最強夫婦の物語
□第10話:逃れられぬ過去
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妾はまぁ、基本的に専業主婦じゃから、玖楼の仕事を手伝ったりする事は少ない。
麻帆良では一般人じゃからな。下手に人前で力を使うわけにはいかんじゃろ?
これまで力を使ったのは覚えている限り2度。
1度はあのウサギがバカしでかした5年前の事件。何でも関係者の間では「篠ノ之束の乱」と呼ばれているらしい。
そして2度目は………去年の今頃じゃったか? 巷では「銀の福音事件」と呼ばれている事件。妾も詳しい事情は知らんが、何でも大学の方で極秘裏に行われていた実験機が暴走したとか。
裏の事も絡んでいたらしく、学園の魔法先生達も鎮圧に駆り出され………妾もちょっと暴れたぞ? まぁ、気づかれないようにしたが。
その事件に巻き込まれたのが、現在本校2年(来年度は3年)の織斑一夏、というわけじゃ。
で、何で妾がそんな話をしているかというと………。
「………というわけで、最近追求が厳しくなってきまして」
今、妾の前では玖楼に相談する当の本人がおるからじゃ。
幼なじみから「剣道を辞めた理由」を追求され、困っているのだとか。
「やっぱり、理由を話すにしても1年前の事も話さないといけなくなりますし………」
「あ〜………」
玖楼も困った様に、妾と顔を見合わせる。
「とりあえず、経済的な問題で剣道を辞めざるを得なかったって説明すれば?」
事実、5年前に剣道を辞めたのもそれがあったからじゃろ?
織斑家は姉と弟2人だけじゃし、経済的にも問題を抱えているのは明白。
剣道というのは、防具の維持費や合宿費用などでもなかなか金銭的に響くようじゃし、その辺りの事情から剣道を辞めたと聞いておる。
嘘は言っておらんのじゃし、それを言えばよかろう。
「………それ、もうしました」
「「え?」」
「そう説明したら、『それなら奨学金がある。お前の腕ならそれくらい容易いだろう!』と自信満々に言われました」
妾達は思わず、天を仰ぐ。………麻帆良は部活動が盛んな学園じゃから、その辺りが裏目に出たか。
ちなみに奨学金とは、優秀な成績を収めながらも家庭内などから「金銭的・経済的」な問題(貧乏だったり片親だったり)を抱えている生徒のために進学などの費用を給付する制度の事じゃ。
麻帆良学園でもそれは例外では無く、成績以外にも部活動に力を入れているため、部活で優秀な成績(大会などで入賞)を収めている生徒にも、この制度は適用される。
妾はこれでも、麻帆良学園教師の妻じゃからな。この程度の事くらいは知っておる。
「まぁ、そりゃそうなんだけど………君自身、有名になるわけにはいかないもんね」
剣道を辞めたのも、その辺りの事情があったからの。
しかし………そのほーきなる女子にも困ったものじゃな。完璧に昔のお主しか見ておらんではないか。
「ですよねぇ………俺、剣道辞めて5年経つんですけど」
「そりゃあ、1年前のあれこれがあって今も修行中って言っても、それが剣道強いに繋がるとは言えないしねえ」
「それで下手したら、『その根性をたたき直してやる!』って剣道場に連れ込まれそうですし」
「確かに」
しかし、本当にどうするのじゃ?
相手が篠ノ之ほーき1人ならともかく、あ奴の周囲には他にも女子がいるじゃろう? 中には「せかんど幼なじみ」とやらもいるそうだし、下手な言い訳は通用せんぞ?
これまでの様子から、どんな言い訳しても止まりそうに無いのが本音じゃが。
「そうなんですよね………マジどうしよう」
頭を抱えてテーブルに突っ伏す織斑一夏。
頭の痛い問題じゃのう。下手に嘘を吐けば、それを追求されてボロを出しかねんし………本当に困った。