観や倫理は、時代とともに少し変わっていくものだけど…。僕は、たとえ何があろうと、友だちのありのままの姿をまっすぐ受け止められる人になりたいって、思うよ」

力説したのは、友人を思いやる以上に、友人に自分が女であることを隠している罪悪感を、追い払いたかったかもしれない。

答えてるこっちが、つい熱くなっしまった。

「だから心配しないで。親愛なるイ・ソンジュン」

なんだか気恥ずかしくなって、彼の胸元をばしっと叩いた。

カランの大きな目は一瞬見開き、しっかりと目が合った。

彼のほんのわずかな表情の変化に気付けるようになったのは、つい最近のことだ。

小さなちいさなしわが出来た彼の目尻がやわらかく下がっている。

名無しさんもつられて、小さく笑い返した。
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