キセキU
□30.
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「はぁっ、光!美羽と白石はどこにおる?!」
何かうるさい足音がすると思ったら謙也さんだった。
しかもだいぶ走ってきたみたいで汗だく。
あと気になるのは謙也さんの後ろにいる二人組。
女と男やけど全然見たことない。
大阪っぽい顔じゃないし、東京の知り合いか?
けどその二人もどこか焦っとるようにも見える。
「白石部長と美羽さんならさっき出てかれましたよ。」
「なんでや…まだ丸井の試合終わっとらんやろ」
独り言のように呟く謙也さん。
「もう終わりそうですけどね。」
「今のカウントは何なん」
「立海が3-0の4-2ですわ」
「ほんまやもう終わりそうやな」
「…ま、部長が美羽さんにキスしてたんすけどね」
「「…は?」」
後ろの二人がハモって俺を凝視した。
「ねぇ君、どういうこと」
「そんなもん俺も知りたいですわ。あの部長意味わからん。」
…俺だって知りたい。
気づいたら白石部長は美羽さんに唇を押し付けていて。
ほんま意味わからんかった。
心底この二人の関係は理解できない。
こうも思った。
「俺の美羽なのになぁ。あー、でも美羽のファーストキスは俺だからね。」
「…あんたこんな状況でよくそんなこと言えるわねばっかじゃないの今すぐこの人に雷直撃しないかな」
「はぁ水野。妬くな。見苦しいぞ」
「ばかじゃない。あんたマジ馬鹿でしょ。」
「二人ともストップや。もう試合が終わる。水野さんは、一応幸村に連絡取れたら今の状況伝えておいてくれんか?で、もし丸井が会いに行きそうになったら二人で止めてほしい。俺は、白石を止める」
ハッとなって試合を見ると、40-0で立海優勢だった。
そして、こんなに頼もしい姿の謙也さんを見たのは久しぶりだった。
今の会話で分かった。
この人達は、中学の美羽さんの友達だ。
男の方はファーストキスの発言があって印象ダダ落ちやけどな。
「分かったわ。幸村君に言っとく。」
「おう。謙也、そっち頼むからな」
そう言って男の方が女を引っ張った。
「わっ、高梨やめてよ」
「早く立海ベンチ行くぞ」
携帯を操作していたからかいきなり引っ張られて、バランスを崩した女を男は軽くキャッチしてまた足早に行ってしまった。
「高梨は軽いけどいい奴なんやで。やから光。そんな顔すんな」
「…別に。」
「はよ美羽探さなあかんな。」
「俺も手伝いますわ。」
「…光」
「丸井と会わせたらあかんのですよね。そんなら簡単じゃないっスか。美羽さんをホテルに連れてけばいい」
「おん、それだけでええわ。丸井は美羽に気づいてないんやろ?」
…あ。
そっか、この人いなかったから。
「残念ですけど丸井は美羽さんに気づいてるっスよ」
「…は?」
「やからさっきも言うたやないですか。白石部長が美羽さんにキスしたって。それを丸井に見せつけたんスよ」
「……白石っ、あいつ、どれだけすれば気がすむねんっ…!」
謙也さんの見せた表情は、あんまり見たことないような表情で。
ただキレてんじゃない。
白石部長ーーー…
アンタ、
親友や俺らの信頼とかよりも
そんなことよりも
美羽さんのこと欲しいんですか。
「水野さんと高梨に連絡せな」
謙也さんがジャージのポケットに手を突っ込んで携帯を取り出そうとする。
それを、
「光?」
俺が止めた。
「待ってください」
「もう丸井の試合終わるやろ。少しでも早い方がええのや。」
「やから待ってください。俺に考えがあります。」
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