お題2
□ピッチで恋した
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「うー!あっつーい!」
グラウンド脇の水道に飛びつき、あかりは蛇口を捻る。
待ってましたと、管に溜まっていた水が溢れて、彼女の顔を濡らす。
女子サッカー同好会の練習で吹き出た汗を思う存分流し、顔を上げる。
止めていた息が口から吐き出た。
土曜。梅雨の暑い雲を切り裂いて、太陽が地上に顔を覗かせた。
久しぶりに浴びる日差しは、肌を突き抜けるほど鋭く、じりじりと熱い。
吹く風も太陽に温められたのか、梅雨の冷たさはなく生温かった。
それでも、外で出来なかった練習を取り戻すかのように、外の運動部は今日も元気よく汗水を垂らしている。
女子サッカー同好会も例外ではない。
部員の数が少なく、部活動から同好会に格下げされた会だけど、練習だけは部活と変わらず続けていた。
今日の練習はお昼までだ。午後の2時から、地元に本拠地を置くプロサッカーチームの試合があり、男子のサッカー部と合わせて観戦しに行く事になってる。
「観戦かあ……」
ということは、彼も来るのか。
頭に浮かぶプロサッカー選手を兄に持つ同級生。
あかりが、ちょこっといいなあっと思ってる男の子。
今学期に入ってから13回は彼から目をそらしてると、親友のかおりに言われていた。
しょうがないじゃないか。恥ずかしいんだもの。
空を見上げながら、そんな事を考えていると、背後から耳に息を吹きかけられた。
「うひゃあっ!」
びくりと肩が上がると同時に振り返る。
耳に届くは、男の子の笑い声。
練習終わりの悠人が、肩にタオルを巻いてそこに居た。
「悠人くんも来るんだなーって思ってた?」
真っ直ぐあかりを見つめながら、首を傾ける。
「ゆ……!悠人くん……!」
「どうなの?」
「さ、さあ?なんの事だか……」
そろそろと、カニのように動きながら彼から離れる。
目は、動く前から別の方向に向いていた。
「(あっ、他の部員もこっち来てる)」
視界に、グラウンドを横切って水飲み場に向かうサッカー部員の姿が目に入った。
不運な事に同好会も一緒だ。(あいつら合流してやがる)
悠人は知って知らずか、あかりの前から動かない。
鼓動が早くなるのは、部員が迫っているからか、別の理由か。
早く別れなければ、冷やかしの対象にされてしまう。
「ああああああの!私、もう行くねっ!ボール片付けなくちゃっ!」
「さっき、片付けてただろ?」
「あ……!じゃあ……着替えだ!うん!着替え!うん!じゃあ、またあしーー!?」
また明日。
そう言ってその場から駆け出し逃げようとしたのに、しっかりと腕を捕まれて阻まれる。
悠人はずいっとあかりに顔を近づけ、口を開いた。
「お前、俺から目そらしすぎじゃないか?」
「き……気のせいでござるよ!あーーまたね!」
腕を振り払い、部室に向かって駆け出す。
なるべく、他の部員からも離れるように。悠人に再び捕まらないように。
部室に滑り込むように入ってから、あかりはやっと胸を撫で下ろした。
「もうっ!なんなのよう……」
あんなに顔近付けて来るなんて、気になってなくてもびっくりしちゃうよ。
火照った肌を冷やすように、あかりはぱたぱたと手を振った。
end