キセキU
□30.
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ドアが開いた音がして、後ろを見ると幸村が立っていた。
「やぁ水野さん高梨君。応援に来てくれたのかい」
白々しい演技だ。
けどノるしかないな。
「ああ。優勝おめでとう」
「蓮ちゃんにも会いたいんだけどどこにいるかな?」
「ああ、柳なら真田と別の部屋にいるはずだよ。けどもうすぐで表彰式だから会うならその後にしてくれるかい?」
「分かったわ。」
「丸井、赤也立ち上がれるかい。表彰式に出る準備して」
「じゃあ私たちは表彰式見るために席取ってくるわ!」
俺の腕を掴む水野。
チラリと顔を見ると、真剣な表情だった。
「そうかい。分かったよ」
水野に引かれて、俺たちは個室を出た。
カツカツ…
廊下に水野のヒールの音が鳴り響く。
「美羽は私たちの友達よね」
俺の前を歩いてた水野が歩きながら呟いた。
「当たり前だろ。丸井のためだ」
「うん。でも。それでも…」
「俺たちは中一のあの頃からずっと友達だよ」
あの頃が一番楽しかった。
それはお前も同じなんじゃないか、細谷。
「小春ちゃんうまいねぇ卓球」
「でしょぉ〜美羽ちゃんっ!アタシねぇ全国大会まで出たことあるんやもんっ」
「えええっさすがIQ200だね」
「惚れたらしばくぞ美羽」
「それは嫌だなぁユウジ」
ユウジほんとにガード固いな。
小春ちゃんと話してるだけじゃんか。
でも面白いんだけどね。
「4時50分か。そろそろ女子の試合も終わる頃合いやな」
「あらもうそんな時間なの?じゃあ表彰式ももうすぐやないの」
「けどオサムちゃんが代表で見てきてくれるらしいから俺ら行かんでもええらしいっすわ」
全国ベスト4なのに四天は表彰式に立たせてもらえないのか。
去年もそうだった。
あと一歩なのに。
「美羽さん?」
「え?」
「次、美羽さんとユウジ先輩ですよ卓球」
「えっほんと?よぉーしユウジ!本気でいくよ!」
「望むとこや!」
「光も大変ねぇ。」
隣にきた小春先輩が言う。
「何がです」
「美羽ちゃんのこと一生懸命守っとるやないの。」
「…俺は、美羽さんがどこも行かんようにしたいだけですよ。」
「ふふ、そんなん建前やろ。」
「…」
「ユウ君やって、アタシも皆も美羽ちゃんにはどこにも行ってほしくない。この方法が一番いいのかもしれないわね」
「結局俺らがしとることは部長と何ら変わりはない。ただ閉じ込めて自由にさせん。…好きな女を縛るなんて趣味やないんですけど」
「イヤン光きゅん♡♡縛るやなんてドキドキするわぁ」
「どこに興奮しとるんです」
「…けどこれはただ縛っとるだけなのかしら」
「え…」
「ナイススマッシュあたし!」
突然大きな声が聞こえて、見ると美羽さんだった。
「くっそぉ!美羽に負けるなんて…!!一生の不覚や」
「ふふ、ユウジあたしのことなめてるから!」
どうやら勝負がついたみたいだ。
「じゃあ光。あたしトイレ行ってくるね〜。」
「はい、行ってらっしゃい」
卓球のラケットを台に置いて美羽さんが駆け出した。
「何や、そんな漏れそうなんか」
ユウジ先輩が美羽さんの後ろ姿を見ながら面白くなさそうに言った。
「…良かったん?」
小声で小春先輩が俺に問いかけた。
「……これでええんですよ」
先輩に嘘は似合わないから。
もう嘘つく姿を見たくないから。
もう苦しんでほしくないから。
もう白石部長から解放されてほしいから。
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