夢の中へ。

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「何、ここ。」

私は今、沢山のパイプがあるボイラー室らしき部屋にいる。
いると言っても、さっき私は寝たのだからこれは夢の中だ。
しかし、妙にリアルなのだ。肌に感じる暑さや、床と触れ合っている足の裏の感触。

「ようこそ、お嬢ちゃん。」

後ろから、えらく落ち着いた男の声がした。
振り返るとそこにはこの暑いボイラー室にはそぐわないクリスマスカラーのセーターを着た、右手に鉄の爪をつけた男がいた。
男の顔や手は爛れており、とても痛そうだった。

「誰、あんた?」

私が質問すると、男は私にゆっくりと近づきながら言った。

「俺か?俺の名前はフレディ・クルーガーだ。」

フレディ・クルーガー?知らない。
そりゃ夢だしあたりまえか。
あ。これ夢じゃん。
夢だと思った途端、私はなんだか可笑しくなってにやけた。
だってボイラー室にクリスマスカラーの暑苦しいセーターって。

私がにやけると、フレディさんとやらは眉間に皺をよせた。

「何が可笑しい?」

「いや可笑しいでしょ!ボイラー室でセーター着てるし、右手に鉄の爪なんか付けて、厨二病みたなんだもん!!」

私がげらげらと笑い出すと、フレディさんは足を止め、大きな溜め息を一回吐いた。

「……起きろ。怖がらないんじゃ意味がない。」

「意味がないって、意味わかんない。」

「うるさい。とっとと帰れ!!」
フレディさんは酷く呆れた顔をしていた。

「嫌ですよ。ここ、私の夢ですし。まだ寝てたいし。」
私はフレディさんに一歩ぐいっと近づいた。
「あと、フレディさんのこと、気になるんで。」

にやけながら言うと、フレディさんは私の左頬に鉄の爪をあてがい、その爪をすっと私の左頬の上で滑らせた。
私の左頬に仄かな痛みが走った。
頬を触ってみると血が出ていた。頬が切れているのだ。

私が血を出ているのを確認しているのを見てフレディさんはにんまりと笑った。
きっとさっきの言葉から推測すると、私が怖がることに期待しているのだろう。
しかし私はそんな期待を裏切るようにフレディさんに、にんまり顔をおみまいしてやった。

「意味ないですよ。」
私がそう言った瞬間、私の左頬の切り傷が綺麗に治った。
フレディさんは困惑していた。
「私、不老不死なんです。」
そう言うとフレディさんは「最悪」というような顔をした。

「どうりで肝が座ってるわけだ。」

「私がただの夢で怖がること自体ないんですけどね。」

「ただの夢ねぇ。」
フレディさんが何かポケットから取りだし私の目の前につきだした。
それはピンクの包み紙に包まれた飴だった。

「くれるんですか?」
私はその飴を掴み取った。

「ああ。だが食うなよ。」

私は意味がわからなくて眉間に皺を寄せた。
するとそれを見てフレディさんは「違う違う」と言うように手を振った。

「“夢”の中では食うなってことだ。」

「じゃあ食べれないじゃんかよ!!阿呆なのか?阿呆なのかフレディさん!?」
私は更に意味がわからなくなった。

「ちげーよ!誰が阿呆だ。起きてから食えってことだ。」

「だから起きてからじゃ食べれないでしょーが。これは夢なんです。やっぱり阿呆か。阿呆なのかフレディさん。」

フレディさんは苛々したようで、貧乏ゆすりをし始めた。

「これだからガキは……。」
私はガキという言葉にカチンときた。

「ガキじゃねーですよ。私、こう見えても170年生きてますの。」

「うっわ。ババアかよ。」
フレディさんが若干引いたのがわかった。

引くなよ。地味に乙女心が傷つくんだよ。

「なんだよ。お前ロリコンかよ!170歳ぐらい大目に見てよ!」

「ロリコンじゃなくても170歳はちょっと無理だろ。」

「じゃなくてもってことはロリコンなのかフレディさん。そうなんですかロリコンフレディさん!?」

言い合いをしていると、目覚ましの音が聞こえた。

「もう時間っぽいんで起きますねー。」

「ああ。二度と来るな。」

「酷い!くそっ!ぜってぇ会いに来てやる!!」


次の瞬間には、目の前にもうフレディさんはいなくて、長年住んできた部屋の天井が見えた。

「妙にリアルな夢だったな。」
私は起きようとして、右手をベッドにつくと、右手に何か小さなものが握られているのに気づいた。
右手を見ると、掌の中にはピンクの包み紙に包まれた飴があった。
さっき見た夢の中で貰った飴その物だった。

「え。嘘。マジ?」

急いで足の裏を見てみると、少し汚れがついていた。

「マジかよ。あいつ、阿呆の子じゃなかったのか。」

これを証明する為に飴をくれたのか。
言えばいいものを。粋だな。あいつ意外と紳士だな。

飴は食べずに、机の上に置いた。

「また。会えるかな?」




(永久の孤独に終止符を。)


 

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