キセキU

□30.
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「遅いよ君たち」


「だってぇ丸井さんが遅かったんスよぉ」


「先輩様のせいにしてんじゃねぇよバカ也!」


「うるさいよ君たち。話してるのは俺だからね。」



俺と赤也が軽口を叩いていると幸村君にまた怒られた。


先生と話した後、校門に向かうと赤也が待っていて「遅い」と怒られた。
その後スーパーに行ってすき焼きの材料を買ってからまた東京の会場に向かった。


4時って言われてたのに結局着いたのは4時半だった。



「まぁ女子の試合が幸いまだ終わっていないし真田の平手打ちは勘弁しておくよ。」


「その判断賢明すぎッス」


「赤也調子にのらないで」


「はい」



ってことは美羽に会いに行くこともできるってことか?!


「じゃー幸村君!俺行くとこあ「え?誰が君たちを解放するって言ったの。表彰式まで君たちは正座ね」えええっそりゃねーよ」



「おうおうブンちゃん怒られとるんか。」


飄々とした雰囲気を漂わせた仁王がどこからかひょっこり現れた。



「てめ仁王!」


「ちゃんと正座しとるんじゃよ?俺は散歩してくるぜよ」


「お前も座れ!」


「丸井〜君は怒られたいのかい?」


笑顔の幸村君が言った。

あ、こりゃ怖え。


会場の個室の中で怒られている俺ら。
高2になってまで怒られる俺。


こんなのダセェよな。





「表彰式までここにいなよ。俺は外に出るけど」



「「はーい」」


俺と赤也の声が揃う。


逃げようなんぞ思ってねぇけどさ。



バタン



幸村君が出て行って、俺と赤也だけの空間になった。

きちんと正座はしてるけど。



「先輩」


「ん」



「……やっぱ何もないッス」


「はぁ?まぁいいけどよぃ」


「暇ッスね。しりとりしません?」



「しりとりぃ?じゃー天才」



「イルカ」


「カスタネット」




この後このしりとりは、ドアが開く音がするまでずっと続いていた。














「美羽さん」


「うんなぁに光」


「部長にキスされてましたよね」


「ふふっ光意外と純粋〜?」


「何ですそれ。」


「あれは事故だよ。忘れて忘れて」


「でもアレは丸井を動揺させるためとかじゃないんスか」


「…蔵が?ふふっ面白いこと言うのね。前から言ってるじゃない光。部長のことそんな悪い風に言わないでって」



「でも、」



「もしそうだとしても蔵はあたしとブン太のこと知らないのよ?」


「だったら何でキスなんか…」


「事故だもん。謝ってもらったから大丈夫だよ」


「先輩」


「ん?」



「約束してください。今日は俺から離れんて」


「トイレくらい行かせてね」


「それはまぁ許しますけど」



光やっぱり気づいてたのか。
あたしが蔵にキスされたこと。


今は、ホテルにいる。
今日で泊まるの最後だから少し名残惜しいけどでも帰らなくちゃね。


優勝したのはやっぱり立海だった。
後から聞いた話では、ブン太で決めたらしい。



「光、卓球しよ」


「…いいですよ」



無言はやっぱりきつい。
何かを言いたくなっちゃうから。



ラケットを持って光に向き合うと、一瞬だけ目が合った。



「ほな、いきますね」


不意に逸らされて、声をかけられた。


光まだあたしが立海に行くって思ってるのかな。
今もあたしが立海の皆、いや、ブン太に会いに行かせないように引き止めてるのかな。


カコン



光が打った球を打ち返した。


体育でやったから打てないことはない。



「先輩」


また打ち返しながら光が話しかけてきた。


「なぁに?」


「先輩には夢ってあるんすか?」


「夢?」



光からそんな言葉が聞ける日がくるなんて思いもしなかった。



「夢かぁ。これといってなりたい職業ってないんだよね」


「ふーん。やって先輩って勉強できるし内申とか良さそうやし、何にでもなれるんちゃいます?」


「あははっ光あたしのこと過大評価しすぎだよ。でも本当にないの。高2だからヤバイとは思うんだけど。」



一応理系には進んでるけど、本当に漠然ともしてない。


「学校の先生とかは?」


「先生?あたしが?無理無理!」


「あー、でも男子校とかには入れたくないッスね」


「教えるとか無理だし。普通にOLになるのかな」


「もったいな。美羽さんくらいの人がOLとか」


「ええ〜。でも、やっぱり中・高とマネージャーしてきたからそういうの活かしていければいいな」


「ふーん。じゃあ看護師とか?」


「看護師さんか。いいかもしれないね。」


「ナース服の姿送ってくださいね」


「ちょっと光変態!」



看護師さん…か。

まだ決めたわけじゃないけど少しだけ何かが見えた気がした。






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