寝返りをうったときに薄くなった意識の中でふと気づき、俺は重たい瞼をうっすら開けた。

「ん………あれっ?」

そして俺は異変に気づく。

狭いシングルベッドにふたりも寝ていれば、それが小さな子供同士でもない限り寝返りをうてば嫌でも互いの体がぶつかる。
そうなるはずなのに、寝返りをうっても体がぶつかるどころか、伸ばした手が触れるのは冷たいシーツの布だけだった。

俺は起き上がって、部屋のどこかに人の気配がないか確かめた。

少し寒いと感じたは、自分が裸だったせいだ。


静まり返った部屋を見渡す。


「………」


やはり、誰もいなかった。


「夢………だったのか?」


疑いつつ、昨夜の記憶を呼び起こす。
(とはいってもここは宇宙空間の真っ只中だから、夜といっても時間的にそうだってだけなんだが……。)



「覚えてはいるんだけどな………」

記憶には昨夜ここで起きたことが確かに刻まれていた。夢中になっていた分、ひどく断片的ではあるが。

俺はこの記憶が現実であることを確かめたくて、もう一度いつもと違っているところはないかと、回りをよく見回した。
そしてふと、ベッドのサイドボードに目を向けた。


「…………………あ。」

















「ティエリア!」

通路で目当ての人物を見つけた俺は、かなり離れていたがその後ろ姿に声をかけた。

気づいたティエリアがこっちに振り返る。

その顔を見て、 ああやっぱり と俺は思った。



「ロックオン……」


完全に振り返ったティエリアの傍に行くと、俺はティエリアの手を掴み、掌を上にして見やすくなるように胸の前まで上げた。

「ほら、これ……」

そして俺が握っていたものを、ティエリアの手の上に置いた。


「忘れ物だぜ」

「………」



それは昨日の晩、俺の部屋で外したティエリアの眼鏡。



「………っ/////」



自分の眼鏡を認識した途端、ティエリアの顔が真っ赤に染まった。



それはもう見事なくらいになっ!




「なあ朝メシ食べたか?まだなら一緒に食おうぜ」

真っ赤になって俯いているティエリアに呼びかける。
初めて見るその表情はとろけてしまいそうなほど可愛かった。


「あ……僕はもう………食べたから」


しかも僕になってる!



「そっか。じゃあ俺食べてくるわ。またあとでなっ」

「ああ……/////」


内心ではテンションが上がりまくってたが、俺はあくまで平然と言ってティエリアの肩をぽんと叩き、すれ違うようにして去っていく。
ティエリアがそこに突っ立ったままでいるのを、横目で確かめながら……。


「あっそうだ、ティエリア」

そして去るふりをして、振り向き様にもう一度呼びかけた。
もう背中を向き合わせていたので、ティエリアはまた俺に振り返る。

俺はちょうどティエリアがこっちを向いたタイミングを見計らって近づき、隙だらけのその唇にキスをした。


「……っ////」


驚いて反射的に身を引いたティエリアの腰を抱いて、ぐっと引き寄せる。

朝の挨拶なんだからフレンチキスだけ……なんて思っていたが、果実のように甘く潤った唇に触れてしまっては、最後までかじりつきたくなる欲求に激しく襲われた。




アダムの意志なんて、実に弱いものだ。






「ンッ…ふっ……はッぁ…んんッ」


探るように深くしていくキス。上擦った声。合間に漏れる、熱く湿った吐息。

いやがって俺の胸を押していたティエリアの手は、いつのまにかTシャツをしわくちゃにして掴んでいる。

唇を離す間に覗いた余裕のない表情にまたそそられて、幾度かの重ねた口づけに、俺はティエリアの後頭部を押さえつけた。

もっと深く、絡める舌で、甘い果実の中を味わっていく。
溢れる蜜を吸いとり、零れる蜜は舐め取って、唇が痺れるまでかじりついていった。



長い長いキス。最後は名残惜しく啄みながら、俺はその赤くて甘い果実から唇を離した。

「ンッ……っ、はぁッ…はぁ……ぁ、ロ…クッ…」


乱れた呼吸を整える間もないうちに、俺はティエリアを腕の中にしっかりと捕らえた。

上下する肩、空気をたくさん吸おうとして膨らんではひいていく胸。
これが現実であるんだという感触を、俺はティエリアを抱きしめることで感じていた。


「安心したぜ……。やっぱり夢じゃなかった」


ティエリアはおとなしく捕まっていてくれている。
抱き返してりはしてくれないが、体を完全に俺に預けて、頬を俺の肩にのせていた。

「…………夢だと思っていたのか?」

まだ少し熱のある声が肩に響く。

「お前がいけないんだぜ。起きたら隣にお前がいないから、ひょっとしたらって………。だから、少し焦った……」






言葉にして、俺は初めて自覚した。



俺はもっと軽い気持ちで、ティエリアとの関係を楽しむつもりだった。

「なあ、何でいなくなったりしたんだよ?」


キスをして、抱きしめて、俺に翻弄されるティエリアの姿を見たいと思った。


それが恋っていうものなんだって、今まで思ってた。


「………」

「教えろよ。ティエリア」


それなのに



今、こいつの気持ちが知りたくて、



知りたくて






こんなにも焦ってる俺がいる―――――。








少しなんてもんじゃないさ。






本当は、昨日のことは行きずりってやつで



今お前から「全部忘れてくれ」なんて言われるんじゃないかって、不安なんだよ。




「なあ?」





だから、頼むから






早く教えてくれよ……。




「………しかった……から」


「えっ?」


焦って答えを待つ俺に、ティエリアは不意に呟いた。

本当に小さな呟きだったから、俺にはぜんぶ聴こえなかった。

「悪い……聴こえなかっ」
「目が覚めたら……隣に貴方がいて………」
「……っ」

ティエリアがまた急に話しだして、俺は咄嗟に黙った。
今度は聞き漏らさないようにティエリアの声に集中する。

「……夢のようだった」
「夢?」

「ああ。昨日のあなたとのことが夢のようで……。でも、貴方に抱きしめられて眠っていたんだと自覚したら……」
「自覚……したら?」

焦る心がその先を知りたくて、ティエリアの言葉を促す。

ティエリアは少しの間言い留まっていたが、掴みっぱなしだった俺のTシャツをさらに強く掴むと、震えた声で囁くように応えた。

「急に………恥ずかしくなった////」
「………っ!?」
「恥ずかしすぎて……その場にいられなくなった////」
「な……」





「………………ごめんなさい」

「……っ////」




ああっ、くそ!


「ティエリア!!」

俺は腕の中のティエリアを、これ以上入れられないくらいの力で抱きしめた。

「…っ!いっ…痛い、ロックオン……ッ」
「好きだぜティエリア……愛してる!」
「……ッ////」
「愛してる……ティエリア」

ティエリアの横顔に頬を摺り寄せて、耳元で囁く。


「僕も…………貴方を愛してる」

ティエリアがそろそろと、俺の背中に腕を回した。

その行動に、言葉に、焦っていた俺の心は熱くなり、満たされていく。



「ティエリア……」

俺は抱き合ったままティエリアと向かい合い、見つめ合った。

「……ロックオン」

俺を見つめるティエリアが、熱を帯びた瞳を伏せていく。




俺たちは互いに求め合って、そして唇を重ねた―――――。


















‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



「ロックオン………いつまでこうしてるつもりだ?」

「お前がいけないんだぜ。そんなに可愛くされちゃ、離れられるわけないだろ」

「誰か来たらどうするんだ……」

「見せびらかす☆」

「………ι」




それからティエリアが俺の朝メシに付き合ってくれると言うまで、俺はずーっとティエリアを抱き締めていた。




おわり。



なんだかわけわかんない内容に…
ちょっと可愛いティエが描きたかったんですが中途半端に〜。
ゴメンナサイッι


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