お題

□桜の下には
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 ◇  ◇  ◇


『ねえ、知ってる?桜の下にはね、』


 ◇  ◇  ◇


「桜の呪い?」

 と、言葉を返しのは、黒髪の男子生徒である。
 名を、神無月神也。
 祖母を空狐に持ち、そのせいか自分にも空狐の神通力を宿した少年だ。
 それを知ったのは、昨年の夏辺り。
 知るきっかけには色々とあったのだ、色々と。
 稲荷神社の神、白狐の白真と出会ったり、片思いの女子生徒が死神で、婚約者の死神に無理やり連れ戻される所を助けたりと、色々あったのだ。
 まあ、今はそれは置いといて、友人達との話に戻る。
 友人の一人、野球部キャプテンで坊主頭の勇翔(ユウト)が出した話題『桜の呪い』についてだ。

「うちの学校にある七不思議の一つだよ。外の体育倉庫の脇に、古い桜の木があるだろう。」

「ああ、あるな」と、神也は相槌を打つ。
 勇翔は話を続けた。

「その下に恋人達が行くと、桜に呪われて女が永遠に起きないんだって。」

 死んだわけではない。
 ただ、眠っているだけ。
 男の方は、女が起きない事に耐えられなくなり、発狂してしまうという。
 そんな七不思議があったのかと、神也は聞かされて初めて知った。

 しかし、何故今その話題なのか。
 今は梅の花が咲く季節でまだまだ寒く、桜が咲く季節でもない。
 そういう話は、暑い夏にやるべきではないか。
 その疑問を口にすると、勇翔はチッチッチッと舌を打ち、「まだ続きあるのだよ、神也君」と続けた。

「1年の女子がさ、先月の後半から登校してないのよ。かれこれ、2週間来てないのかな。担任が様子を見に行ったらしいんだが、登校しない理由をクラスの生徒に伝えてない。女子生徒が最後に目撃されたのが、倉庫脇の桜よ。」

 その子だけじゃなくて、他の女子生徒も何人か原因不明で休んでいる。
 最後の目撃場所は、全員桜の下だった。

「まさかとは思うが、『桜の呪いだ』ってみんな騒いでんじゃないだろうな。」

「そのまさかよ!今じゃみんな気味悪がって、桜どころか倉庫にも近寄らねー。なっ、拓(タク)。」

 もう一人の友人で、サッカー部キャプテンの拓に、勇翔は同意を求める。
 が、返事がない。
 彼は、顔を俯かせ、じっと自分の指先を見つめていた。

「拓?どうした?」

「桜の呪いにびびったか?キャプテン。」

 神也が拓の肩を軽く揺らし、勇翔が意地の悪い笑みを浮かべてからかう。

 拓は、ハッと我にかえり、友人二人の顔を交互に見る。
 神也が再度「大丈夫か?」と聞くと、力の籠もってない声で「大丈夫だ」と返した。
 大丈夫と言うわりには、顔が青白い。
 冷や汗もかいているようだ。

「ちょっと、喉乾いた。水飲んで来るわ。」

 ガタリと音を立てて椅子から立ち上がり、拓は教室を出て行く。
 彼の背中を見送りながら、勇翔が口を開いた。

「あいつ、さっき水買ってたぞ。」

 やはり、どこか変だ。

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