□キラキラ
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「天気いいッスね〜!」

扉を開いたとたん視界いっぱいに広がる青空を、黄瀬君は眩しそうに見上げる。
太陽の下でキラキラ金髪を揺らす風が僕の頬も緩やかに掠める。
まだ少し日差しは強いものの秋の涼しい風が吹く九月の気候は心地よい。

ここは屋上。
帝光中の屋上は立ち入り禁止にもかかわらず、鍵すらかかっていないという杜撰な管理のおかげで完全貸し切り状態の穴場スポットだ。
もともと僕一人のお気に入りだったここで、少し前に友人という関係から恋人に発展した黄瀬君とお昼を過ごすようになっていた。

日差しはまだジリジリと暑いので、日陰になっているところに座っって食べる。
僕の昼食はいつものようにコンビニで買ったサンドウィッチと紙パック牛乳。
日に当たっていないアスファルトはヒンヤリしていて心地よかった。
僕と向かい合わせで胡座をかいて座っている黄瀬君は、弁当のおかずを口に運びつつもノンストップで調子よくしゃべっている。
よく次から次へと話題が出てくるもんだと感心している僕は、ぶっちゃけ彼の話を聞いていない。
だけど、にこにこと楽しそうにしゃべって食べてる彼を見ると、自然と口元が緩むのがわかる。
好きな人の笑顔はやっぱりうれしい。

ここには僕と黄瀬君の二人きり。
いつも大勢に囲まれている彼は今はぼくだけのもの。
誰からも邪魔をされないこの空間が幸せだと思う。
・・・あ、だから黄瀬君も

「黒子っち−?聞いてるっスか?」

僕がぼーっとしていることに気づいたのか、黄瀬君が僕の顔をのぞき込み、さぐるように聞いてくる。

「青峰君と1on1の話ですよね。次はがんばってください。」

「その話はもう終わったッス〜・・・」

適当な返答をすると、やはり間違っていたようで
うー、と泣き真似をする黄瀬君。

「すみません。ぶっちゃけ聞いてませんでした。」

「黒子っちー!!」

正直にそう言うと黄瀬君は冷たいッス!!と空を仰ぎ嘆き叫ぶ。
その姿に思わずクスリと笑いがもれる。
手を頭に押さえた嘆きのポーズの黄瀬君が、笑っている僕をぱちくりと見て、

「なに考えてたんスか?」

さっきの体勢にもどりながらそんなことを聞いてくる。
別に深い考え事をしていたわけではないのだけど。

「黄瀬君がやたらご機嫌だなと思っていました。」

一応思っていたことのひとつを口にすると、彼はにへらと笑って、そうッスか?となぜかうれしそうに言った。

「はい。あと、屋上好きですよね。」

付き合うようになってから、屋上で一緒にご飯を食べたいと言い出したのは黄瀬君だし、
今、ここにいるときが彼は一番機嫌がよく見える。
バスケをしているときももちろんそうだが。
やっぱり、毎日大勢に囲まれて送る生活も大変なんだろう。

そんなことを思う僕に、黄瀬君がずいっと詰め寄ってきた。

「そりゃあ好きッスよ!だって」

うれしそうにボリューム大音量でしゃべりだしたので、思わず後ずさる。
そんなに屋上に熱い思いがあるのだろうか。

「黒子っちの好きな場所っスもん!!」

僕の?
キラキラキラキラ、輝く笑顔の黄瀬君に、首をかしげる。

「俺、文化祭の日に黒子っちがとっておきの場所だってここでの夕焼けを見せてくれたときうれしかったんスよ!
夕日も綺麗だったけど、それ以上に黒子っちの秘密、ていうか、好きなものを知ることができたんだなーって!」

文化祭の日、欲しかったものは手に入らなかったけど、せめてものお礼として、青峰君、桃井さん、黄瀬君にここからの夕日を教えたのだ。
みんなその景色に見入ってて、少しはお返しができただろうかとうれしかった。
そんな少し前のことを思い出す。

「だけど、」

黄瀬君が言葉を続ける。

「あの時、俺なんかモヤモヤしちゃって。四人でみるんじゃなくて黒子っちと二人で見たかったなー、ていうか・・・俺しか知らない黒子っちが欲しいなんて思って。あんまいい気持ちじゃないんだろうけど、黒子っちが好きだったから。
だから、今こうやって黒子っちとここに居られることがすごいうれしんっス」
全部独り占めっスもんね。

そう言って笑った。

「黄瀬く・・・っ」

何か言おうとした口が、突然覆い被さってきた黄瀬君のものに塞がれる。

少し長いキスで、顔が火照って息が上がる。
こういう行為に僕は全然慣れなくて、心臓がうるさい。
照れくさいのもあって、ここは校内だと咎める言葉を言おうと黄瀬君を見上げると

「えへへ。こうやって触ることもできるっスもんね?」

そうやって綺麗に笑う黄瀬君に僕は何も言えなくなる。
どうして彼はこんなキラキラな笑顔をするんだろう。
いろいろ知っちゃってるくせに、純粋でまっさらに笑う。

太陽の光で輝く髪に触れたくて手をのばす。

僕だって、同じです。ずっと、欲しかった・・・


「黄瀬君だって、今は僕だけのものです」




照れくさくて、笑った。
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