最強夫婦の物語
□第17話:アスナと明日菜
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「なんじゃ、それは」
一緒に暮らし始めてから1年。九郎が床下から取り出したのは小さなツボ。
中に入っていたのは何かの薬のようじゃが………。
「蓬莱の薬だよ」
「ほう、なるほど………なっ!?」
ほ、蓬莱の薬じゃと!?
蓬莱とは仙人が住むとされている伝説の地。そして蓬莱の薬とは、飲んだ者を不老不死にする妙薬と言われておる。
何故そんなものをそなたが持っておるんじゃ。
「昔、お母さんがお母さんのお師匠様から預かったものなんだって」
し、信じられんのう………。
いったい何者なんじゃ、そなたの母君の師というのは。
「知らない。ボクが生まれる前の話だし、お母さんもそのお師匠様から『絶対誰にも使わせるな』って言いつけられてたみたいだから」
「なら、何故そんなもの預かったんじゃ」
そうは言ってみたが、その理由はだいたい想像が付く。
人間誰しも「死なない」身体には憧れる。妾達のような存在とは違い、人間は数十年ちょっとしか生きられぬ。中でも権力者という輩は特にその傾向が強い。
恐らく、その師匠とやらはただ捨てるのは危険だと判断し(自然に還したとしても、環境その物が影響を受ける危険がある)、薬を管理する信頼出来る人間を求めた。それが九郎の母君だったのじゃろう。
「ボクはさ、これ使ってもいいな〜って思ってる」
「え?」
「だって、不老不死になったら瑪瑙とずっと一緒にいられるじゃない」
無垢な笑顔を向けてくる九郎。
妾と九郎にもいずれ別れは来る。妾は妖で九郎は人間。寿命の違いによって九郎はこの世を去る事となる。
「………九郎」
そう言い、強く抱きしめた。
妾とて、九郎と別れたくなどない
しかし、「死なない」のではなく「死ねない」事がどれだけの苦痛なのか。
妾もそれに近い存在であるために、その思いは分かる。
(願わくば、この子がそんな苦痛を背負う事が無いように………)
しかし数年後、妾の想いは脆くも崩れ落ちる事となる。