刹那主義
□7/三角関係 The triangle
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「あぁ…あ〜…んあぁ〜…」
こんな情けない声を出しているのは、もちろん実莱だ。
今日の夕食は、生徒のみで自炊するようになっている。
中学生にでもつくれる、定番のカレーだ。
カレー担当は俺と美櫻、ご飯担当が実莱、蒼馨は補助。
もちろん、自炊という事は…炊飯器を使うわけではないので…実莱は、絶賛飯ごう炊さん中で、もう死にかけだ。
何かと理由をつけては、持ち場を離れようとする。
俺は包丁を持ったまま、実莱の顔の横にその刃をギラつかせた。
「サボっていいと思ってるのか?貴様…。…あ、そうだ、この包丁さ、切れ味が最高なんだけど…」
「ま、まさか!!やだな、泉深…サボるだなんて…」
実莱は逃げるように持ち場に戻った。
「ふん。…ったく、人が親切に、1番楽なところにしてやったってぇのに」
俺は慌てて火の番に戻った実莱を見て、なんだかおかしくなって苦笑した。
「ほんと、憎めない奴!」
俺は包丁に気をつけながら、作業台に戻った。
お前と俺は
きっとこの先何があっても
簡単に離れられないんだろう
別に理由なんてないけれど…何となくそういう気がするんだ
俺とお前の間には、拘束も束縛もないけれど…そう思うんだ
「もーっ!!遅いよ八雲!」
美櫻がまな板の前で俺を睨んでいる。
「そんな怖い顔するなって…」
俺は苦笑して言った。
ご飯の真面目に火の番をする実莱の監視を兼ねて、
「はいはい、スミマセンデシタ。…後は俺がやりますって」
俺は美櫻が切ったと思われる、大きさも形も不ぞろいな野菜を見て言った。
「…どうせ下手だって思ってるんでしょ!可笑しいなら笑えばいいじゃない!」
「美櫻…」
「いいわよ、あたしはどうせ蒼馨みたいに万能じゃないもん!!」
周りにいた他のクラスメートが美櫻を見ている。
俺は必死に捲くし立てる美櫻をとめた。
「美櫻!!」
「…!!─…あ、ゴメン…」
俺は軽く息を吐いて、美櫻の横に立った。
「どうした?何かあったのか?いつものお前らしくないよ」
「…何もないよ…ただ…」
美櫻は玉葱をとって皮をむき始めた。
「ただ、八雲が…」
「俺?」
俺は人参の皮をむきながら美櫻を見た。
「ただ…八雲は蒼馨に優しいなって…」
俺はしまった、と思った。
美櫻は鋭い。
昔からそうだった。
特に俺の女関係…というと誤解を招くかもしれないが(や、ややっ、やましい事はしてないぞ!!)、なにかと誰と仲がいいとか、よく見ているのだ。
蒼馨に対する気持ちは、いつかバレても仕方がないとは思っていたが。
俺は顔にも態度にもよく出る(らしい)から。
とうとうこの時が来てしまった。