お題
□また一つ、屍の山が増えた
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十日前。
「やれやれ。相変わらず、都の空気は汚いなー」
お供獄卒の猫又と、自分の息子を連れ立って歩く男が言う。
母親譲りである、鼻筋の通った端正な顔が顰められ、道端に転がる浮浪者たちや死体を忌々しげに見ていた。
今歩いている場所は、羅生門を潜って少し歩いた所だ。
その場所は浮浪者たちのたまり場で、糞尿は垂れ流され、疫病も流行っていると部下の鬼たちが話していた。
そして、鬼が生まれる場所であるとも。
煌びやかな貴族たちとは対をなすように、都には鬼が溢れていた。
男の故郷である地獄よりも地獄だ。
「うにゃー……。なんだか、胸がむずむずしますにゃ……」
「猫又もかい?私もだよ。悪鬼の気に当てられて、鬼の血が騒いでるんだろうね」
「にゃー」
鬼である男と猫又に、この空気は悪影響を与えるようだ。
半分鬼である自分も、胸の奥で鬼の部分がざわめくのを感じている。
むぅと眉間に皺を寄せていると、男が声をかけてきた。
「お前もざわめいてるのか?」
「……少し」
「半分人間のお前でも感じるのだから、よっぽどなんだなー」
天照大神の子孫が統治しているとは思えない状況に笑いが込み上げて来たのか、男の頬が緩む。
笑っている場合ではないだろうと、息子は毒を吐いた。
このままでは気にやられて、負の言霊を吐き出しそうだと思い、息子は話題を変えた。
「鬼に見初められた姫君はどの辺りに住んでるんですか?」
「この道を真っ直ぐ行った所だね。大内裏にほど近い場所にある。我が家からは歩いて二刻かな?お前の足なら一刻かからずに着くだろう」
「何かあっても直ぐ駆けつけられるよ」と、男は笑う。
「何かあってからでは遅いと思いますにゃ」
猫又が呆れた顔をした。
「そう言われてみればそうか」
男が笑い終わったところで、息子が口を開いた。
「今夜、姫の夢を辿って様子を見て来ます」
「ああ、頼んだ。気をつけろよ、魂を傷つけられると治すのに時間がかかるからな」
その言葉に、彼はわかっているといった風情で頷いた。
続
懐古