お題2

□牛乳は温めてください
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 ◇  ◇  ◇


 魔獣危機管理室。
 それは、日々現世に現れる魔獣を討伐する部署である。


 ◇  ◇  ◇


「今日の任務にご一緒します!キリシマと言います!」

 ビシッと敬礼をして、目の前の魔法使い……キリシマは挨拶をする。
 任務用の白シャツと黒のズボン。その上に黒いローブを羽織り、腕に魔獣危機管理室の腕章をつけていた。
 歳はわりと近く見える。
 そんな事を思いながら、本日も仕事に出る予定のミティは彼を見た。

「はあ、よろしくお願いします」

 相方が来るとは、上司であり兄でもある部長から聞いていなかったので、多少困惑しながら返す。
 あの兄……さては護衛でキリシマをつけたな。
 兄の過保護っぷりは、危機管理室で有名だ。
 今日の魔獣は化け猫相手なので、一人でも大丈夫だと言ったのに。
 過保護な兄の姿を思い浮かべて、ミティは深いため息を吐いた。




 二人乗りの箒にキリシマを後ろに乗せ、ミティは任務へと向かう。
 二人乗りは超特急仕様のもので、風で三つ編みに結ったミティの髪やキリシマのローブが後ろに流れた。
 星空の下を、駆け抜けるように飛び進む箒にキリシマは慣れてないのか、声にならない悲鳴を上げていた。

「あ、あの!いつもこんなに飛ばしてるんですか!?」

「任務を円滑に進める為ですから、当然です!」

「で、でも!早すぎやしませんか!?」

「これでいいんです!……後ろを見てください」

 ミティに言われ、キリシマは後ろを振り向く。
 車と同程度はあるかと思われる化け猫が、自分たちを追い掛けるように空中を走っていた。
 その姿を確認して、キリシマは息を呑む。
 対するミティは、平然とした様子で後方を確認していた。

「い……!いつの間に……!」

「町を出て、山を越えた辺りからですね」

「そんな前から!?」

「キリシマさん、集中して下さい。討伐を開始します」

 言葉を返しながら、自身の杖を用意する。
 杖先を箒の後方に向け、呪文を唱える。

「出でよ、ケージ。ソワタヤウンハッタ!」

 ミティから呼び出されたケージが、箒にぶら下がる。
 が、化け猫を入れるには小さい。
 次の魔法を準備しながら、ミティは口を開いた。

「キリシマさん、ケージを大きくして下さい!」

「は、はい!」

 ミティに言われ、キリシマも自身の杖を取り出し、ケージに向ける。
 呪文を唱え、放たれた光線がケージに当たり、化け猫が入るサイズになった。

「出来ました!」

「了解です。これより、箒を大きく揺らします。しっかり捕まっていてください」

 言い終えるよりも早く、箒を大きく蛇行させる。

「ああああああああ!」

 身構えるのが遅かったキリシマは、必死の形相で柄にしがみつき、大声を発した。


 ◆  ◆  ◆


「絶好の天体観測日和だねえ」

 空を見上げながら、ローブを着た男が呟く。
 ミティと同じ深緑色の髪に、黒い瞳。キリシマと同じように危機管理室の腕章をつけていた。
 男の手には、冷めてきたホットミルクのカップが握られている。
 その隣には、茶色の髪をキッチリとまとめ、全身のラインに沿ったスーツを着た女性が立っていた。

「部長……妹さんが心配なのはわかりますが、いちいちいちいち様子を見に来ないでください」

 呆れが混じった声音で発する。
 男は気にした様子を見せず、天体観測を続けながら口を開いた。

「邪魔(てだすけ)しないだけましだろう?それより、ミルクおかわり」

 ミルクはホットに限るからね。

 柔和な笑みを見せて語る。
 女性は深々とため息を吐き、杖を用意した。




end

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