キセキU

□30.
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「はぁっ、」


「センセ、大丈夫かよぃ。運動不足?」


「わ、悪かったわね…」



3分くらい後に帰ってきた先生はお疲れだった。
すげーはぁはぁ言ってるし。
確か24歳だっけ?先生の中では一番若い。
けど運動不足か。



「はい。」



「え」



差し出されたものはジュースだった。



「何?」



思わず聞くと、



「優勝のお祝い。おめでとう丸井君」


「マジかセンセ。ありがとな」


「ついでにあたしも買ってきちゃった。」


「じゃあ乾杯しようぜぃ」


「そうね。テニス部の全国優勝を祝って〜」



「「乾杯っ」」



鈍い音を立てて乾杯をした。

素直に嬉しかった。




「今のテニス部は強いのね」



ジュースを飲みながらぽつりと呟かれた先生の言葉。


「今の?」


気にならないわけがない。



「あたし立海の卒業生なの。」


「ええっ!マジかよぃ!!じゃあ先輩なわけ?センセって」


「うんそうね。その時の男子硬式テニス部は、全国なんて夢のまた夢の話だったわ。」



「ふーん。よく覚えてんね」



「当時付き合ってた人がテニス部だったのよ。すごくテニスが好きな人だったから。」



「へぇ。大好きだったんだ?」


「そうね。好きだった。彼と立海はあたしの青春だったから。忘れられないわ」


「…センセ言うじゃん」


「ふふ、忘れて?」


「忘れられませーん。で、その彼とはどうなったわけ?」


「結局彼が黙って転校しちゃって連絡が取れなくなったの。」



「え…?マジで?」


なんか、よくわかんねぇけど
目の前が真っ暗になった気がした。


俺と、同じーーー…
いや全く別モノかもしれないけど

「そう。あの時は冷静でいられなかったけど今なら何となく分かる。」



「何を?」


俺が真顔で聞いてることに先生は気づいてない。



「あたしが彼と遠距離になるのは耐えられないって彼は多分分かってたから。」



「……何でそんなこと分かる」



「彼はあたしのことよく知ってるから。あたしの為に言わないで行ったんだと思う。」



「…」



「なんてね。かっこよく言ってるけどあたし達再会したのよ。それで…最近結婚したのあたし達。それから彼から色々当時の話とか聞いたから。」



「えっセンセ結婚したのかよぃ?!おめでと!!」


「ありがと。つい最近だけどね」




「センセ」



どこか遠くを見ながらジュースを飲んでる先生に話しかける。


「ありがとね」



先生は俺のお手本。
遠距離恋愛でも心が通じていたら乗り越えられるって。


それを教えてくれた。


「えっなぁに丸井君変よ」


「俺彼女に聞きたいこと増えたわ」


「あら、彼女さんいるの?うちの学校の生徒?」


俺の話になったからか、先生の顔じゃなくてただ俺の話を聞きたそうなニマニマした顔になっている。



「ううん。実際にはまだ付き合ってねぇんだけど、これから告ってくる。」



「青春!うわぁいいなぁ」


目を細めながら言う先生は本当に羨ましそうだ。



「センセ結婚してんでしょ〜?」


「してるけどそういうのっていいなぁって思うものよ」


「はは、夫かわいそ」


「やーめなさいそういうこと言うの!」



顔を見合わせて俺たちはまた笑った。



「丸井君頑張ってね」



「ん。頑張ってくる」



そしてまた俺はジュースを飲んだ。





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