お題2

□魔王と執事U
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魔王と執事U

下記二作と同シリーズです。
魔王と執事
魔王と勇者

「やっぱり、魔王なんてやってらんないわ」

 玉座に座り、アキはため息を吐く。
 眼前に居るのは、勇者の鎧を身に付け、黒いマントを羽織った男たちだ。
 身体は横に大きく、身長は低い。
 剣を構えてはいるが、腰がひけている。
 どうやら、城下の村が村おこしで開催している勇者の魔王退治に参加した一般市民のようだ。

「ま、魔王!今日こそは、我ら勇者が、た、退治してくれる!」

「お、お、となしくお縄につけ!出来れば、亀甲縛りでお願いしやすっ!」

「その前に写真撮影お願いします!」

 どこに隠し持っていたのか。
 縄やら一眼レフカメラを持ち出し、勇者を名乗る男たちが願い出る。
 村おこし……つまり観光事業。魔王との撮影やら握手やらも、魔王退治に入るようだ。
 一息吐いて、アキは立ち上がる。
 肩下まで伸ばしたサラサラの緑髪を、鬱陶しそうに後ろへ流し口を開いた。

「写真撮影は許すけど……亀甲縛りはなし!」

「えええええええ!」

「えええええええ!」

 男たちとは別の声が謁見の広間に響く。
 声のした方を見ると、アキの執事であるセバスチャンが、非常に残念そうな顔をして立っていた。
 その手には、デジタルカメラとビデオカメラが握られている。傍らには、ご丁寧に三脚が置かれていた。

「てめぇは何を撮るつもりだったんだッ!?この変態執事(すっとこどっこい)!」

 黒と白を基調にして作られたフリル付きのミニスカートを翻して跳躍する。
 チャンスとばかりにカメラを構えるセバスチャンに対し、跳び蹴りをお見舞いして見せた。
 勢い良くセバスチャンが吹っ飛び、背中から壁に激突する。
 最後に見えた景色が何だったのかは定かではないが、セバスチャンは幸せそうな表情をしてカメラを再生していた。

「これなら……イケる!」

「何の話だ!」

「なんでもないです。お気になさら、このシーンやべえッ!」

 言葉を唐突に終わらせ、食い入るように画面を見る。
 その間に、観光勇者たちがわらわらとアキに歩み寄り、膝をついた。

「魔王様ーッ!」

「我らにもお恵みをーッ!」

「跳び蹴りのお恵みをーッ!」

「誰がやるかああああああああああああああ!」

 今日一番の雷鳴が、広間に轟いた。




end

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